序章
そう遠くない昔、太陽が沈まなくなってしまったのだ。
何故そのような馬鹿なことが起こったのか、世界の調和が乱れてしまったのか、誰にも分からなかった。
それに加え、この太陽が沈まなくなったという事実を知ったのは最近になってからだ。
まず最初に気付いたのは、世界の中心地から東方の人が殆ど住んでいない未開の地を調査しに行った人たちだった。
もともと太陽が沈まない場所があることは知っていたが、しかしそれは数日間に限られたことだった。
調査した日から一か月経った時、まだ太陽が昇ったままであると気付いたのだ。
気づくのが遅いと思うことなかれ、調査に集中していれば日にちの感覚が分からなくなるし、天候は雨で無い限り続けられるのだ。
雨も降らずこれは良い日に恵まれたと思っていた。
そして徐々に周囲にあった植物たちがみるみる萎れていくのを見て何故かと考えた。
始めは単なる異常気象だろうと推測された、放っておけばそのうち元通りになると。
そう結論づけたが、調査団の中に身体の不調を訴える人が出てきたので詳しくは調べず帰国することになった。
国への報告は為されたのだがこれが非常事態だとは伝わってはいない。
この国では今まで通り朝太陽が昇り、夜には沈む、誰も信じようとはしなかった。
住民に説明などすること無くいつしか忘れ去られていった。
それから調査は数回行われたが、この時も太陽は沈まなかった。
原因が分からないまま調査自体打ち切られてしまった。
時が経ち、東方の更に行った土地では雨を忘れてしまい飢え始めた。
木は枯れ、水も枯れ、砂漠化がどんどん進んでいく。
そして、気づいた時には身近に迫っていたのだ。
徐々に範囲は拡大していき、ついには人々の住む場所にまで到達した。
「何をバカなことを」と言っていた国王が東方の砂漠化した土地を見に行った時、これは国の存亡に係わると大騒ぎになった。
「何故早く知らせなかったのだ」「報告はしましたが誰も信じていませんでした」などと。
国の科学者・天文学者・物理学者、あらゆる分野の学者を集められ、この非常事態をどう回避するか話し合いが始まった。
だが何かを提案して実行しても悉く失敗に終わり、打つ手なし。
太陽が沈まないのを沈ませるなんてどう考えても出来やしなかった。
このままどうにかなるまで指をくわえて待つしか無かった。
このまま滅亡してしまうのだろうか。
その時はいつになるのだろう、十年?二十年後?もしかしたら明日かもしれない。
不毛地帯になった地域で名産だった物は最早収穫できなくなった。
世界は太陽に照らされながら死滅していくのだろうか。
人々はさ迷い、助けを求めるように西へ西へと逃げて行った。
地下で暮らそうと穴を掘り始める人が出てきた。
砂漠化した場所で今も生活している人もいる。
しかしどうすることも出来ない、遠いようで近い未来に不安を抱えながら今を生きようとした。
大昔・・・言い伝えでしかない伝承話がある。
空から落ちてきた隕石の中に一つの宝石が埋まっていたという。
隕石が降った地域に住んでいた富豪がこの宝石を手に入れると、人が変わったように人々を支配し一つの国を作った。
富豪は国王となり、何世代にも渡り国を支配した。
長い支配の間に国民は先祖から聞いていた宝石の力を知っていた。
国王の持つ宝石は人を屈服させる力を持っていると。
だから逆らえない、逆らうだけ無駄だと。
しかしついに溜まり溜まった不平不満と悪政に耐えかねた国民が反乱を起こした。
長く続くと思われていた反乱は国民の圧勝だった。
王宮を警備していた兵士も国民に味方したからだ。
国王は捉えられる前に自らの命を絶ってしまった。
国民の代表者たち数人が宮殿の奥にしまわれていた宝石を見つけ出す。
「これは聖戦だ!皆、この戦いを忘れることなかれ」
そう言いうと、宝石をいくつかに砕き各々欠片を手にし
「勝利の証だ!」「我らの勝利だ!」
割れた宝石を胸に反乱は終わった。
こうして分割された宝石は各地に散らばっていった。
時は過ぎ、宝石の欠片を手にした者は幸福が訪れ、地位も名誉も思いのまま。
しかし身を滅ぼし全てを失う者もいた。
その欠片を持つものは人を狂わせたり人を幸せにしたりするとされ、幾人の手に渡っていった。
いつしかその欠片を全て集め、元の姿に戻した時に世界が滅亡するとか何でも願いが叶うとか言われている。
本当なのかは定かではない、その宝石の欠片自体存在するのかは怪しく、ただの昔話として語られているだけである。
今もう一度、元の姿に戻ったとしたら、その時はどのようなことになるのだろうか。
ある少女が立ち上がった。
言い伝えでは宝石の欠片を集めて一つにすれば願いが叶うと。
どこにあるとも知れない物を集める事、そもそも言い伝えでしかない事を信じること。
誰もが笑い誰もが馬鹿にする。
「そんなこと知るか!」といった思いが心の奥底で叫んでいる。
このまま過ごしていたら世界は太陽が沈まなくなってしまうという漠然とした恐怖。
それ以上に募る思い。
欠片さえ集まれば何とかなると。
寝ても覚めても思うことはそのことばかり。
何が正しくて何が悪いのか、まだ分からない。
でもどうしても何もせずにいることはできなかった。
「私が宝石を集めて世界を救ってやる」
傍から見れば戯言を言う子供だ。
「そんなの無理って話だ」
「誰も何もせずに無理って何故言える?」
そう返すと誰も反論できない。
「私がやらないと、誰かがやってくれるなんて思えない」
扉を開け歩き出した。
「行ってきます!」
誰もいない部屋に空しく響いた。




