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見習い魔法師の暁星刻印《スターピース》  作者: ゆっち
第1部 災厄の星刻印 《スターピース》
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第1章 見習い魔法師の魔法学校 07

 体育館。身体を育む館と書くのだが、現代ではどちらかと言うと魔育館と呼べそうだ。勿論、呼べそうなだけであって呼ぶ人は恐らくいないのだが。

 その体育館であるが、魔法を放つという点を考慮してか壁や床、そして天井までもが含有自然魔力人工壁(モノリス)と同じ作りになっている。例えば火属性魔法を放ったとしても、それは壁の能力ですぐに消滅する、というわけである。


 この、魔力を貯める性質を絶縁体のような使い方にする考えは中々なものだと思う。そのため、実践時に怪我をする人は居れど、死亡者は激減したらしい。


 つまり、多少の怪我は許されるのだ。


 ◇ ◇ ◇


「よぉぉおおおし!! 喰らいやがれ! 精進料理定食の恨みいいぃいい!!」


 今現在俺たちは第二体育館と呼ばれる方でドッヂボールを行っている。そして、投げている人間はセリフから察するに勿論蒼。受ける人間は勿論俺である。

 そもそも、精進料理定食になったのは俺のせいではないのだが……言っても聞かないであろう。


 ドッヂボールは壁外(スラム)でも行ったことがあるため俺がルールを知っている唯一のスポーツ競技だ。

 と、そんなこんなでドッヂボールが目の前に飛んできたのだが、


「問題ない」


 一瞬にしてボールが消えた。


「なっ!?」


 敵チームの蒼、その他のEクラスメンバーが驚愕する。だが、この程度で驚かれては困ってしまう。何故なら彼女(・・)の力はこの程度ではないからだ。


「ふごっ!」


 ドッヂボールが蒼の顔面に激突する。そして、ボールがまた消える。激突、消失、激突、消失を何度か繰り返した後にホイッスルが鳴り響く。結果は完全勝利であった。


「蒼、どうだ……これが忍者の力だ!!」

「き……汚ねぇ……」


 それが蒼の最後の言葉となった……。


「あれ? もう終わりっすか?」


 蒼が無様に倒れたのちに、俺の目の前で翡翠が姿を現した。


「あはは……そりゃ、翡翠さんが全力を出したらすぐ終わっちゃうよ」


 俺の苦笑いに対し、翡翠は「二割も出してないっすよ……?」と呆れ顔をする。


「もしかしたら、一割もいらなかったかもしれないね」

「そうっすね。あおっち相手にはそれぐらいでいいかもしれなかったっすね」


 そんな雑談をしていると、チャイムが第二体育館に響く。どうやらこれで五時間目は終了らしい。しかし、六時間目も実践なので教室移動はせず、俺はそのまま壁に背を預けて座る。


「あれ? 蒼。どこ行くんだ?」


 俺が座ると、蒼が体育館から出ようとしていた。


「いや、別に。トイレだよ」

「あぁ、そうか。呼び止めて悪かったな」


 それでは翡翠と話をして待っていようと思い、彼女の方に視線を向けると、


「くろっち、じゃあ、自分もちょっと野暮用があるんで」

「ん、あぁ。いってらっしゃい」


 こちらもトイレのようである。

 二人の後ろ姿……翡翠は一瞬で消えたが……を見送り、ふぅ、と溜息。


 ーーさて、こっからどうしよう。


 よくよく、というより普通に考えて分かったのだが、転校初日だというのに俺はテンプレ(?)の転校生質問攻めというものも受けていない。故に俺に対して興味を持ってる人間も少なく、話せる人間もいないのだ。


「ねぇねぇ、暁くん?」

「ん?」


 そんなことを考えてぼーっとしていると、名前を呼ばれた。そちらを振り向いてみると、数人の男女がいるのだが、


 ーー全員知らないや……。


 辛うじてEクラスの人間だというのは、体育着ジャージのネームでわかった。しかし、全員見知らぬ人間であったため少しばかり緊張してしまう。


「えっと、何のよう……」

「あ、あの! 転校初日だから、暁さんのことをよく知りたいなぁ……って」

「なぁなぁ暁。お前のこと黒菜って呼んでいいか?」

「あ、それいいな。俺も黒菜って呼ぶけどいい?」

「じゃあ、私はくろっちって呼ぶ!」


 息つく暇もない。


「み、みんな? ちょっと落ち着いて……」


 勿論その程度の反応では落ち着くわけもなく、質問、というには些か反応に困るものばかりを投げかけてくるクラスメイト。どうやら、話しかけたい気持ちはあったのだが、蒼と翡翠が常に近くに居るせいで話しかけにくかったようだ。そうとは言え、みんなの質問攻めは流石に対処に困ってしまう。


「あの……えっと……その……」


 その時だった。


 第二体育館の喧騒の中で、綺麗なソプラノボイスが響いた。


「みなさん。黒菜さんが困ってますので、少し落ち着いてください」


 声のする方向は、人の壁の先。しかし、その声が聞こえたと同時に人の壁が波のように動いていく。そして、俺と彼女の間に人が居なくなると、彼女は周りの人間に向けて話をする。


「黒菜さんは、これからあなた達と同じクラスで一緒に生活をするんですよ? 逃げたりはしませんし、一人ずつ、ゆっくりと友人になっていくべきだと私は思います」


 シロは、ゆっくりと丁寧に、優しく諭すようにそう言った。


「シロ。お前、第一体育館の方で実践練習してたんじゃ……?」

「はい。Aクラスは第一体育館の方でしたが、現在は休み時間ですので。少し用事を思い出して、ここに来ました」

「用事って?」

「いえ、急ぎでは無いので、皆さんとの会話が終わってからで良いですよ」


 どうぞ、と周囲の人間に言うのだが、この空気で話しかける勇者はいないようである。今回の場合、確かにシロのおかげで助かったのだが、失敗な気もしなくもない。蒼たちのせい、とは言いたくはないが、蒼たちが居ることによって話しかけにくかった俺が、またシロがいるために話しかけづらい。と、思われてしまいそうである。


「まぁ、別に良いんだけどさ……」

「はい? どうしました?」

「いや、気にしないでくれ。みんなも黙っちゃってるし、シロ。先に用事の方言ってくれ」


 周囲の人間に見られながらも、シロは「本当に大したことではないのですが」という前置きをした。


「生活用品があまりにも少ない気がするので、休みの日に一緒に街に行って買い物をしませんか?」


 なるほど。確かにシロはダンボールの中身を見てそう言っていた気がする。生活最低限という気がして、窮屈だ。とか、何とか。


「うん、寧ろこっちからお願いしたいぐらいだよ。ありがとう」

「いえいえ、別に。それでは、また後で」


 お辞儀をして、その場を立ち去ろうとするシロ。だが、その動作の途中でEクラスの人間から不審な言葉が漏れた。


「それって……デートじゃ……」


 俺が固まった。シロがお辞儀の体勢のまま固まった。クラスのみんなが動き出した。


「あの冷血女、シロとデートだって!?」

「黒菜、てめぇいつの間に!!」

「黒菜さん……」


 先程の倍以上はある声量で、俺とシロの関係について言及してくる内容が飛び交い始める。解答としては、俺の教育係。で、終わりなのだが、この場で言ってもスルーされてしまう。


「ちょっ、みんな……シロもなんか言えよ?!」


 クラスメイトにもみくちゃにされ、シロに助けを求めるが未だにお辞儀の体勢で固まってしまっている。そんな彼女の方には、Eクラスの女子が話しかけていた。


「ちょっと、シロさーん。いつの間に彼氏なんて出来たんですかー?」

「ち、違います! 彼とはそういう関係ではなく!!」


 やっと動いたが、赤面しながら言い訳をしてもこの人達には効果はない。というより、寧ろそういう関係である、というものの確信に繋がってしまう。そんな事実は無くても、そう思われてしまうだろう。


 ーー俺としては、こんな可愛い彼女が居たら嬉しいんだけどね……。


 それはシロがどう思うかは別としての話である。シロとしては、恐らく存在しない事実を事実のように言われ、迷惑としか思えないだろう。よし、止めよう。


「みんな? 俺とシロはそういうんじゃなく……」

「シロ様。どうしたんですか? Eクラスの使えない奴らに邪魔されているようですが?」


 俺が止めようと声をかけるのとほぼ同時に、廊下の方から大きい声でそう聞こえた。


「裕也さん……」

「これはこれは、シロ様。(わたくし)の名前を覚えていてくださったのですね」


 裕也と呼ばれた男。ネームを見る限り、シロと同じAクラスのようだ。綺麗に整えられた坊ちゃんヘアー。口調に見合ったきびきびとした身体の動かし方。しかし、初見でプライドが高そうな人間だと感じる。


「え、えぇ。同じクラスですし、覚えてるのは普通だと思います」

「それで、シロ様? どうなさったのですか? このような下賤の者と戯れて、シロ様が汚れますよ?」


 プライドが高いというより、傲慢な性格のようだ。Eクラスの人間を完全に見下している。

 そして、当然のようにそれにクラスの人間が反応した。


「おいお前。いきなり出てきて、使えないとか、汚れるとか、ふざけてんのか?」

「おやおや、これはまた汚い言葉遣いだ。シロ様。行きましょう」

「え……」


 手を引かれ、第一体育館の方へと連れて行かれそうになるシロ。その光景を見ていると、彼女と目があった。その瞳が何故か悲しそうで……


「おい、坊ちゃん頭。少し待てよ」

「…………それは、私のことかな?」

「こん中で、そんな特徴的な頭してるやつはお前しかいねぇだろ」


 男は止まる。


「それで? 何の用だね? 私は一刻も早く、この薄汚い空間から消えたいのだが?」

「それはお前の言い分だろ? シロはそう言ったのか? お前と、一緒に、ここから、移動したいと?」


 男は振り向く。


「そうは言ってないが、シロ様もそう思っていたに違いない」

「そうか、だとしたら俺の知ってるシロとお前の言ってるシロ様とやらは、別の人間らしいな」


 男は向かってきた。


「何が言いたい?」

「謝っていけよ。クラスのみんなに、それとシロにも、だ」


 睨みを効かせる。喧嘩は外壁(スラム)で何度も経験してきた。この程度、いや、寧ろこんなひ弱そうな人間ならば簡単に脅せる。

 そう思っていたのだが、相手は笑った。


「面白いなぁ。何故私が、このような低レベルな人間を相手しなくてはならないのだ? Eクラスはトライピースが一人しかいない落ちこぼれだろう? 私もトライピースだが、戦術ランクAの人間なのだよ。将来国を支えるべき私やシロ様がここにいるべきではないだろう?」

「低レベルな人間ねぇ……じゃあさ」


 相手は魔法という点で俺たちに勝ってる。勝っているが故に、この態度だと言うのならば、


「俺と戦って、負けたら土下座して謝れよ」


 その鼻をへし折ってやる。

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