第1章 見習い魔法師の魔法学校 03
今回も説明が多いです。最初の設定説明って書いてるの楽しいけど、読むほうとしてはつまらなそうで悩むところですが、次回からはまともに学園生活を送ります。え? ファンタジー? ナニソレ?
誰もが魔法使いになれるわけではない。
魔術師には誰でもなれるが、魔法使い、通称魔法師には才能が必要なのだ。ちなみに、先に述べた魔術師だが、これは魔法を用いた技術を使える人間。ようは、科学者の魔法版。研究者というわけだ。
魔法の研究は誰にでも出来るが、魔法を使役することは魔法師の才能を持つ限られた人間にしかできない。だが、しかし、魔法は未だに解明されていない点が多い。故に魔法師は自在に魔法を使えるわけではない。制約があるということだ。
例えば、魔法は最大で五つしか覚えることができない。
有名どころではこれだ。魔法師の才能を認められた人間の手の甲には、刻印が生まれる。これが、星刻印という。名前の由来はひし形の一角を伸ばしたような刻印が、星の模様を描くかのように刻まれるのだ。勿論、五つの魔法を覚えた者限定ではあるが、五つが星の形をして並んだ姿を見て名付けられたのがこの星刻印という名である。
その他の制約で、有名どころは三つ以上の刻印が無ければ魔法が使えない。である。
刻印一つ一つに、一つの魔法が埋め込まれているのだが、それをきちんと理解したとしてもその魔法は刻印が足りなければ意味がない。刻印三つの人間をトライピース。四つをフォースピース。五つをスターピースを呼ぶが、その下は呼ばれない理由がそれである。
◇ ◇ ◇
ーーと、まぁ、シロの講座を長ったらしく要約したが、更に要約すると刻印が魔法師の証、刻印が三つ以上あると生まれて初めて魔法を使える。かな?
「ちゃんと、分かりましたか?」
「あぁ、勿論」
勿論、要約に要約を重ねてようやく理解できた。
「それは良かった。私は説明が苦手だから、それで、お前の教育係を任された時は拒否したんだけど……理解してもらえたのなら、本当に良かった」
屈託の無い笑顔でシロがそう言う。駄目だ。綺麗な笑顔すぎて何も言えない。俺の心汚さが滲み出てくるようだ!
「んー……これで、ダンボールの荷物は全部出したんだけれど……」
「どうかしたのか?」
出したものは、主に着替え、そして勉強道具。思った以上に中身は少なかった。だが、別に気になるようなことは何もないと思うのだが、シロはそうでは無かったらしい。
「生活最低限。といった感じで、少し窮屈そうですね」
「そうかぁ? 俺にとっちゃ、替えの服があるだけで大喜び出来るんだけど?」
瞬間、シロの顔が曇った。
「あ……い、いや、別にお前が気にすることじゃ……」
「壁外とはそんなに厳しいものなのですね……」
壁外。魔術の恩恵が与えられない、貧困地域のことだ。勿論、ここ魔法学校は壁内で、電気も水道も魔術によって整備されている。だが、魔力が観測されてまだ百年。世界中全てが整備されるわけがないのだ。
そして、壁の外と内と称される理由は魔力を効率よく集め、蓄える施設である含有自然魔力人工壁のせいでもある。世界各国の主要な都市に置かれているが、この大きさが外と内の人間の物理的な、精神的な壁となっているのだ。
「それに、俺は別にそういうの気にするタイプじゃないから」
「そう……言ってもらえるのなら、助かります」
やけに湿っぽい感じになってしまった。ここは、男として俺がなんとかせねば。
「じゃあ、そろそろ晩御飯の時間になるんじゃないか? さっさと済ませちまおうぜ!」
「……そうですね」
というわけで、食堂へ移動することになった。学生寮は初等部、中等部、高等部が勿論だが、存在し、食堂などの施設はその中間地点に位置する。そして、食堂には使用時間が決められており、高等部は一番最後になっているらしい。確かに、全学年が乱れて入ったら混乱にもなってしまうだろう。
「それで、食堂ってのはどうするものなんだ? 自分で飯でも作れば良いのか?」
「いえ、違います。あそこの食券売り場から食券を買って……と言っても、食券は無料ですけど、その食券をあそこのカウンターの人に渡せば料理が貰えるという感じですね」
無料の理由は、全メニューが均一の値段で、食費は魔法の国立学校だ。国家が出してるらしい。
いや、それ以前に、
「自分でやらなくてもいいのか……堕落しそうだ……」
「そんな、堕落しそうだなんて、これぐらいで人間ダメになったりしませんよ」
「じゃあ、逆に問おう。シロよ。貴様は料理が出来るのか?」
シロが唐突に固まった。その様子で大体の事は理解できたが、一応黙っておく。俺はシロを素通りして鮭定食の食券を購入し、カウンターに出した。というか、今一瞬見た食券売り場だったが、精進料理定食なんてのもあるんだな。と、感心してしまう。
「べ、別に? 生きていく上で絶対必要なことでもないわけですし? いざとなれば、人間なんだって出来るからそんなに問題視するようなことじゃないわけで、それに、そもそもの話だけど食べられれば良いわけなんですよ。だから、別に食べ物に質や味を求める事自体がおかしいわけで。私としては人間は必要最低限で生きていけると思います。はい」
精進料理定食に感心していると、シロが何か早口で喋っていた。いや、そこまで必死にならなくても……。
「まぁ、取り敢えずシロの言い分は理解した。そうだな。人は必要最低限でどうにかなるものだ」
「そうよね! 貴方もそう思うわよね!」
あぁ、そう思う。前からそう生きてきた俺はそう思う。そして、堕落した人間よ。これが現実だ。
「つーわけで、お前は必要最低限の精進料理定食で良いんだな」
「え」
俺はシロの手を取り、食券機の精進料理定食を押してあげた。
うん、俺超優しい。