第1章 見習い魔法師の魔法学校 02
この世には魔力を用いた技術が二種類ある。
「魔術」と「魔法」だ。
魔術は魔法技術の略称であり、魔法を用いた技術のことを指す。例えば、この街の動力源は百年前と変わらず電気だが、その電気は魔法を用いて発動している。つまり、魔術。
後者の魔法に関しては、魔術の話から察するに技術では無い。というわけだ。魔力を制する方法、といった感じである。先ほどの例で言えば電気を起こす、というその行為を魔法と言う。
そして、ここ国立ユースティティア魔法学園では魔法を学ぶのだ。
◇ ◇ ◇
「これが、魔法と魔術の違いです。理解しましたか?」
「あ、あぁ。ありがとう、しっかりと理解した」
実際のところ、シロの説明だけでは全く理解できなかったので、適当に要約してみたのだがあっているのだろうか。
学生寮に着くまで、廊下でシロが特別に教えてあげると言って魔法と魔術の違いを話してくれたのだが……
ーー知識はあるけど、それを教えるのは苦手ってことなのかな。
若干苦笑いになってしまうほどに説明が下手だったのだ。余分な話が多い上に例え話がほぼ無い。先ほどの電気を起こすうんぬんのあたりは、俺がなんとか理解して分かりやすくするために自分で考えたほどである。
「なんですか、その微妙な表情は?」
「い、いや、別に」
心の内までは見えないだろうが、俺の引きつった笑みに不信感を抱いた模様だ。気をつけねば……。
「さて……と、ここが学生寮です」
「え……」
急に立ち止まり、扉を見つめるシロ。だが、明らかにおかしい。廊下の右側は教室なのだが、左は窓なのだ。だというのに、目的の扉は左についている。
つまりは、扉の先は何もないのだ。
「えっと、俺に飛び降り自殺しろと?」
「わ、私がそんな酷い奴に見えますか?!」
すいません。見えます。結構シロさん怖い人です。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
とは、口が裂けても言えないのでそう呟く。
「まぁ、壁外に住んでた訳だしあまり馴染みがないのかもしれませんが、これは簡単に言うと転移魔術の扉です」
「転移魔術? って、ことはここを開けると学生寮に繋がってる訳?」
「ちゃんと説明するのはあれだから、大雑把にしますと、ここの空間と学生寮の空間を繋げているのよ」
話によると、壁内とは言え学生寮と学校のリアルな距離は数十キロに渡るらしく、それのショートカット用に作った。というのと、学年ごとに階が分かれているため高等部二学年の教室からすぐに行けるようにセットした結果がここになったらしい。
魔術や魔法の知識がなければただの自殺用扉に見えないというのがネックだが、確かに便利である。
「それじゃあ、入りますね」
今度はシロ、俺、の順番に扉を抜けた。
「これが……学生寮」
俺は感嘆の声をあげた。
学校は白を基調とした、凛としたイメージの風景だったが、こちらは木造建築の暖かみを感じる建物である。
学校の白い廊下から、木造の廊下に急に移動したため若干戸惑いはしたものの格段気にすることではない。
「次は部屋に案内します。荷物は全部届いてる……というより、貴方の場合支給されてる筈だから開封作業とかで時間をとる筈だから少し急いで」
「了解です、と」
扉をまじまじと見ていた状態から、綺麗に回れ右をしてシロの後に付く。
番号3291。初等部を1、中等部を2、そして高等部を3とし、二学年の九十一番。という意味らしい通し番号が名札の代わりに扉の横に書いてあった。どうやらこれが俺の名簿番号らしい。
名簿はしっかりと、覚えないとな。語呂合わせでもしておくか。3291、醜い。かな。うん、やっぱやめておこう。
「この3291部屋が貴方の部屋です」
「おい、それを言うな」
俺の中で留めておいたものが、目の前の女性から出されてしまった。さっきから薄々感じてはいるが、こいつ、ちょっと棘がある。俺に冷たい、というか、何というか……。
そんな思考を頭の片隅で動かしながら、俺はドアを開け、部屋に入る。
簡易的なベッドと、勉強机、そして、ダンボールの山。これを一人で捌くのか、時刻は不明だが陽が傾き始めている。これは夜までかかりそうだ。などと、思っているとシロがダンボールの前に座った。
「ん? お前何して……」
「黒菜さん、早くしてください。晩御飯の時間は決まっているんです。それまでに終わらせないと」
「まさかお前、手伝ってくれるのか?」
「……? 当たり前でしょう? それとも、やる気がないと言うなら手伝いませんけど?」
前言撤回。
「いいや、やるよ…………ありがとな」
こいつは、いい奴だ。