泥の中の人
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――では、まとめに入ります。
この村では確かに田んぼでは『人ならざる者』を見かけることがあります。
しかし、それは昔話や怪談、都市伝説のように極稀に見かけるなんてものではなく、日常的に見かけるようなものです。
それこそ、生徒の皆さんが散歩に行く途中や学校へ行く途中に近所の人に出会う程度の感覚ですね。
『おはようございます』
なんていえば、近所の人はこう返すでしょう。
『おはよう』
なんて。
その人はもしかしたら犬の散歩をしているかもしれません。
お買い物の途中かもしれません。
家に帰るところかもしれません。
いずれにせよ、あなた達はその人のことを特に気にしたりはしないでしょう。
だって、日常のことなんですから。
この村で見られる『泥田坊』達もそれと同じです。
大体の怪談話では『田を返せ、田を返せ』と泥まみれのまま口にし続ける存在です。
他の地域ではその姿が恐ろしかったり、あるいは不快だったり、あとは単純に人の世界で異物と認識されたり……いずれにせよ『排除すべき対象』となりやがて消え去ってしまいました。
一方でこの村では早い段階から『日常』として扱うようになりました。
『田を返せ』と主張する泥田坊に声をかけ、話し相手となり、訴えを聞き、折衷を重ね……いつの間にやら村の一員として受け入れたのです。
もっとも、当時は流石に奇異の目で見られたものですが、現代では村の皆さまは口にしますよ。
『田んぼのことを一番よく知っている』
『田んぼのことで困ったことがあれば泥田坊に聞け』
『若い者が外にばっかり行くから、泥田坊は救世主だ』
なんて。
私の方が何百歳も年上なので若者が外に行く問題と並べられるのは奇妙なもんですが……。
まぁ、ともかく。
私こと泥田坊は田畑が消えつつある現代においても、こうしてしぶとく生きておりますし、村の皆さまに依頼をされてやってくる『人間以外との共存について考える授業』を受けに来る生徒の皆さまにこうして講師を行っているわけです。
今回の学びで皆さまが少しでも得るものがあれば幸いです。
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