勇者転生
何もない。
何もなかった。
持っているもの、これから手にするであろうもの、才能、おおよその希望や成功と言ったものとは無縁で、僕は日々生きる事に必死だった。
世界では才能の溢れる人々が活躍している。
それなのに僕には、何もないのだ。
ただ生きる。
生きていく。
そんな毎日にほとほと嫌気がさしていた。
「お前、こんなことも出来ないのか?」
とある、物流センター。
ここでは、毎日配送物が納品され、検品、全国の商店へ出荷されている。
そこで僕は各出荷先へと物品を仕分ける仕事をしている。
しかし、仕分けに際して失敗が続き、上司に呼び出されていた。
「本当にすみません」
「すみませんじゃないよ。いや、一生懸命なのはわかんのよ。でもさ、一生懸命かどうかは問題じゃないの。きちんと仕事ができるかどうかなの。」
「本当にすみません。以後このようなことの無いよう…」
「以後以後さぁ、お前の以後はいつだよ?
もう無理だよ?庇いきれない。」
「と言うと」
「書いてよ、退社願い。せめてもの俺からの温情だと思ってくれ。」
「…わかりました。」
そして無職になった。
自主退職ということで多少の退職金を貰い、なんの才能もない僕はぼんやり考えていた。
(転生してぇー)
(ばきばきのチート能力を手にして無双してぇー)
身のない想像、現実逃避である。
僕はスマホを手に、なろう系の物語を読みながら歩いていた。
「危ない!」
何処からか叫び声が聞こえる。
はっと気づいた時には遅かった。
その声は僕に向けて発されたもので
僕は駅の階段を踏み外し20段近くある階段を転倒した。
転げ落ちながらも僕は考えていた。
(転生してぇなぁ)
目を覚ます。
真っ白な空間。
「目覚めましたか、勇者」
僕は裸で、目の前に美しい女性が立っている。
「え?あの、ここは?」
状況が飲み込めず、女性に尋ねる。
「ここは精神世界です。現世で亡くなった方は全員ここへやって来ます。私が話しかけるのはまれ、ですけど。」
「じゃあ僕は死んで…てか、え?勇者って…」
「そうです、あなたです。」
「これってもしかして…」
「転生、ですね。」
(きたー!!!!!)
本当にこんなことがあるんだろうか。
勇者、勇者って事はこれからあれだ、僕は様々なチート能力を貰い、頼れる仲間と冒険者として…
「あなたの望んだことです。勇者であったあなたの望んだ」
「ん?勇者であった??」
女性は言う。
「あなたは勇者として、一度世界を救いました。そのあなたが望んだのです。次の人生は、平凡なものが良いと。特筆する能力もなく、誰かに持ち上げられることもない。地味な人生で良いと。」
「は」
僕は状況が飲み込めなかった。
というか、なんだ、目の前のお前は誰なんだ。




