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見えない友達の友達、千絵ちゃん【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/29

「菜津帆ちゃんがいつも言っている『千絵』ちゃんって誰のことか、沙良ちゃん知ってる?」

クラスの子にそう訊かれて、私は曖昧に笑った。

「ここにいるよって言うんだよ。なんか気味悪いよね」


千絵は突然現れた菜津帆の友達だった。

小学2年生の遠足の時、駅のホームで電車を待っていた。

私は菜津帆と手を繋いでいた。

みんなも2人ペアで手を繋いでいて、動物園楽しみだねと言い合っていた。

そこに急いでいたサラリーマンが通って、菜津帆とぶつかった。

運の悪いことに、菜津帆だけが線路に落ちていった。

私は、手を離してしまった。

その時の菜津帆の顔は今でも忘れられない。

擦り傷だけで済んだが、念の為に菜津帆は数日学校を休んだ。

5日目にお見舞いに行って、菜津帆は私を見るなりに笑顔を向けてくれた。

「沙良、来てくれたの?ありがとう」

「ケガはどう?」

「もう大丈夫だよ。今ちょうどね、千絵も来てくれていたんだよ」

「え?」

「千絵、この子は沙良だよ。私の友達」

菜津帆は窓に向かって喋っていて、嬉しそうに紹介した。

「沙良も初めましてだよね。この子は千絵って言うの、私の友達なんだ」

その笑顔に現実味がなかったことだけは覚えている。

部屋には私と菜津帆しかいなくて、私には何も見えなかった。


『千絵』が生まれたのも、菜津帆がおかしくなったのも、私のせいだ。

私が手を離さなければこんなことにはならなかった。


それからは『3人』で遊ぶことが多くなった。

千絵はいつも菜津帆といるし、菜津帆はいつも千絵に話しかける。

最初はただ不思議がっていた他の子達も、次第にと寄り付かなくなった。

沙良ちゃんも一緒にいるのやめたらいいよ、と言われたけど、私はそばを離れなかった。

日を追うごとに菜津帆は千絵への信頼を増していくし、その存在が色濃くなっていく。

それでも私は菜津帆と千絵と過ごした。


「沙良ちゃん、ごめんなさいね」

遊びに行った時、菜津帆ママは悲しそうな顔で私に謝った。

「もし一緒に遊べなくなっても、それは沙良ちゃんのせいじゃないからね」

菜津帆ママは泣きそうな顔で笑っていて、たぶん私も同じ顔をしていた。


そして、とうとう事は起こってしまった。

「菜津帆ちゃん、気持ち悪いっ!千絵が千絵がって、お化けの話ばっかりしないでよ!」

葵ちゃんが手を払うようにして菜津帆を突き飛ばしていた。

私が、掃除道具を片付けに行っている間のことだった。

もちろん、千絵が菜津帆を抱き止められたりはしなかった。

「お化けじゃないよ!千絵は私の友達だもんっ!」

「そんなのどこにいないし、誰にも見えてないんだから変なこと言わないでよ!」

「変なことなんか言ってない!」

掴み合いに発展して、私は慌てて2人の間に入った。

千絵は見ているだけで手伝ってくれない。

「やめてよ、2人とも」

「千絵に謝ってよ!」

「謝らないよ!だっていないもん!」

葵ちゃんはキッと菜津帆を睨むと、私にも怒鳴った。

「沙良ちゃんも言ってよ、そんな子いないんだからやめてよってさ!沙良ちゃんがほっとくから菜津帆ちゃんが変なんだよっ!」

菜津帆の動きがピタッと止まった。

私が振り向くと、生気を失った顔の菜津帆が、私をじっと見ていた。

その目が焦点が合っていなくて、思わず手を伸ばしそうになった。

「菜津…」

呼び終わる前に、菜津帆は教室を飛び出した。

千絵も一緒に出ていく。

葵ちゃんと私はぽかんとして、私だけが先に意識を取り戻して、その後を追いかけた。

「菜津帆!」


まだ帰りの会が終わっていないのに、川沿いまで走ってきていた。

「菜津帆、待ってよっ!」

「来ないで!」

菜津帆は立ち止まると、こちらを向かずに叫んだ。

影が踏めるほどそばには千絵がいた。

「どうせ沙良も気持ち悪いって言うんでしょ!?」

悲痛な叫びに、私の体が引き裂かれそうだった。

なんとかしないと、菜津帆も一緒にバラバラになっちゃうと思った。

「葵ちゃんも奏ちゃんも実くんもそう!ママもパパも!みんな千絵がいないって言う!」

叩きつけるみたいに、菜津帆は大声で続けた。

「千絵はここにいるもん!どうして私の友達を馬鹿にするの!」

「私だって、菜津帆の友達だよ…!」

千絵に負けた気がして、悔しくて叫んでいた。

ようやく菜津帆はこっちを向いた。

「…沙良だって、気持ち悪いって思ってるんでしょ?」

「千絵はいるよ」

「いいよ、…嘘つかなくて」

「いるよ。こういう時に何も言わないくせに、ちゃんとして欲しい時は冗談ばっかりだから、私困ってるもん」

私には見えないけど、千絵が顔を近づけて睨んでくる。

「本当…?沙良は千絵がいると思う?」

「いつもいるから、菜津帆と2人で遊べないのがイヤ」

「…じゃあ、今度は家で待っててって言わなきゃ」

肩の力が抜けたのか、菜津帆の片目からポロリと一粒涙が落ちた。

「…戻ろうよ、ランドセル置いてきちゃった」

「…そうだね。千絵も一緒に行こう」

私は菜津帆と、千絵も菜津帆と手を繋いだ。

私たちは、『3人』で並んで歩いた。



毎日投稿29日目。お読みくださりありがとうございます!

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