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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

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最終話:新たな物語の始まり

最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

 史上最悪の災厄『天魔神葬』が消滅したあの日から、約三年の時が過ぎていた。


 歴史に残るあの争いの後、光の中から帰還したルーシェとコルネは、その場にいたギルジエンド軍の人間、悪魔領軍の悪魔たち、種族に関係なくその無事を祝福され、歓声の中で迎え入れられた。

 長きに渡った人間領と悪魔領の戦争は、その瞬間をもって幕を閉じたのだ。


 絶対的な存在であったギルシェがいなくなり、その側近として動いていたトーキスもディビラもいなくなったギルジエンド軍は、統制を失った。一部の反攻勢力は残ったものの、その指揮権をスクロニアの正統な王位継承者であるフレインとサティが引き継ぎ、軍の速やかな解体と再編成が行われた。


 そして世界は、大きく形を変えた。

 人間領、悪魔領と呼ばれていた地域の区別は撤廃され、大陸は三つの国家を中心にひとつの世界として統一されることとなった。

 区別が撤廃されたことで人間と悪魔の国交は活発になり、それぞれの領と呼ばれていた場所には、たくさんの人が種族の違いなく移り住み始めた。

 最初はぬぐえなかった違和感や差別の心も、共に暮らし、共に働く中で、雪解けのように少しずつなくなってきている。


 世界は、確かに変わろうとしていた。かつてルーシェが夢見た、誰もが手を取り合える未来へと。


 世界の中心となった三つの国家。

 ギルジエンドは名をかつての『メルスキア』に戻し、ルーシェが正当な王の座に就いた。

 崩壊しかけていたスクロニアは、急速に進む復興の中、フレインが王として立ち、同時にサティがその力とカリスマ性で中心となって秩序を取り戻していっている。

 そしてダークリアは、ルーシェの推挙により新たなる王としてアークが就任した。リンシェン、カトリア、ノインがそのサポートにつき、悪魔族の新たな象徴として国を治めている。

 モッズはというと、各地に散らばっていた紫炎族を集めて、その特異な力を持って各地に残る紫炎族の遺跡を巡り、失われた歴史の真実を書に記していく調査団を立ち上げ、世界中を飛び回っていた。


 そして三年の月日が流れた今日。

 かつての仲間たちが、メルスキア城へと集まっていた。


「似合ってるじゃないか、ルーシェ!!」

 かつての黒鉄の玉座ではなく、明るく装飾された玉座の間で、アークが目の前のルーシェに声をかける。

 ルーシェは、白を基調とした豪奢な礼服に身を包んでいた。

「メルスキアの祝い事の際に着る伝統衣装だ。父上が……いつかの為に残してくれていたらしいんだ」

 ルーシェは少し照れくさそうに袖口を触る。

「良かったじゃねぇか! 銀髪、悪くないぜその恰好! ま、俺ほどじゃねぇけどな!」

 続けてリンシェンが、いつものように憎まれ口を叩きながらも、嬉しそうに笑った。彼もまた、ダークリアの要職に就く者としての正装をしているが、うまく着崩しているのが彼らしい。

「はんっ、今日は祝いの日だ! 飲んで食って最高の一日にしちまおうじゃないか!」

 カトリアが豪快に声を上げる。その手にはすでに大きな酒瓶が持たれていた。

「飲んで騒ぎたいだけでしょ、カトリアは! 式が始まる前から酔っ払わないでくださいよ」

 その様子にノインが呆れたように小さく突っ込みを入れる。彼も背が伸び、少年の面影を残しつつも立派な青年へと成長していた。


「まぁめでたい日には間違いないんだ。今日くらいはいいんじゃないか」

 かっちりとした正装に身を包み、王としての風格を漂わせるフレインが、穏やかに笑いながら声を上げた。

「……コルネが着替え中なのは分かるが、モッズのやつはまだ来てないのか?」

 サティが凛としたドレス姿で周りを見渡しながら尋ねた。


 その瞬間、玉座の間の扉がギィイイと勢いよく開かれる。

「はぁ、はぁ、はぁ……わりぃ、ちょっとばかし遅れちまった! まだ始まってねぇよな?」

 息を切らしながら、大量の荷物を抱えて慌てて飛び込んできたモッズに、全員が笑い声を上げる。

「モッズ、まだ始まってないが、まずはその乱れた服と息を整えるんだな」

 サティの鋭い突っ込みに、「へいへい、ったくかなわねぇな嬢ちゃんには」とモッズが苦笑いで呟き、汗を拭った。


 そして――。


 奥の扉がゆっくりと開かれ、静寂が訪れる。

 テナや侍女たちとともに、階段をゆっくりと降りてくる白い影。

「ひゅーっ! コルネ、ドレス似合ってるじゃないか」

 アークが口笛を吹いて声をかける。それに呼応するように周りの仲間たちからも、感嘆の声と賑やかな歓声が上がった。

 純白のウェディングドレスに身を包んだコルネ。その姿は、かつて世界を救った巫女の神々しさと、一人の少女としての可憐さを併せ持っていた。

「ははは……なんか、照れるかも……」

 コルネがドレスの裾を持ちながら、照れ臭そうにはにかみながら、ルーシェの横へと並ぶ。

「コルネ……綺麗だ」

 その姿に見惚れるように、ルーシェも静かに、心からの声を上げた。

「私……いいのかな? その、ルーシェには……婚約者がいたん、でしょ」

 少し俯きながら、そっと尋ねるコルネ。それは、ずっと彼女の心の奥にあった小さな棘だったのかもしれない。

「……リナキスは、平和を愛する素敵な女性だった。彼女は常々言っていたよ。争いのない国を作りたいって。だから俺は、彼女の意志も継いで、彼女の理想とした世界を実現させる為に、この先も足を進めていく」


「ルーシェ……」

 ルーシェは、真っ直ぐにコルネを見つめた。

「その俺の横には、コルネ、君にいて欲しいんだ。君がいたから、俺は復讐者ではなく、王になれた。君がいたから、世界は救われた。俺にとって、君は……」


 ルーシェは言葉を切り、ゆっくりとコルネの手を握った。

「……俺と、結婚してください」

 手を握ったままその場に膝をつき、ルーシェはコルネの顔をしっかりと見る。王としてではなく、ただ一人の男として。

 コルネの目から、涙がこぼれ落ちた。それは喜びの涙。

「ルーシェ……うん、私で、良ければ。喜んで!」

 コルネは頬を赤く染めながらも、その手を握る力をぎゅっと強めた。


 パチ……パチ、パチ。


 静かな空間に、拍手の音が響き始める。それはやがて、大きな拍手へと変わっていった。


「はいはい、お二人さん! 式は今からが本番だぜ。イチャつくのは後にしてくれよな!」

 アークが茶化すように声を上げると、玉座の間の大扉が大きく開かれ、正装したジャイム村長、キリリ、ミックスたちが笑顔でルーシェ達を呼びに来る。

 その向こうには、たくさんの人間と悪魔たちが、二人の門出を祝うために集まっていた。


「さあ。ルーシェ、コルネ! 式の始まりじゃ……準備はできておるな?」

 ジャイム村長が、孫を見るような温かい目で問いかける。

 ルーシェとコルネは顔を見合わせ、満面の笑みで頷いた。

「「はいっ」」

 二人は手を強く繋ぎ直すと、光あふれる外の世界へと、ゆっくりと歩き出す。かつては憎しみと絶望に覆われていた空。

 今は、雲一つない突き抜けるような青空が広がり、二人の門出と、この世界の輝かしい未来を祝福していた。


 長く苦しい旅は終わりを告げ、新たな物語がまたここから始まる。

 愛と希望に満ちた、平和な世界で。未来を作るために。

【完】

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