第七十一話:決着
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲
『私はコルネット・アンゼリカ・メイデン! この世界を混沌とせしめる災厄『天魔神葬』を封じる巫女!!』
世界中に響き渡る少女の声。混沌の闇に包まれていた世界の空が、一筋の光に切り裂かれるように明るさを取り戻し、今まさに災厄と対峙している異空間から、力強くも優しい声が降り注いだ。
「この、声は……コルネかっ!」
ダークリア城内、玉座の間で、アークがハッとした声を上げ、天を仰ぐ。
「おいおい、まじかよ……どうなってやがる」
その声にリンシェンも驚愕を隠せない。
「はんっ、なんだかよくわかんないけど……あたしら全員に声が届いてるってことかい。とんでもないねぇ巫女様ってのは」
カトリアが感心したように声を上げ、ノインが「……温かく優しい声だ」と静かに呟いた。
『この世界を混沌に陥れてきた災厄、『天魔神葬』は再び世界に具現化し、この世の全てを闇に染め上げようとしています』
コルネの声が、まるで祈りのように世界に響き渡る。
『何度も何度も繰り返してきたこの悪夢のような輪廻を断ち切る為に、皆さんの力が必要なんです。種族も身分の関係もなく、この世界に生きる者として、この世界が紡いできた争いの火種を、完全に消し去るために』
声が響く度に、玉座の間の魔法石が脈動するように強く輝きを増す。
「この世界に存在している……全ての魔法石から声が響いているのか……」
サティがそっと呟いた。その規模は想像を絶する。
「……そういうこと、か。ルーシェに預けたスクロニア家宝の剣、その魔法石を媒介に、世界中の魔法石から声を届けている……ならば」
フレインが意を決したように一歩前に進み、ダークリア城玉座の間に鎮座するひと際大きな伝達用魔法石へと近付いていく。そしてその魔法石にそっと手を触れた。
「私は人間領、東の大国スクロニアの第一皇子フレイン・カイリ・カイエン! この言葉が届いている我が同胞よ! そしてスクロニア以外の人間領の皆も聞いてくれ!!」
フレインの声が、コルネの魔法と共鳴し、世界に響き渡る。
人間領各地で、旧スクロニアの民や兵隊、そしてギルジエンドの圧政に苦しんでいた人々が顔を上げ、声を上げる。
「……ならばわしも声を上げようかのお」
フレインのその様子を見て、ジャイム村長がゆっくりと、しかし確かな足取りで魔法石に近付き、触れた。
「わしは悪魔領ラクーメルの村の村長、ジャイム。我が悪魔領ダークリアの王、ルーシェがまさに今その災厄と対峙しておる……」
ジャイム村長の枯れた、しかし温かみのある言葉も、魔法石を通して世界中に響き渡っていく。
『フレインさん……ジャイム村長』
コルネの嬉しそうな声が響いた。
時を同じくして、ダークリア城、王の玉座の両脇に位置する四つの台座からは、四栄王の魔具の力の根源である元素の光が強く渦巻きだす。
アークの音の元素、リンシェンの氷の元素、カトリアの雷の元素、そしてノインの地の元素。
「おっと、あたしらもお呼びのようだね」
カトリアがニヤリと笑い声を上げ、続けてアーク、リンシェン、ノインがその光に導かれるように、それぞれの定位置へと歩みを進める。
そしてその渦巻く元素の光に、迷いなく手を伸ばした。
「ルーシェ、コルネ! 俺達の力だ! 持って行け!」
アークが静かに、しかし熱い想いを込めながら声を上げる。
「へっ、銀髪、女! さっさとその化け物ぶっ倒して戻ってきやがれ! 祝勝会が待ってるぜ!」
リンシェンがいつもの憎まれ口で叫ぶ。
「はん、面白いねぇ! 世界の災厄をあたしらの力でねじ伏せる! 遠慮せずにやっちまいな!」
カトリアが力強く答える。
「……僕はもう、争いのある世界を見たくない! 未来を、作るのは僕たちだ!!」
ノインがしっかりと前を見据えて声を出す。
それぞれの台座から、四色の力が光の奔流となって魔法石へと吸い込まれていく。
『みんなの想いが……たくさんの人の想いが、光となって流れ込んでくる。温かい。もう少し……もう少し』
異空間で祈るコルネ。彼女はその膨大な力を、ルーシェの持つ家宝の剣の魔法石へと送りこむ。
フレインとジャイムが触れている魔法石に、サティもそっと近づき、手を重ねた。
「私も、声を伝えよう。スクロニア第一皇女サティ・カイリ・カイエンとして……。皆、信じてくれ。新たな時代は必ず私たちの手で掴み取れる」
世界中に響くコルネの声、そしてフレイン、サティ、ジャイムの言葉。
「……。へっ! やってくれるじゃねぇの」
雪原地帯で座り込んでいたモッズが空を見上げ、ニッと笑うと、手を空へとかざした。
そしてその隣のミックス、さらには世界中の人々が、人間族・悪魔族・そして隠れ住んでいた紫炎族までもが、種族の垣根を越え、ひとつになろうとしていた。
皆が皆、その手を空へと掲げる。希望を託すように。
光が集まる。ルーシェの持つ剣が、太陽のように輝き始めた。
「……これなら」
コルネが小さく呟き、目を見開いた。
「ルーシェっ!! お願い!! 私たちの! 世界中のみんなの希望の力をっ!!!」
叫んだコルネの手から、限界を超えた膨大なエネルギーが、奔流となってルーシェの剣へと注がれる。
「あぁ、受け取った!!!!」
ルーシェが叫ぶ。剣が唸りを上げ、光が溢れ出す。
「輪廻を断ち切り、未来を紡ぐ! 終わりだぁああああああ天魔神葬ぉおおおおおおお!!!」
ルーシェの絶叫と共に、手に持った剣から世界を覆うほどの莫大な力が溢れ出した。
『――愚かなり――愚かなり――愚かなりぃいいいいいい――!!!』
天魔神葬が、最後の抵抗として絶望の咆哮を上げる。だが、その声はもう届かない。神速で踏み込んだルーシェの刃が、光の帯となって史上最悪の災厄を貫いた。
「メルスキア剣術が一刀・虚空七式皆伝――絶落迅円・改!!」
円を描くような剣閃が、空間そのものを無に返すように走る。
希望の、世界中の希望をその刀身に宿しながら、『天魔神葬』の身体を、異空間の全てを同時に、光で満たし斬り刻んだ。
それはまるで歪んだ時空に全てを呑み込まれるが如く、史上最悪の災厄を粒子レベルで消滅させていく。
『――なぁんだとおおおおおお――愚かなり――愚かなりぃいいいいいい――!!!』
断末魔と共に、怪物の姿が崩れ去っていく。
空間が弾けるように割れ、『天魔神葬』が完全に消え去り、異空間が崩壊して世界の闇が晴れていく。
「ルーシェェエエエエエエエ!!!」
崩壊する異空間から空中に投げ出されたコルネの絶叫が響いた。
世界が吹き飛ぶかのような衝撃と光の中、その手をしっかりと掴み、コルネの身体を優しく抱きかかえるようにして落ちてくるルーシェの姿。
二人は光に包まれながら、ゆっくりと地上へと降りていく。
やがて光と衝撃は収束し、世界に穏やかな、突き抜けるような青空が戻った。雲間から差し込む太陽の光が、二人の帰還と、この先の未来を祝福するかのように降り注いでいた。
最終話:『新たな物語の始まり』に続く。




