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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

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第六十九話:ルーシェ・バーライド・グリシェン

最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

『――さあ――次はお前だ――魔の王が作り上げし、憎きホムンクルス』


 天魔神葬の、生理的嫌悪を催す声が世界を揺らす。

『――汝を喰い、我は完全体となろう』

 絶望が世界を覆い尽くし、誰もがその恐怖に抗えないままに、金縛りにあったようにその場から動くことが出来ない。

 ルーシェもまた、他の者たちと同じく、目の前に佇む巨大な口から巨大な手と足が生えているだけの、グロテスクな怪物を前に、その身を動かせずにいた。


「な、がぁ、く……なぜ、動けない……動いてくれ」

 必死で身体を動かそうとするが、かろうじて動かせるのは口と指先だけ。

 その根源的な恐怖は、怪物の一部を封印せし魔のホムンクルスであり、悪魔の王の力を継承したルーシェでさえも、抗えない絶対的な理として君臨していた。

『――お前を喰らい――全てを無に戻すのだ――我の一部、魔のホムンクルスよ』

 瞬間、異形の化け物のその口が、ギロリと開かれた。

 その不格好な巨大な足からは想像もできないほどの速さで、無数の牙から滴り落ちる粘着質の唾液とともに、ルーシェを丸ごと呑み込まんと迫ってくる。その牙が、今まさに動けないルーシェを噛み砕こうと顎を開いた刹那。


夢幻開門(むげんかいもん)四魔(よんま)――破邪御門(はじゃみかど)!」

 ルーシェの後方から枯れた声が響き、光とも闇とも違う、深淵の紫色の輝きを纏ったエネルギーの結晶が、巨大な門構えの形を作り上げた。

 ガキィィィィィィン!! 門はルーシェの眼前に出現し、彼を噛み砕こうとした『天魔神葬』の顎をこじ開けるようにして、その動きを止める。

『――グゴガァアアア――』

 そのまますぐにルーシェの横まで、必死の形相で走り込んできたのはモッズだった。

「な、なにやってるんだよ兄ちゃんよぉっ! あんたが喰われちまったらその場で終わりだろうがよっ! し、しっかりしてくれよぉっ!!」

「モ、モッズ……な、んで……」

 ルーシェが声を絞り出すが、未だ動くことは難しい。


『黒紫魔法――キサマァ――天魔、天魔神族かぁあああ――なぜそちらに味方する――』

 紫色の光に覆われ、その光を鬱陶しそうに振り払おうともがきながら『天魔神葬』が叫んだ。

「し、知らねぇよ! た、確かに俺は天魔神族ってのの生き残りかもしんねぇが、口と手足だけの怪物なんかと一緒にされてたまるかよっ!! 俺は人間として生きてるんだよ!」

 モッズが吐き捨てるように叫んだ。だが、先ほどの一撃に力を使い果たし、その息は荒く、足は震えている。

『――愚かなり――ならば貴様も――望み通り喰らってやろう――前菜にもならぬがなぁっ』

 紫色の光を振り払った『天魔神葬』が、その矛先を変え、牙をモッズへと向けた。

「ちょ、おい、おいぃいい!! か、勘弁してくれよぉ、に、兄ちゃんまだ動けねぇのかよぉ!!」

 その場にモッズが尻餅をつき、後ずさる。『天魔神葬』の牙が唾液とともに、今度はモッズへとそのグロテスクな口を開いた。

「く、くそ……動け、動いてくれ!!」

 ルーシェが歯噛みし、必死に指先に力をこめるが、呪縛は解けない。

「お、俺はうまくねぇって! うまくねぇって、たんなるおっさんだぞぉ!!」

 目を瞑り、手足をバタつかせるモッズへと、その口が迫った。


『よく頑張ったのう……あとはわらわ達に任せておけ』

 ふいに耳に聞こえた、凛とした古風な声。

 瞬間、空から舞い降りた光の影が、モッズの目の前に音もなく降り立った。その影は、高速で複雑な印を結ぶ。

封呪思魂(ふうじゅしこん)縁解四方陣(えんかいしほうじん)結界異空封間けっかいいくうふうかん

 刹那。目の前に巨大な光の四角形が形成される。

 それは幾何学的な美しさで輝き、みるみるうちに膨張すると、世界そのものを切り取るようにして、虚無の空間を作り上げた。

『――な、キサマァ――何を――何をしたぁああああ――』

 形成された四角形に空間が飲み込まれるように、『天魔神葬』、影、そしてルーシェが、フッと世界から消える。

「な、な、な、なんなんだよぉっ!!」

 残されたモッズが呆然と叫び声を上げる中、空間の歪みはシュウウウと音を立てて収束し、世界から消えていった。


『――グワァアアアア――何を、貴様ぁああ――な、なにをぉおおお――』

 吸い込まれた『天魔神葬』、影、ルーシェは何もない虚無の空間へと飛ばされていた。

 上も下もなく、暗闇だけしか存在しない、虚無の異空間。

 ルーシェの横には、淡い光を纏った少女が立っていた。その姿はコルネだが、纏う雰囲気は神々しく、別人のようだ。

『わらわは、コルネット・アンゼリカ・メイデン。災厄を封ずる者にして、始まりの巫女』


「コルネ……なの、か?」

 ルーシェが、コルネの姿をしたその少女を見据える。

『魔の王が造りしホムンクルスよ……わらわが手伝えるのはここまでじゃ』

 コルネの姿をした少女が、ルーシェに振り返り、ゆっくりと語り掛ける。

『ここは外界から切り離された異空間。どれだけ力を使おうと世界には何の影響もない……そして、主の身体を縛る根源的な恐怖もここでは何の意味も持たない』

 話すコルネの姿をした少女の横で、ルーシェは先ほどまで自身を縛っていた鉛のような恐怖が、嘘のようにすっかりと消えている事に気付いた。身体が軽い。

『主がこの場所で、全ての因縁の鎖を断ち切るのじゃ。悪魔の王でもなく、人間でもなく、ホムンクルスでもない……今を生きる、未来を作る存在として、巫女とともに』


 その瞬間、コルネの身体からひと際激しい光が輝き、異形の怪物を包み込んだ。

『――やめ、ろ――やめろぉおおおおおお――』

 苦しむ怪物と共に、『天魔神葬』から漂っていた「絶対的な災厄」としての威圧感が弾け、砕けた感覚が走る。

『今のやつは恐るるに足らぬただの異形の怪物。未来を……その手で掴むがよい。主が理想とする世界の為に! ルーシェ・バーライド・グリシェン!!』

 コルネを包んでいた神々しい光が収まり、ふっと気配が変わった。彼女が崩れ落ちそうになるのを、ルーシェが支える。


「ル、ルーシェ……」

 いつもの、優しく、少し不安げなコルネの声。そして、いつの間にか悪魔の王の姿ではなく、元の人間の姿に戻っているルーシェ。

「……ありがとう」

 ルーシェは静かに感謝を告げると、フレインから預かっていたスクロニア王家の家宝の剣を、鞘から抜き放った。

 美しい刀身が、虚無の空間で輝く。

「今を生きる存在として、か……。決着をつけよう。これが本当に最後の戦いだ……コルネ、ついてきて、くれるか?」

 真剣な表情でコルネへと声をかける。

「ルーシェ……。うん、勝とう。みんなの、世界の為に……私も精一杯サポートするからっ!」


 コルネも、その真剣な表情に答えるようにして力強く頷いた。

 ルーシェは少しだけ優しく笑みを浮かべると、大きく息を吸い込む。そして、目の前に佇むグロテスクな怪物『天魔神葬』を、真っ直ぐに見据えた。

 すべての因縁を断ち切るために。その剣に希望を込めて。

第七十話:『希望』に続く。

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