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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

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第六十七話:この世界の真実

最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

「グファオアッガハァ……グフゥ、ゲホォ!」


 悪魔の爪に心臓を貫かれたギルシェが、ごぼりと大量の血を吐き出し、ルーシェの腕がどす黒く染まっていく。

「ギルシェ……いや、兄上。あなたは選択を間違えた……父上や、リナキス、苦しめてきた全てに……地獄で詫びるんだ」

 ルーシェが苦渋の表情で、ギルシェの身体から爪をゆっくりと抜き去る。

 貫かれた傷口から血しぶきが舞い、ギルシェはそのままガクリと膝をついた。命の灯火が消えようとしていた。

 だが――

「クク、ガハァッ。クク、ルーシェ、そう……だ。それでいい……よくぞ俺を貫いてくれ、た……」

 絞り出すような声で、不敵に、そしてどこか満足げに話すギルシェ。

「どういう……」

 ルーシェが不審に思い、問いかけようとしたその時だった。

「クククハァアアッハハハハ!!! 出番だぁあああっ! トーキス!! 時は来た!!」

 ギルシェが口から血を吐き出しながら、天に向かって狂ったように叫ぶ。


「っ!! トーキスだとっ!!」

 その様子を玉座の間のホログラム映像で見ていたフレインは、咄嗟に声を上げる。トーキスはスクロニアを襲い、父の命と国を奪った男。フレインにとっては憎き復讐の相手だ。

 しかしその刹那。玉座の間の奥、治療室として使われていた部屋の方から、ざわめく怒号と、耳障りな狂気的な笑い声が響いてくる。 そして――


 キャァァァァァァァァァァ!!!!


 耳をつんざくような、悲鳴。


「な、何事じゃっ!!」

 ジャイム村長が叫び、フレインが血相を変えて奥の部屋へと走る。

 扉を蹴り開け、その視界に入ってきた光景は、信じがたい、悪夢のような惨劇だった。

「あ、あ……あ、あ……」


 ボタボタと滴り落ちる血の音だけが、部屋に響く。


 その前に、治療班の白衣を着た男が立っていた。フードを目深に被っているが、その口元は三日月のように裂け、笑っている。

 そして、その手に握られた禍々しい死神の鎌が、コルネの華奢な背中から心臓を深々と貫き、胸から刃先が突き出していた。

「き、貴様ぁああああ!!」

 激昂したフレイン、そして近くで治療を受けており、比較的軽傷で動くことができたカトリアとノインが、即座に反応し、その男へと飛び掛かった。

 だが、その男はコルネの身体から死神の鎌を乱暴に抜き去ると同時に、鎌を高速回転させ、うねり狂うほどの漆黒の闘気で、いとも簡単に三人を吹き飛ばす。

 三人は壁に叩きつけられ、コルネの身体が、糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちた。

「ハハハ、ハハハハハハァアアアアアア!!! もう遅い! 私の侵入に気付けなかったお前たちの負けだぁあああ!!! ヒヒヒィッハハハハハァアア!!」


 男がフードを脱ぎ捨てる。すでに黒キ仮面を付けておらず、その素顔が露わになっていた。

 そして狂気的な雄叫びを上げながら、トーキスは高らかに宣言する。

「天魔神葬が宿りし巫女の命は散ったぁあ!! さあ、封印されし天魔神葬よ! 巫女の身体に封印されし汝を解放する封印の鍵、二対のホムンクルスの片割れは、今まさに命が尽きんとしている! 今こそその力を持って、世界に具現化するがいい! イィヒィッヒィイイイ!!!」


 ドクンッ!!


 その一瞬。雪原の戦場、ダークリア城、そして世界中の全ての場所が、突如として闇に包まれ、何者かに掌握されたかのような奇妙な感覚に支配された。心臓を直接握りつぶされるような圧迫感。

 この大地が、この星の全てが、得体の知れない巨大な存在の手の平で転がされていて、今にもその手の平が世界全てを握り潰してしまうかのような、強烈な違和感と波動。

 そして、声にならない根源的な恐怖が、その場にいる全ての者を金縛りにしたように縛り付けた。


「こ、これは……!! ギ、ギルシェ、一体何を……」

 ルーシェが声を上げようとするも、空気が鉛のように重く、その声さえうまく発せれない程の違和感が喉を支配する。

「……言っただろう。俺を殺せば、自ずと全てが明らかになると」

 心臓を貫かれ、致命傷を負っているはずのギルシェは、ふらりとその場に立ち上がった。傷口からは血ではなく、黒い霧のようなものが噴き出している。

 彼は両手を広げ、恍惚とした表情で天を仰いだ。

「天魔神葬よっ!! さぁ、我の身体を新たな依り代とし、この世界の絶対的支配者として君臨するがいい!! 約束の時は来た!!」


 瞬間、ギルシェの後方の空間が、まるで薄い布のように音もなく裂けた。その裂け目の向こう側は、何も見えない、光さえ存在しない絶対的な虚無。

 そして、その底なしの闇の中から、恐ろしくグロテスクで凶悪な牙が無数に生え揃った、醜く巨大な「口」のようなものが、ぬるりと姿を現した。


『――ホムンクルス――我が身体の一部――汝の生を、我が贄に――』

 脳に直接響く、おぞましい声。

 その瞬間、その巨大な口が、世界を飲み込まんとばかりに大きく裂けるように開く。

 ギルシェは抵抗することなく、むしろ歓喜に震えながら両手を広げ、その身を捧げるようにして、巨大な口に自ら飲み込まれていく。

「ルーシェ! これが俺たち兄弟の真実だ……俺とお前は、元から人間なんかではない。古の時代、外側の種族である天魔神族がすべてを喰らい世界を統べんとするために作り上げた災厄……『天魔神葬』!」


 飲み込まれ、徐々にその姿が闇に溶けていくギルシェは、最期の講義をするように言葉を続けた。

「人の王と魔の王が手を結び、未だ不完全であった『天魔神葬』を、ひとりの巫女の肉体へと封印した。だが、巫女の身体一つではその凄まじき力を抑え込む事ができず、やむなく『天魔神葬』の力を分離させて封印する為の器として、ふたつのホムンクルスが作られた」

 ギルシェの姿は巨大な口に跡形もなく飲み込まれ、姿は見えなくなっているが、声だけが空間に響き続けていた。

「人の王が作り上げた人型のホムンクルス、そして魔の王が作り上げた魔型のホムンクルス。そう、俺とお前……、ギルシェとルーシェと名付けられた人工生命体。我らは巫女に封印されし『天魔神葬』の力を分割して抑える為に作られた依り代であり、同時に封印されし『天魔神葬』を解放するための鍵としての役割を持つ!」


 ルーシェは動けないまま、その衝撃的な真実を聞かされていた。自分が人間でも悪魔でもなく、災厄の一部だったという事実。

 そして消えゆく声で、ギルシェは最後の言葉を紡いだ。

「以来、我らは巫女とともに生と輪廻を繰り返した。終わらぬ輪廻の中で世界の災厄を抱き続ける存在として……生を終えれば、また別のどこかで生まれ、必ず同じ名を与えられる。我らが兄弟としてメルスキアに生まれたことは、運命のいたずらか。ギルシェという身体はまさに朽ちる寸前。命が尽きたと同時に、我は今ここで『天魔神葬』と融合し、この忌々しい輪廻を断ち切ろう!!」


 巨大な口が閉じられると同時に、ギルシェの気配は完全に消滅した。ギルシェの最後の言葉は、この世界全土へと響き渡り、そして今この地に、史上最悪の災厄『天魔神葬』が、その異形の全貌を現す。

 その姿は、巨大な口から直接、巨大な手と足が生えているだけの、生理的嫌悪を催すグロテスクな怪物。 顔も胴体もなく、ただ「喰らう」という機能のみに特化した災厄の具現化。

 その口が、ギロリと開かれ、無数の牙の間からルーシェの姿を見据える。


『――さあ――次はお前だ――魔の王が作り上げし、憎きホムンクルス』

 怪物の声が、世界を揺らす。

『――汝を喰い、我は完全体となろう』

 絶望が、世界を覆い尽くした。

第六十八話:『コルネット・アンゼリカ・メイデン』に続く。

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