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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

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第六十四話:それぞれの想い

最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

「はんっ、その余裕の笑み、ぶち壊してやりたいねぇ!!!」


 今度はカトリアが先陣を切って、ギルシェへと突っ込んだ。彼女はギルシェの目の前で魔変刀暗器を地面へと突き立てると、その勢いのまま上空へと高くジャンプする。

 手から離れたはずの魔具は、磁石のように一瞬にして上空のカトリアへと吸い寄せられ、両手でそれを掴んだカトリアが、その切っ先を大地へと向けた。

「その悪趣味な炎ごと貫いてやるよぉおおっ!! 雷天青龍(らいてんせいりゅう)っ!!」

 振り下ろされた魔具の切っ先から、雷鳴を纏った青い龍が雄叫びをあげるようにギルシェの頭上へと襲い掛かる。


「……ふん、リザメリア!!」

 ギルシェが短く命じる。雷鳴の龍が雄叫びを上げる中、リザメリアと呼ばれたギルシェの漆黒炎の天使が、耳をつんざくほどの甲高い奇声を発した。

 天使はその豪炎の翼を大きく広げ、雷の龍を覆うようにして呑み込んでいく。

「な、雷を……喰らっているだとっ!?」

 その炎は雷鳴の龍を跡形もなく呑み込み、逆に天を衝くような巨大な炎の柱をそそり立たせた。

「ふっ、リザメリア黒炎術、第三獄! 瞬炎地獄(しゅんえんじごく)!!」

 炎の柱がカトリアを呑み込むように襲い掛かり、その身体を焼き尽くさんと迫る。

「カトリアっ!?」

 咄嗟にサティも踏み込み、黒炎の天使が動きを止めた一瞬の隙を突いて、目の前のギルシェへと強烈な気功魔弾を練り上げた。

「その黒き炎の天使は今なら動けないはずだぁあああ!! そのがら空きの身体、貫かせてもらうっ!!」

 そう叫んだサティの両掌から、これまでにない凄まじく高密度の気の波動が迸った。

「黎天流気功術、無明花月三倍むみょうかげつさんばい!! 貫けぇええええ!!!」

 がら空きのギルシェの身体へと向かって、爆風を巻き上げながら白き光を纏った魔弾が、一直線にうねりをあげながら向かっていく。


「…………クク」

 だが、その先のギルシェはニヤリと余裕のある表情を見せると、左手を顔の前へと持っていき、素早い動きで複雑な印のようなものを紡いだ。

束縛炎呪(そくばくえんじゅ)絶牙鞭天(ぜつがべんてん)!!」

 瞬間、何もない空間から無数の炎の牙が具現化され、鞭のようにしなって魔弾を縛り上げる。そして、そのまま高密度の気の波動を握りつぶすように飛散させた。

「なっ!?」

 さらにその牙は、鞭のように渦を巻きながらとてつもないスピードでサティの身体を真っすぐに貫いた。

「ぐふぁっああ、ああぁああああ!!!!」

 絶叫が響き、血が舞い上がる。

 すんでのところで身を捩り急所は避けたものの、サティは脇腹を貫かれ、その場へと転がり倒れた。


「ほう、寸前で急所を避けたことは褒めてやろう……だが、もはや虫の息だな……」

 ギルシェが闇の刃を構え、ゆっくりと動けないサティへと近づいて来る。

「さて……どこから抉りとってやろうか。ククク!!」

「させるかよぉおおっ!!!」

 瞬間、上空から鋭い槍閃が振り下ろされる。瞬時にそれを闇の刀で弾き返すギルシェ。

 回転しながらサティの前へと立ちはだかったのは、無数の傷と火傷を負い、煙を上げながらも武器を構える傷だらけのカトリアだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……サ、サティ、大丈夫か……」

 満身創痍のまま、カトリアが傍らに倒れるサティに声をかける。

「……ぐ、がはぁっ!! ぐはっ」

 サティは声を出すこともできず、ただその口から血を吐き出すだけで精一杯だった。


「……ククク、ハハハハハ! 予想以上だっ! 悪魔風情が我が漆黒炎の天使、リザメリアの炎獄をくらってまだ動けているとはなぁ……。クク、ハハハハハ!!」

 高笑いをするギルシェに魔変刀暗器の切っ先を向けながら、カトリアが息も絶え絶えに声を絞り出す。

「はぁ、はぁ……あんたが、人間領の統治者、ねぇ……笑わせてくれるじゃねえの」

「……ほう。何が言いたい?」

 笑いを止め、静かにギルシェが問いかける。その瞳の奥は氷のように冷たい。

「あんた……いつから人間を捨てている……」

 カトリアがその目を睨みつけながら続けた。

「その力、どこで手に入れた……いや、肉体を、何かに喰わせたのか? あんたからは、どうにも人間の匂いがしやしねぇ」


 少しの沈黙。風の音だけが妙に響いて聞こえた。

「……悪魔風情と言ったことは訂正しよう。なかなかに鋭い観察眼だ……」

 ギルシェは口角を吊り上げる。

「だが、ひとつだけ見誤っている。『人間を捨てた』のではなく、元から『人間じゃなかった』のさ。俺も、そう……ルーシェもな」


 その言葉が、魔法石を通じたホログラムの映像の中から、玉座の間に座るルーシェ達にも重く響き渡った。

「ルーシェよ、お前にもこの声が聞こえているんだろう? ならば少しだけ、面白い昔話をしてやろう……。お前は疑問に思ったことはなかったか? なぜ、メルスキアの城に、我らの『母』と呼ばれる存在がいなかったのかを?」

 ギルシェはそう言いながら、闇の刀を懐へと納め、宙に浮いた漆黒炎の天使の膝へと座った。

「十五分だけ待ってやろう。その間は、全てのギルジエンド軍での攻撃を中断する。その間に、俺の目の前に姿を現すがいい……ルーシェよ。俺とお前の、本当の真実を教えてやる……。そして、決着を付けようではないか、俺とお前の一対一の戦いで、この戦争の結末を、な……」


 不敵に響くギルシェの声が悪魔領全土に響き渡った。


「ルーシェっ!! これは罠だ!!」

 玉座を立ち、歩き出すルーシェにフレインが叫んだ。

「罠かもしれない……だが、ここで出て行かなければ、犠牲になった民や仲間への示しもつかないだろう!」

「だがっ! みすみす相手の懐に飛び込むのは危険すぎるっ! あんたは王なんだっ!!」

「これ以上犠牲を増やさないためにもっ!!! 行かせてくれっ!!!」

 ルーシェが怒気を含んだ声で、フレインの言葉に答える。

「しかしっ!!」

 尚も食い下がろうとするフレイン。今度はその肩をジャイム村長がゆっくりと杖で叩いた。

「…………」

 ジャイムは何も言わず、ただゆっくりと首を振りながら、フレインを諫める。その目は、もはや止めることはできないと悟っていた。


「ルーシェ……」

 コルネが心配そうに近付いた。

「大丈夫だ。全ての決着を……つけてくるよ。必ず、勝利を掴んでくるさ……」

 ルーシェはコルネの頭を優しくぽんっぽんっと叩くと、額の赤き単眼をギョロリと光らせた。そして赤黎き力が少しずつ全身を包んでいくと、その姿は悪魔の王の姿へとゆっくりと変貌していく。

 額から伸びる、ねじれた三本の角。背中から広がる漆黒と純白の非対称な翼。そして、破壊を司る悪魔の鉤爪と、奇跡の創造を思わせる天使の掌。


 その姿は禍々しいが、その目はルーシェの澄んだ瞳、そのものだ。

 ルーシェは漆黒と純白の非対称な翼をはためかせ、ギルシェの待つ雪原地帯へと飛び立とうとする。その背中に、フレインが声をかけた。

「待ってくれ!!」

 振り向くルーシェ。フレインは自身の腰に帯刀していた美しい装飾の施された剣を、鞘ごとルーシェへと投げ渡した。

「……フレイン、これは?」

「我が王家、スクロニア帝国に伝わる家宝の剣だ。スクロニアは魔法の国と言われていたのは知っているだろう……この剣にはいくつもの魔力が宿っている」

 剣を受け取ったルーシェは、フレインへと視線を向け「これを……どうして俺に?」と問いかける。

「連れて行ってやってくれ……我らスクロニアの想いも、一緒に……」

 フレインは想いを託すかのように、真剣な眼差しでルーシェへと言葉を紡いだ。


 ルーシェはその剣を腰に差すと、小さく、そして力強く笑顔を見せる。

「確かに受け取った。スクロニアの想いも、悪魔領のみんなの想いも、そして俺の想いも……すべてを懸けて、ギルシェを討つことを約束しよう」


 そう言って、大きく翼を広げると、ルーシェは最後の戦場へと向かって飛翔した。その背中に、たくさんの想いを乗せて。

第六十五話:『ルーシェ vs ギルシェ(前編)』に続く。

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