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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

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第五十五話:最後の結界塔

最終章:命動の戦場と信念の狂詩曲

 塔の内部、石造りの広大な回廊に慌ただしい足音が響いていた。内部では爆発音と断末魔、悲鳴と怒号が混じり合い、焦げた煙と鉄錆びた血の匂いが濃厚に漂っている。


「おいっ! 結界を制御してる中央部まではあとどのくらいだ!」

 リンシェンが息を切らながら、隣を走っているノインへと問いかける。

「結界の制御中枢は最上階のフロアだ! 中枢を壊されれば結界は消滅する!」

 ノインも必死の形相で、最上階への螺旋階段を駆け上っていた。途中、廊下に横たわっている悪魔族の亡骸を超える度に、二人の表情が悔しさに歪む。彼らは武器を持たない技術者や、作業員だったはずだ。


「うわあああああああ!! 助け……助け……」

 上のフロアから悲痛な叫び声が響き、剣閃が振り下ろされるのが見えた。

「悪魔族は根絶やしだぁあああ!!」

 聖騎士団兵が叫び、逃げ惑う男の背中を斬ろうとする。

 瞬間、ノインが右足を軸に勢いをつけ、回転するとそのまま高く跳躍し、魔仭投三日月(まじんとうみかづき)を全力で振り投げた。

「がぼがぁぐげぼぉあああ!!」

 その刃は、自由自在に軌道を変え、男を斬り裂こうとしていた聖騎士団兵の身体を、白銀の鎧ごと抉り取る。

 ノインは着地すると、すぐに生き残った悪魔族を庇うように前に出る。目の前にはまだ数人の聖騎士団兵が剣を奮いながら、無慈悲に同胞の命を奪っていた。


「っけんなよ!!!!」

 着地したノインの後ろから、持ち前のスピードでリンシェンが駆け込むと、同じく跳躍し、魔氷四双剣を回転しながら横薙ぎに振り抜いた。

 瞬間、氷の刃が蛇のように伸び、聖騎士団兵たちを次々と噛み砕き、その身体を一瞬で凍結させていく。

「くそがっ! 好き勝手しやがって」

 リンシェンも、聖騎士団兵たちの非道な行いに、怒りを隠せない。


「な、なんだ! 何があった?」

 だが、その戦闘音を聞きつけ、別フロアにいた聖騎士団兵たちが重厚な鎧の音をガチャガチャと立てながら、続々と集まってくる。その数は十数人。

「おい、少年! これくらいいけんだろ?」

 リンシェンが短剣を構え、ノインへと声をかける。

「あたりまえだ! 僕はこいつらを絶対に許さない!!」

 ノインは構えると、そのまま十数人の兵隊に向かって直進する。

「全員後悔させてやるっ!!」

 そう言って跳躍すると、勢いよく魔仭投三日月を投げ放った。

 回転しながら空中を舞う魔具は、光の軌跡で六芒星を描き出し、大地が揺れ、吸い上げられたエネルギーの塊が爆発する。

地脈六芒陣(ちみゃくろくぼうじん)!!」

「ぐああぁああぼべぇ!!」

 兵隊たちが爆発に巻き込まれ、怯んでいるその隙に、リンシェンが背中から短剣を二本抜き放つと、深々と地面へと突き立てた。地面から氷の刃が突き出し、聖騎士団兵たちを次々と串刺しにし、切り裂いていく。


 だが、それと時を同じくして、最上階からとてつもない爆発音が響き渡り、塔全体が大きく揺れ、崩れかけていた天井や壁から瓦礫の雨が降り注ぎ始めた。

「っ!! くそ、やられたか!!」

 嫌な予感が確信に変わる。リンシェンがフロアを飛び出し、最上階へと走る。ノインもその後をすぐさま追いかけた。

 激しく揺れる螺旋階段を上り切り、最上階の制御フロアへと転がりこむと、そこに広がっていたのは、破壊され、火花を散らす制御装置の無残な残骸。そしてその前で、上機嫌に馬鹿笑いをしている巨漢の男と、数名の聖騎士団兵の姿があった。


「あぁん、なんだぁ! 元気の良さそうな虫ケラが来たじゃねぇか」

 振り向いた男の顔には、全体を覆っている不気味な黒キ仮面。丸太のような腕には、血に濡れた鋼鉄の手甲が嵌められている。

「てめぇは……その仮面、トリクの町の女と同じか……」

 リンシェンが思わず声を上げる。脳裏に浮かぶのは、トリクの町の惨劇で、町を襲った黒キ仮面の女、ミアム。


「お前はぁあああああああ!!! あの時の、僕たちの住んでいた結界塔をぉおおお!!!」

 ノインは叫び、有無をいわさず手に持っていた魔仭投三日月を男へと向かって全力で投げ放った。同時に走り出し、前へと突っ込んでいく。

 あの日、自分が住んでいた結界塔を襲い、多くの仲間を殺した張本人。忘れもしない、あの巨体。

 巨漢の男――ディビラを守ろうと前に出た聖騎士団兵は、その変幻自在の魔仭投三日月の刃に、鎧ごと身体を引裂かれ、その場へと次々に倒れ込む。

 ノインは回転し、手元に戻ってきた魔仭投三日月をガシッと掴むと、その刃でディビラへと斬りかかった。

「その命を持って、償えぇえええ!!」

 ガキィイイン!!

 だが、その鋭い刃は、ディビラの両腕に嵌められている鋼鉄の手甲により弾かれる。しかし、その後ろを間髪入れずにリンシェンが間を詰めていた。

 彼は身体を斜めにして、床に手をつき、くるりと回転すると、ディビラの死角である背後へと滑り込む。

「くたばれやぁああああ!!!」

 右手に持つ魔氷四双剣を、背中から貫かんと突き刺す。

 だが、その刃が身体に触れる寸前。ディビラの「オラァアアアアア!!」という咆哮と全身から放たれた闘気に、リンシェンは身体ごと吹き飛ばされた。


「ガハハハハッ! なんでぇなんでぇ! 遊びがいがありそうな虫けらどもじゃねぇか!! 退屈してたところだ! 殺戮ショーといこうぜぇぇ!!」

 ディビラも両の手甲をゴツンと鳴らすと、その巨体から想像できないほどのスピードでノインの懐へと踏み込む。

「楽しませてくれやァアアアア!!!」

 その拳が、大砲のようにノインの腹を撃ち抜いた。

「ぐぁあがはっ!!!」

 咄嗟に魔仭投三日月を盾にしてガードするも、その衝撃は殺せず、勢いのまま後方の壁へと激突し、柱に亀裂が入る。

 尚もディビラは追い打ちをかけるように走りこみ、両腕を握ってハンマーのように組み合わせると、ノインの脳天を潰そうと振りかぶった。

「待てヤァ!! こっちを無視してんじゃねぇ!!」

 リンシェンが間一髪、後方から駆け込むと、そのガラ空きのディビラのわき腹を魔氷四双剣で斬り裂く。

 だが、筋肉が異常に硬いのか、傷は浅い。

「ガハハハハハァ!!! 惜しいじゃねぇか! あぁん!!」

 ディビラは振り向くと、その勢いのままリンシェンへと強烈な裏拳をかました。咄嗟に形成した氷の盾が、音を立てて粉々に崩れ去る。

 後方へと吹き飛んだリンシェンは、膝をつき持ちこたえるも、無防備な体勢のままにバランスを崩す。

「残念だったなぁああああ!!! あの世で後悔しなぁああ!!」

 ディビラの強烈な拳が、とどめを刺そうとリンシェンを捉えた瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴッ!!

 轟音と共に塔全体がひと際激しく揺れると、視界が目まぐるしく歪み、メキメキメキッ! という不吉な音が響き渡る。

 制御装置を破壊された負荷か、結界塔が根本から真っ二つに折れたかのように崩れ始めたのだ。

「うおっ!?」

 瓦礫の雨と激しい音とともに、床が傾き、折れた塔の上部はそのまま海へと滑り落ちていく。

「ちっ、ここまでかよ! もう少し楽しみたかったんだがなぁ!! ガハハハハハ!!!!」


 崩れた結界塔とともに、海へと投げ出されたノイン、リンシェン、そしてディビラ。冷たい海水が全身を打ち付ける。

 リンシェンは沈む瓦礫の合間を必死に泳ぎ、意識を失いかけているノインを見つけると、その襟首を掴んで抱きかかえた。

氷塊(ひょうかい)!」

 海面に魔氷四双剣をかざし、氷の浮遊板を形成する。リンシェンはノインの肩を抱きかかえ、荒れ狂う波に揉まれながらも、そのまま陸を目指した。

 ディビラの姿は確認できなかったが、あの怪物が海に投げ出されただけで死ぬような相手ではないことは容易に想像できた。


 この日。悪魔領と人間領を断絶していた最後の結界塔は、轟音と共に海へと消えた。四つの結界塔全てが破壊されたことにより、悪魔領と人間領を断絶する結界は全て消失し、ついに遮るものは何もなくなった。

第五十六話:『狼煙が上がるまで』に続く。

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