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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

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第五十話:サティルート(スクロニア大戦 後編)

第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

 フレインが放った高密度の魔弾と、サティが全身全霊で練り上げた気功術の波動。ふたつの強大な力が一点で混ざり合い、黒キ仮面を中心に統治の間が白光に包まれ、爆ぜた。


 轟音と共に瓦礫が吹き飛び、玉座の間が激しく振動する。

「父上っ!!」

 煙が晴れるのを待たず、フレインは倒れているザインツ王のもとへと駆け寄る。そのすぐ後ろにサティも滑り込むように駆け寄ってくる。

「フ……フレイン、そ、れ……に……あぁ。サ……ティか、大きく、なったな……」

 ザインツが「ガハァッ!」と大量の血を吐き出しながら、震える手で二人の頬に触れようとする。その腹部は、見るも無残に抉り取られていた。

 フレインとサティは、横たわる王の冷たくなりかけた手を握りしめる。

「父上、す、すぐに手当てを、魔法回復装置の用意をっ!」

「肩を貸せ、フレイン! ふたりで運ぶんだ!」

 サティがザインツの肩を担ごうとするが、ザインツはその重みに耐えきれず崩れ落ちる。

「ガハァボアガァ!!」

 さらに口から血を吐き出すザインツは、握られた二人の手を弱々しく握り返すと、虚ろになりかけた瞳で二人を見つめた。


「私は……もう、助か、らん。さ、最後に……愛しき、我が子供たちの顔が見れて……幸せ、だ。ガハァッ!!」

「ち、父上! もう喋らないでください! すぐに治療班を……」

 フレインが涙声で叫ぶ。

「ああ。まだ終わっていません。父上、私たちが必ず……」


 サティが言いかけた、その瞬間だった。煙の奥から、漆黒の鎌の剣閃が迸った。その切っ先は、明確にサティの首を掻っ切らんと迫ってくる。

 ガキィイイン!!

 火花が散り、金属音が響く。その切っ先を弾いたのは、横合いから飛び込んだモッズの剣だった。サティとフレインはバランスを崩し、肩を抱えていたザインツごと後方へと後ずさる。

「嬢ちゃん! まだ終わってねぇ! 俺がなんとかするからどうにかっ!」

 言い切る前に、さらに漆黒の鎌が連続して襲い来る。

「こんのぉっ! チートかよ! ギルジエンドの野郎どもはよっ!!」

 尚も迫りくる鎌の剣閃を、なんとか弾き返しながらモッズが叫んだ。だが、その技量の差は歴然。連撃についには剣を弾かれ、モッズは無防備なまま後ろへと転がる。その隙を、漆黒の鎌は見逃さなかった。

 体勢を崩しているモッズの脳天へと、その鋭い切っ先が振り下ろされる。


 その刹那。

「未来をぉおおお!! 未来をぉおおお詰ませはせんぞぉおおお!!!」

 瀕死のザインツ王の身体から、膨大な魔力が溢れ出した。彼は子供たちの腕を振りほどき、前に飛び出す。

 ドスッ! 漆黒の鎌が、ザインツ王の腹を深々と貫通する。

 だが、ザインツはそのまま目の前のトーキスへと食らいつくように掴みかかると、血を吐きながらも叫んだ。

「我が全魔力を、この命を貴様とともにぃ!!!!」

 ザインツの身体が、臨界点を超えて輝き始める。それは自爆魔法。

「な、なんだと……」

 抱きかかえられるようにして全身を掴まれているトーキスが、初めて焦りの声を上げる。離れようとするが、死に体の老王の腕力とは思えない力で拘束され、動けない。

 最後の瞬間、ザインツ王はサティたちへと振り向いた。その顔は、王ではなく、ただの父親の笑顔だった。

「フレイン、サティ、未来を……頼んだ、ぞ、どうにか逃げ延びてくれ……」

 そう優しく声をかけ、前を向く。

「「ち、父上ぇえええええ!!!」」

 ふたりの絶叫が重なった。

「黒キ仮面よぉおおおおお!! 道連れじゃああぁああああああ!!!!」

 青白い閃光が城全体を覆うようにして迸しり、次の瞬間、凄まじい推進力で空へと舞い上がった。

 そして、遥か上空でトーキスを抱きかかえたまま、ザインツの身体が弾け飛び、大魔力爆発を引き起こす。

 大地がうねり、空気が歪み、閃光が全てを包む。スクロニアの空に、悲しき花火が咲いた。


 やがてそれはゆっくりと収束し、まるで何事もなかったかのように穏やかな空が顔を覗かせた。

「うわぁあああああああ!!!!」

 フレインが叫びながら、何度も何度も床を叩く。拳から血が滲んでも、痛みなど感じないように。

 サティも膝をつき、「く、くそぉおおおおっ!」と床を叩きつけた。その強気な瞳には涙が浮かんでいた。

 そのふたりを見守ることしかできないモッズ。かける言葉など見つからない。だが、空を見上げたモッズの表情が凍りつく。

「……。だ、ダメだ……。嬢ちゃんっ! 青年! すぐにここから離れるぞ! 生き残ってるやつらもすぐにだ!」

 モッズは震える声で叫んだ。その様子を見て、涙を流していたサティもハッとして空を見上げる。そして、絶句した。

「ば、化け物め……」

 遥か上空、ザインツが命を懸けて爆発したその場所で、一部が砕け散った白銀と漆黒の鎧を煌めかせながら、黒キ仮面の男が立っていた。いや、その顔から黒キ仮面は砕け散り、素顔があらわになっている。


 全てを呑み込まんとする鋭き目つきと、青と赤の混じったような長髪。そして先ほどとは比べ物にならないほどの闘気が、空気を震わせるほどに得体のしれない威圧を放っている。

 その瞳がギロッと地上のサティたちを見据えた。


 フレインはその姿を見て、感情のままに魔弾を撃ち込もうと、手の平を向ける。

「……うわぁあああああああ!!」

 だが、その腕をモッズが掴み、強引に引っ張るようにして走り出した。

「やめろっ、勝ち目はねぇ! それよりも今すぐここから離れるのが最善だ! 親父さんの死を無駄にする気か!」

 その手を振りほどかんとフレインが暴れるが、すぐにサティが近付き、フレインの頬を叩いた。

「気持ちは分かる。だが、気持ちと無謀は違う! みすみす死ににいってどうする! 父上の意志を告げるのはお前だけじゃないのかっ! そうだろっ兄上! いや、スクロニア第一皇子フレイン!!」

 サティの必死の一喝で、フレインが我を取り戻す。

「……っ」

 その肩を優しくモッズが叩いた。

「嬢ちゃんだって辛いんだ。だが、死んじまったら何も取り返せない……生きろ。生きてやり返すんだよ」


 フレインは歯を食いしばり、涙を拭った。

「……すまない。生き残っている全てのスクロニア兵に告ぐ、全員ただちにこの場所を離脱だ! スクロニア城を……放棄する」

 魔法石を通じたフレインのその言葉は、重く、苦しき決断。だが、その瞳には未来を諦めていない光が宿っていた。

 そして、それに呼応するように、城内に残る黒魔導兵団の総力をかけた陽動魔法が発動する。

 幻と煙幕に城内が包まれると、その隙を見て生き残ったスクロニアの兵たちが散り散りに離散していく。誰もが同志の、スクロニアの無事を祈りながら、それぞれにその場を離脱していった。


 その陽動魔法の幻と煙幕の中、サティ、モッズ、そしてフレインもその場を離脱する。地下への扉を開き、螺旋階段を駆け下りる。

「おいおい嬢ちゃんよっ、逃げんなら地上じゃねぇのかっ! 地下は袋小路だぜ!」

 走りながらモッズが叫んだ。

「いや、おそらくあの黒キ仮面の最優先目標は、王位継承者であるフレインだ。地上を逃げていればすぐに追いつかれるだろう」

 サティが前を見ながら答える。

「だからって地下にいってもその先なんか……隠れてやり過ごせるなんて思ってねぇよな?」

 モッズが不安そうに声を上げた。フレインは無言のまま、何かを考えるようにして走っている。父の最期の言葉を反芻しているようだった。

 そして階段を降りきり、石造りの地下通路を尚も走る。目の前には、サティたちが転移装置を使ってやってきたあの地下室の小部屋が見えてくる。


「おい、まさかっ! 転移するってのか、紫炎族の遺跡に戻るのかっ!」

 モッズがサティの意図を理解し、叫んだ。サティは無言で頷くと、地下室の扉を蹴り開ける。

 中に入ると、サティたちの転移してきた空間の歪みの残滓が、今にも消え去りそうになりながらも、まだ微かにその渦を巻いていた。

「考えてる余裕はないっ! 飛び込むぞ、モッズ、フレイン!」

 そう言って、サティは二人の腕を掴み、その渦の中へと飛び込む。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 渦は三人の身体を包み込み、光の中へと飲み込むと、地下室の残滓は跡形もなく消え去った。


ーー


 ドサリと床に転がり、転移装置の空間の渦から抜けた三人。息を整えながら顔を上げる。だが、その目の前に広がった景色は、元の紫炎族の遺跡ではなかった。

 そこは、赤黎い光が漏れ出す、広大な地下空間のような場所。そして、すぐ目の前には巨大で絢爛な扉が見えている。


「ってぇえ! 今度はどこだよ? 戻って来たんじゃねぇのかよぉ……」

 モッズが頭をさすりながら呻いた。

「ここは……」

 フレインも初めて見る異様な景色に戸惑いを隠せていない。

「なんだ……転移装置には法則でもあるのか、ここは一体……」

 サティが小さく呟き、周囲を警戒する。


 その瞬間、またしても目の前の扉の奥から、激しい振動と爆発音、そして誰かが争うような乱れる足音が響いた。

「……どうやらここでも何者かが戦闘中のようだな……」

 サティが呟き、身構える。

「うそだろ……どうして俺らが行くところ行くところ全部が戦闘中なんだよ……呪われてんのか俺たちは!」

 モッズが「勘弁してくれよぉ」と苦い表情をしながら天を仰いだ。

「……道は、他にはないのだろうな」

 フレインが冷静さを取り戻し、グッと拳を握る。父の死を乗り越え、王としての覚悟を決めた顔つきだ。

「私は、父の志を受け継がねばならない……そして、必ず生き延びて、ギルジエンドを討つ。……前に、進むしかない」

 フレインの真っすぐな瞳には、先ほどまでの悲壮感はなく、強い意志の炎が燃えている。

「あぁ。それでこそ一国の王子だ。フレイン」


 サティも力強く頷くと、三人は意を決し、目の前の巨大な扉に手をかけた。その向こうで待つ、新たな運命を知らずに。

第五十一話:『決着(悪魔王の影)』に続く。

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