第四十九話:サティルート(スクロニア大戦 中編)
第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲
「ちょっ、待てって! 嬢ちゃん! 一体ここはどこだってんだよ!」
石造りの地下通路を疾走するサティの背中に向かって、モッズが息を切らせながら叫ぶ。
サティは足を止めることなく、その言葉を遮るように冷静に答えた。
「ここは……東の大国、スクロニアだ」
「は、えっ! ちょ、それじゃなんだぁ俺たちはギルジエンドの遺跡から当初の目的だったスクロニアまで転移してきたってことか?」
モッズは目を白黒させる。
紫炎族の遺跡にあった転移装置。石碑や手記に書かれていた内容から、転移先は悪魔領のどこかではないかと予測していた。だが、実際に転移したのは人間領。それも、当初サティやモッズが、飛行艇を奪って向かおうとしていた目的地そのものだったのだ。
サティは尚も地下通路を進み、城内へと続く螺旋階段へと足をかける。
「って、待て待て! ここがスクロニアだとして、なんで嬢ちゃん、そんなに焦ってる? 戦闘が行われてるって一体……」
モッズが言いかけた瞬間だった。
頭上でさらなる爆発音が響き、天井からパラパラと砂埃が落ちてくる。さっきよりもその場所に近付いている分、耳に届く音も振動もはっきりとしている。
「……まじで戦闘中かよ。なら相手は……」
「ギルジエンドだろう」
サティの即答に、モッズは「だよな……」と小さく呟き、覚悟を決めたように表情を引き締めた。
そうこうしている内に、階段を駆け上がり、重厚な鉄の扉を開けた先――スクロニア城内の一角へと、ふたりは足を踏み入れた。
しかし、そこに広がっていたのは、美しい城内の姿ではなく、血と悲鳴が支配する戦場。
外郭防御区域は次々と制圧され、一部の兵隊と獰猛な獣が城内深部まで入り込んでいる。通路の至る所では、必死で応戦するスクロニア黒魔導兵団の精鋭たちの姿があった。
魔法の国と呼ばれているスクロニアだけあって、その魔法能力は、一介の衛兵たちくらいでは太刀打ちできないほどに強力だ。だが、それは距離を取った遠距離戦での話。強力な魔法は発動までに時間を要する。
狭い城内通路で近接戦に持ち込まれ、さらに人数でも劣る現状では分が悪く、次々とギルジエンドの聖騎士団や獣どもに蹂躙されていた。
「グボァオア!!!」
聖騎士団兵の冷酷な剣閃が、詠唱中の黒魔導兵を袈裟懸けに斬り裂く。
そして横では獣が咆哮を上げ、倒れた兵士の腕を喰い千切る。鮮血が舞い、悲鳴が木魂し、恐怖と絶望の叫びが通路に蔓延している。
「ひぃいいいい!!」
若い黒魔導兵が尻餅をつき、後ずさる。聖騎士団兵の剣が、追いつめられた彼を今にも斬り裂こうと迫る。
「はぁあああっ!!!」
聖騎士団が黒魔導兵を斬り裂くすんでのところで、サティが疾風のごとく駆け込み、回転しながら跳躍すると、聖騎士団の首元に強烈なハイキックを叩き込んだ。
重装備の鎧ごと兵士が吹き飛ぶ。だが、吹き飛んだ兵隊の横で、獣が血走った目を剥き出しにしてサティへと牙を剥いて迫った。
サティは着地したばかりで体勢が悪い。
「だからぁっ! 剣は専門じゃねえって言ってんだろがぁ!!」
後ろから滑り込んだモッズが、悪態をつきながら床に落ちていた聖騎士団の剣を拾い上げる。
そのままの勢いで回転し、獣の喉笛を剣で一閃、掻っ切った。
「ギャガァアアアアアッ!!」
咆哮と血しぶきをあげ、獣がドサリと倒れる。
「あ、ありがと……う、ってあなたは……」
助けられた黒魔導兵が、震える声でお礼を言う。サティは彼の肩を掴み、強い口調で問いかけた。
「状況は? 状況はどうなっている?」
「と、統治の間に……賊の侵入をゆ、許してしまってい、ま……す。ザインツ様とフレイン様が……!」
弱々しく答える黒魔導兵の言葉に、サティの顔色が変わる。
その横で、傷ついた隊長らしき人物が杖を掲げて叫んだ。
「魔法障壁、展開!!」
その後ろで生き残った数人も同じ動きをする。瞬間、フロア全体に青白い光の障壁が広がり、後続の聖騎士団と獣の足を止めた。
隊長は肩で息をしながらサティたちへと振り向くと、目を見開いて叫んだ。
「サティ様! ここは持ちこたえます! 王を! 王子を!!」
その必死の声を聞いて、サティは頷き、すぐに立ち上がると、まるで統治の間の場所を知っているかのように迷いなく走り出した。
モッズも慌てて後を追う。
「って、おい! サティ様って……ったく、どうなってんだよ!!」
モッズの叫びは、戦場の喧騒にかき消された。
しばらく走ったその先に、破壊された絢爛な扉と、その先で対峙している影が見えてくる。統治の間だ。
サティとモッズは滑り込むようにして、その扉へと入ると、そこでは信じがたい光景が繰り広げられていた。
「貴様らにこの国は、我らの誇り、魔法の力は扱えぬ!! 恥を知るがいい!!」
スクロニア王ザインツが、老体に鞭打ち、魔杖の剣のような武具を構え、玉座の前に立つ黒キ仮面の男へと果敢に斬りかかる。
だがっ、一瞬の出来事だった。
黒キ仮面の男――トーキスの持つ、漆黒の大鎌が、独楽のように回転すると、死神の爪のようにザインツの防御をすり抜け、その胴体を抉るように深々と刈り取った。
「グフオァアアッ!!!」
ザインツの口から大量の血が吹き出し、魔杖を取り落として床へと転がる。
「「父上っ!!!」」
ふたつの声が重なった。スクロニア王子フレインと、そして、サティの絶叫。
ふたりは同時に飛び出していた。前方からフレインが怒りのままに高密度の魔弾を。そして後方からサティが、全身の気を練り上げ、両掌から波動を放つ。
「黎天流気功術、無明花月!!」
そのふたつの強大な力が一点で混ざり合い、黒キ仮面を中心に統治の間が白光に包まれ、爆ぜる。瓦礫が吹き飛び、玉座の間が振動する。
決着は着いた。誰もがそう思った。
第五十話:『サティルート(スクロニア大戦 後編)』に続く。




