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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

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第四十八話:サティルート(スクロニア大戦 前編)

第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

 サティとモッズ、青年の三人が、ルーシェたちのいるダークリア城跡、王の間へと辿り着く少し前の出来事。


 ――人間領、東の大国スクロニア帝国領内。スクロニア城外郭防御区域 E-三十五。

「くそっ!! ここを落とされれば終わりだ! 絶対に侵入を許すなぁぁ!!!」

 隊長の怒号が響く。だが、その声もすぐに爆発音にかき消された。地面には、スクロニアの紋章が入った鎧を纏った兵士たちの亡骸が散乱し、無数の血溜まりが広がっている。

 あちこちでは炎が燃え上がり、柱を焦がし、崩れた瓦礫が幾重にも積み重なっていた。

「うわぁあああああ!!!!」

 スクロニア黒魔導兵団の若い兵士が、魔杖を構え応戦しようとした瞬間、影から飛び出した獣のような二足歩行の怪物に喉笛を喰い千切られ、鮮血が空しく舞い散る。

「ど、どうなってやがんだ! なんだってこんな怪物がぞろぞろと!!」

「ガルァアアアアア!!!」

 獣の獰猛な牙を、魔法障壁を形成してどうにか抑え込む。だが、安堵する間もない。すぐにその横から、白銀の鎧を纏ったギルジエンド聖騎士団が滑り込み、その身体を剣で斬り裂いた。

「グボァオア!!」

 次々と倒れていくスクロニア黒魔導兵団たち。だが、獣たちの蹂躙は止まらない。


「応答しろ! おい、こちらミックス。ジェニス、応答しろ!!」

 伝達用魔法石を耳に押し当て、一人の男――ミックスが必死の形相で叫ぶ。数秒の不快なノイズの後、魔法石から弱々しい声が耳に届いた。

「ミ……ミックス! き、聞こえる?」

 途切れ途切れに聞こえる女性の声に、ミックスが大きな声を出して反応する。

「まだか? 障壁結界はまだ発動できないのか? この外郭はもう持たない! やつら獣を飼ってやがる……」

「こっちも必死でやってる! もう少しなんとか耐えて! きゃっ!」

 魔法石から聞こえてくる声の奥で、ふいに「ガハァっ!」といった男の呻きと、ドサリと人が倒れる重い音が聞こえた。


「おい、どうした? ジェニス!」

 必死で問いかけるが、既に声は届いていないようで、魔法石からは一方的にその先の様子だけが聞こえてくる。

「ジェニス、第三隊ベリ様が倒れました!」

「こっち、第二隊ウリク様も倒れました!」

「きゃあ、もうメイム様も限界です!」

 どうやら、城全体を覆う巨大な障壁結界を発動するための術者たちが、その膨大な魔力の負荷に耐え切れず、次々と意識を失い、倒れているようだった。

 スクロニア最後の砦である結界すら、簡単には発動できない。

「くそっ! なんだってこんなことになってんだ!」

 ミックスが叫んだと同時に、至近距離で爆発が巻き起こった。

 衝撃波で仲間たちが木の葉のように吹き飛ばされていく。彼らは無残にも壁に叩きつけられ絶命し、追い打ちをかけるように獣が群がると、そのまま肉を喰い千切られていた。

「おいっ! ミックス、ここはもう駄目だ! 撤退するぞ!」

 同じ隊の男が叫び、一斉に防御区域E-三十五を捨てて後方へと走る。

 誇り高き魔法の国が、崩れ去ろうとしていた。


 ――同時刻、スクロニア城内、統治の間。


「ザインツ様! 外郭防御区域が続々と制圧されています! このままでは我が国家は……」

 伝令の兵士が膝をつき、悲痛な報告を上げる。

 玉座にて苦い顔で戦況を判断しているのは、東の大国スクロニアの現当主、スクロニア王ザインツ。白髪に覆われた老いた身体からはかつてのような覇気はなく、国の存亡をかけた決断を今ここに迫られ、苦悩の色が瞳に濃く出ている。

「西のメルスキアがギルジエンドとなり、自治州コーストはやつらの手に堕ちた。そして我が東の大国スクロニアもこのままでは時間の問題であろう。それに……」

「父上! 国を、国を見捨てるおつもりですか!」

 ザインツの言葉を遮るようにして、その隣に立っていた一人の青年が強く口を挟んだ。整った顔立ちには、怒りと焦燥が滲んでいる。スクロニアの王子、フレインだ。


「フレイン様……お気持ちは分かります。ですがお父上も、苦渋の決断なのです。このまま戦いが続けば、我らスクロニアの民の犠牲が増すばかりか、領土にも甚大な被害を及ぼすことになるでしょう」

 側近が諌めるが、フレインは聞く耳を持たない。

「だが、制圧されれば国の名は失う。国の名とともに、誇りも捨てるおつもりですか!」

 そう言って、フレインは決意を固めたようにゆっくりと歩き出す。

「私も戦場へ出ます。最後まで……我が国、スクロニアの為に! 私が前線で指揮を執れば、兵たちの士気も上がるはずです!」

「フレイン、待つのだ!! 冷静に……」

 スクロニア王ザインツが手を伸ばし、言いかけたその瞬間だった。

 統治の間の巨大な扉が、外側から勢いよく蹴破られる。 同時に、扉を警備していた兵隊二人が、まるで紙くずのように吹き飛んだ。

 そして、土煙の中から、統治の間へと悠然と入ってくるひとつの男の影。


「やあやあ、スクロニアの皆様……ご機嫌如何でしょうか?」

 わざとらしく声を上げ、大げさに手を使って貴族のように軽く一礼をする。

「貴様っ! どこから入った!!」

 すぐさま統治の間にいた近衛兵たちがその男を取り囲んで、剣と杖の切っ先を向けた。

 だが、その男は数多の刃に囲まれても、ひょうひょうとした余裕の態度を見せ、挑発するような声で大げさに叫んだ。

「これはこれは、魔法の国と呼ばれたスクロニアにも、こうして剣を使う方たちがいるとは……実に滑稽で愛らしい」

 ザインツ王は男を見据えた。

 漆黒と白銀が不規則に混ざり合ったような悪趣味な鎧を身にまとい、顔全体を覆う不気味な黒色の仮面をつけている。

「ギルジエンド王国直属の……黒キ仮面か……」

 ザインツがゆっくりと呟いた。その名を聞き、兵士たちに緊張が走る。


 黒キ仮面の男は、尚もおどけたように大げさに両手を広げると、芝居がかった口調で続けた。

「お目にかかれて光栄です。ザインツ王。王の前で、名を語ることを何卒お許しください」

 そう言って、ゆっくりと、しかし確実に玉座へと足を進めていく。

「う、動くな!」

「止まれ!!」

 取り囲んでいた兵たちが叫ぶもお構いなしに、まるで散歩でもするように歩をすすめていく黒キ仮面の男。

「我が名は、トーキス。ギルジエンド黒キ仮面が第一柱。死神の鎌(デスサイズ)のトーキス。……この国を頂きに参りました」

 仮面の奥から聞こえる声には、感情の色がなく、ただ冷徹な宣告だけが響き渡った。

「ふざけるなぁっ!!」

 瞬間、フレインが激昂し、手の平を向け、トーキスへと魔弾を撃ち込んだ。その弾道は真っすぐにトーキスを捉え、直撃とともに轟音が巻き起こる。だが、フレインは手を止めない。


「まだだ! まだだっ! まだだぁああああ!!!」

 尚も連続して魔弾を叩き込むと、統治の間が揺れ、装飾された柱が崩れ、瓦礫が美しい床を埋めていく。

「フレイン! 落ち着くのじゃ!!」

 ザインツ王の叫びに、我を失っていたフレインがハッと正気を取り戻し、荒い息をついた。もう塵も残っていないはずだ。そう思った。

 だが、舞う爆風の煙が晴れた先に見えたのは――埃ひとつついていない鎧と、ギラりと光る、無傷の仮面の男。

 トーキスはただの一歩も動いてすらいなかった。


 ――同時刻。


「おおおっつい!! 今度はなんなんだよ!!」

 ドサリと床に転がり、モッズが叫んだ。転移装置の空間の渦から抜けた衝撃で、彼は目を回している。

 サティは既に立ち上がり、鋭い視線でまわりの様子を確認していた。

 そこは四方に窓のひとつもない、小さな地下室のような閉ざされた場所で、部屋の中には、先ほどサティたちが転移してきた古びた装置と、空間の歪みの残滓である渦が消えかかっている。


 目の前には頑丈そうな鉄の扉がひとつ。そこには魔法の国を示す、国家の紋様が刻まれている。

「おい、嬢ちゃん! ここはどこだよ! 俺たちはどこに転移した! やっぱ悪魔領か?」

 モッズが頭をさすりながら、矢継ぎ早に声をかける。

「……うるさい! 静かにしろ」

 サティが冷たく遮ると、彼女は扉に耳を当て、微かな音を拾う。

「……どうやら予想とは違う場所に転移してきたようだ……」

 サティは冷静に返し、続けて眉をひそめた。

「それに、この振動と微かに聞こえる爆発音……戦闘が行われているな」


「はっ、戦闘?」

 モッズがきょとんとする間もなく、サティはふいに扉を開けると、「いくぞっ!」とモッズに短く声をかけ、躊躇なく部屋を飛び出していく。

「ちょ、嬢ちゃん! 次はなんだってんだよ! 待ってくれよ!」

 混乱する頭で、モッズも慌てて彼女を追いかけた。

第四十九話:『サティルート(スクロニア大戦 中編)』に続く。

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