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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

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第四十四話:ノインルート

第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲

 ノインとテナが、ルーシェたちのいる王の間へと辿り着く少し前。

 ディビラによって蹂躙され、崩壊寸前の結界塔から、子供達を連れて海底トンネルへと降りた一行は、果てしなく続く暗闇の道を、必死で歩き続けていた。

 地下深くの海底トンネルにいても、微かに結界塔での爆発音や瓦礫が崩れる音が、壁を伝って耳に届いてくる。それは上の世界の地獄がまだ続いていることを、無情にも伝えていた。


「こわい、こわいよぉ……ノイ兄ちゃん」

 一番小さな男の子が、恐怖に震えながらノインの服の裾にしがみ付いている。その他の子供達も、冷たい潮の匂いが充満する果てしなく続くトンネルに震え、今にも泣きだしてしまいそうになっていた。

「大丈夫だ! 大丈夫だよ皆! ほら、俺やノイン、テナを見て見ろよ! 平気な顔してるだろ」

 そう言って、キリリが子供たちを宥める。もちろんノインやテナ、キリリも平気なわけではない。だが、子供達を不安にさせまいと、必死で自分を保ち、笑顔を作っている。

 時折聞こえてくる「ゴォォォ……」という不気味な海鳴りが、精神を削るように恐怖と不安を煽ってくるが、それでも、彼らは一歩、また一歩と足を進めた。子供達の疲れや恐怖を見ながら、時折休憩を挟んで。


「ねぇ……ノイン、海底トンネルの先って……」

 休憩中、子供達が少し落ち着いたのを見計らって、テナが静かに問いかけた。

「海底トンネルの先には地獄が待っている。進めば闇に呑まれるであろう」

 キリリが子供達に聞こえないように、小さな声で、結界塔に伝わる不吉な伝承を口にした。

「地獄、闇……この先に何があるのかはわからない。道が続いているのかも……」

 ノインがゆっくりと答えた。

 その表情は、先ほどまで子供たちに見せていた優しい兄のような顔とは違って、深い不安の色が表れていた。

「……ノインは、一度降りた事が、あったんだよ、ね?」

 俯きながら控え目にテナが言葉を続けた。ノインの額にある、半分に折れた一本角を見つめながら。

 そう、絶対に近付いてはいけない。そう言われ続けていた海底トンネルに、ノインは幼い頃に降りたことがあった。それは意図的ではなく、偶然に。


 その日、結界塔内の子供達で、かくれんぼをしていた。ノインは誰にも見つからない隠れ場所を探して、壁や部屋をくまなく調べていた時に、偶然にも古いタペストリーの下に隠されていたボタンを見つけ、そしてその先の狭い空間を見つけてしまった。

 そう、ディビラによって結界塔が襲われた時に、テナ、キリリ、子供達が隠れていたあの部屋だ。

 その部屋の存在は結界塔内の誰も知らない。ノインはディビラが攻め入ってきた時、咄嗟の判断で、その部屋に子供達を隠した。だが、その時には既に、子供達以外の結界塔の大人たちをそこへ連れていくことは叶わなかった。

「……ノインの角が、折られた、あの時のことか……」

 キリリが唇を噛みしめながら、静かに声を出す。

「あぁ。幼き僕が、かくれんぼの合間に偶然見つけた隠し部屋……」

 ノインが記憶を手繰り寄せるように語り始める。

「その床の一部分が、僕が持っていた魔具、魔仭投三日月(まじんとうみかづき)に反応し、ぼんやりと光を放っていたんだ。幼かった僕は、その光に誘われ、その床板を外してしまった。そして暗い梯子が続く地下へと、足を踏み入れてしまったんだ……」


 海底トンネルの話は、色々な大人たちから聞いていた。ただ、それは伝承のようなもので、本当に存在していることを誰も見た事がないと言っていた。だから、幼きノインは、初めてその地に降り立った時、恐怖よりも「海底トンネルは本当に存在していたんだ」という変な高揚感を持ったのを覚えている。

「そんなに歩いたつもりはなかったのに、気付けば果てのような場所に立っていた僕は……目の前の巨大で荘厳な赤黎き異様な扉に誘われるように、その足を進めてしまった……」

 ノインの声が低く、重くなる。

「その扉に触れた時、影のようなものが現れたんだ。その影は表情とかはなかったけれど、明確に僕に敵意を向けている威圧だけは感じ取れた。怖くなった僕は必死できた道を戻るように走った」


 テナとキリリの表情も強張る。

「だけど、どれだけ走っても景色が進んだように思えなくて、やがて影に追いつかれた僕は、影が振り下ろした何かに……その、角を折られた……」

 ノインが半分に折れた頭の角の傷跡をそっと触る。あの時の痛みと恐怖は、今も鮮明だ。

「その後の記憶は曖昧なんだ。気が付いたら僕は、結界塔の外壁階段のところで倒れていたらしい……どうやってそこまで戻ったのか、なぜ部屋ではなく外壁階段にいたのか……」

 ノインは俯き、小さく首を振った。

「夢かと思った……だけど、僕の角は半分に折られていた。それが、あの出来事は現実だったんだと……認識させた。この話は、テナ、キリリ、今も二人にしか話していないよ」

「ノイン……。ああ、十分注意しないとな……誰一人子供達を犠牲になんてさせない。それに、俺たちはあの頃から少し大人になった。その影が出てきても、俺ら全員でかかれば、倒せなくても逃げることくらいはできるさ……」

 キリリがグッと拳を握って、ノインに力強く声をかける。

「ああ。頼りにしてるよ。キリリ」


「ねー、あとどのくらい歩くの? それに、どこに向かってるの?」

 子供達のひとりが、ゆっくりとノインたちに近付いてきて声をかける。限界が近づいているようだ。

「……もう少しだよ。かんばろ。ここを抜けたら、みんなで美味しいごはんでも食べようね」

 テナが柔らかい表情を作って、優しく声をかけた。

「……行こう。早くここから出て、子供たちを安心させてあげたい」

 ノインが立ち上がった。過去の恐怖に打ち勝ち、子供たちを守り抜くために。


 それから少し歩いた先。暗く視界の悪い海底トンネルの中に、やがて異様な存在感を示す巨大な影が見えてくる。

「あ、あの扉は……」

 キリリが震える指を差した。

 目の前に鎮座する、赤黎き巨大な扉。岩盤に直接埋め込まれたかのようなそれは、人の手によるものとは思えない威圧感を放っている。

「あれが、ノインの言っていた……」

 テナも横で息を飲み、声を上げた。

 その扉の影を見て、子供達がざわざわと騒ぎだす。

「あれ、出口? 出口ついたのっ!」

「お外? お外に出られるの?」

 走り出そうとする子供達にノインが「待ってっ!」と鋭く声を掛ける。


「……キリリ、テナ、少しここで子供達を見ておいてくれないか?」

「ノイン……」

 キリリが心配そうに小さく声を上げる。

「あの扉の先がどこに繋がっているのかはわからない……それに、僕が幼い頃に遭遇した影の塊のような何かが今もまだいるかもしれない……僕が先行して見てくるよ」

 そう言うと、ノインは一人、扉の前へとゆっくりと歩き出す。その手をそっと握って、テナが横に並んだ。

「ノイン、私も一緒に行く。ひとりより、ふたりだよ」

「テナ……でもっ!」

「……行って来いよ。子供たちは俺が責任を持って守ってる。お前たちも十分気を付けろ」

 キリリが並んで立つノインとテナに笑顔を向けた。背中を押すように。

「キリリ、テナ……。わかった。ありがとう」

 ノインはそう言うと、テナと共に赤黎き巨大な扉へと向かう。


「ねぇノイ兄ちゃんたち、どうしたの?」

 子供達が不思議そうに声を上げる。

「うん。危険かもしれないから、あの扉を先に見てきてくれるって。安心して、みんなには俺がついてるから」

 キリリは穏やかな口調で、子供達を宥め、後方で待機させた。


 ノインとテナは赤黎き巨大な扉の前まで来ていた。

 目の前に聳え立つ扉は、思った以上に巨大で、異質な雰囲気を醸し出している。表面には見たこともない紋様が刻まれ、微かに脈動しているようにも見えた。

 ノインは意を決し、その扉にそっと手をかける。

 その瞬間だった。

 ゴゴゴゴゴゴッ……激しい地響きとともに、海底トンネル全体が大きく揺れる。それと同時に、ノインの腰にある魔具、魔仭投三日月が激しく反応し、赤黎い淡い光を放ち始めた。

「な、何!? 何が起きてるの!」

 テナが悲鳴のように叫び出す。キリリもその異変にすぐに気付き、ノインたちの元へと駆け寄ろうとするが、ノインはそれを制した。

「キリリっ! 駄目だ、来るな! 子供達を……頼む!!」

 叫ぶと同時に、光を放つ魔仭投三日月を手に構える。


 数秒後、魔仭投三日月から赤黎い煙のようなものがシュウウウと舞い上がった。煙はみるみるうちに形を成して、人型の影へと具現化していく。

「あ、あ、あの……時の!?」

 その姿は、幼きノインが見た、あの恐怖の影そのものだった。

 影が腕を振り上げる。

 次の瞬間、その影は大爆発を起こすと、衝撃波が走り、目の前の巨大な扉が内側へ向かって吹き飛んだ。


 ノインとテナは、その爆風に巻き込まれながらも、扉の先へと転がり込む。彼らの視界に映ったのは、赤黎い光に満ちた広間と、そこに集っている見知らぬ戦士たちの姿だった。

第四十五話:『影との対峙』に続く。

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