第四十三話:悪魔王と四栄王
第五章:鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲
赤黎き光が揺らめく、荘厳な王の間。
玉座に鎮座する巨大な悪魔王の影は、その双眸から冷徹な光を放ち、ルーシェたちを見下ろしていた。
『我が半身よ、汝に問う。汝は何を望む』
影が口を開く。その声は、空気を振動させ、魂を直接揺さぶり、全てを飲み込むような重圧となって彼らの精神に響き渡った。
恐怖で足がすくみそうになるほどの威圧感が場を支配する。
『復讐……憎き人間を根絶やしにすることこそが、我らの望みであるはず。違うか?』
影は続ける。逃れられない呪縛のような響きを持って。
ルーシェは、頭痛に耐えながらゆっくりと立ち上がり、影を見据えて、その問いに真っ向から対峙した。
「復讐……最初は確かに、そう思っていた。父を殺し、国を奪い、リナキスまでもを死に追いやった憎き兄、ギルシェを殺すこと……それだけが、俺の生きる意味だった」
ルーシェの声は静かだが、そこには揺るぎない芯が通っていた。彼は視線を王の影へとしっかりと向け、言葉を紡ぐ。
「今もその想いは変わらない……。だが、悪魔領にきて、アークやリンシェン、カトリア達たくさんの悪魔族に出会い、人間のコルネが悪魔族の中で、種族の違いなんて関係がない程に、ラクーメルで平和に暮らしていたことを知った」
「ルーシェ……」
後ろでコルネや、仲間たちが静かに彼の名を呼ぶ。
「復讐は何も生まない……悲劇が連鎖するだけだ。だから、俺はっ……」
そう言って、ルーシェは力強く一歩前へと出る。
「今は、この世界を混沌に沈めようとしているギルシェを討ち、人間も、悪魔も種族の関係なんてなく、手を取り合える未来を作りたいと思っている!」
その力強きルーシェの言葉に、王の影が反応し、静かに低い声を上げた。
『愚かな……人間と悪魔が手を取り合える未来など、存在しない……それは幻想に過ぎない』
「実現、させて見せるさ。時間はかかるかもしれない、でも最初の一歩を踏み出すことはできるはずだ。そして、もし俺が朽ちても、後世に希望を残せるように……」
ルーシェの決意に、王の影がゆっくりとその赤き双眸を動かし、アークたちへと向けた。
『四栄王の子孫たちよ……主らも同じ気持ちか?』
その問いかけに、アークは真っ直ぐに影を見上げた。リンシェンは不敵に笑い、カトリアは真剣な眼差しで応える。
「あぁ。そんな未来が作れるのなら、俺は、俺たちは……ルーシェを信じたい」
しばらくの沈黙。広間に、永遠にも思える静寂が広がった。そして、王の影の赤き双眸がギョロリと動き、口元が歪む。
『ククク、ハハハハハ……笑止! 長きに渡る統治者の不在で、悪魔族も皆、墜ちたようだな』
影の笑い声が、広間の空気を氷つかせる。
『なるほど、古より我ら悪魔と人間にさえ仇なすもの、天魔神葬を宿す依り代と行動を共にしているのも納得だ』
その瞳は、一瞬コルネを鋭い視線で射ると、明確にルーシェたちに敵意を向けてくる。異様な緊張感が走った。
「え、何、なんなの……天…魔?」
コルネはその意味を理解できずに、混乱して後ずさる。
「天魔……神葬、あの時の……トリクの町の……」
アークとリンシェンが視線を合わせ、息を飲んだ。
『ならば、我は再び半身となったお前を喰い、そして四栄王と、天魔神葬をもこの身体に取り込み、唯一無二の存在となろう!』
ひと際低く、強い言葉が広間全体を重く揺らした。それと同時に、アーク、リンシェン、カトリアの持つ四栄王魔神具から、突然、赤黎き煙のようなものが舞い上がった。
それは瞬く間に形を形成し、それぞれの武器を持つ、影の戦士となって具現化する。
『示すがいい! 我らを抑えることができたのならば、我は主の臣従となろう、もし出来なければ、主らは我に喰われ、糧となる』
「おいおい、なんだってんだよ!」
リンシェンが魔氷四双剣を構え、目の前に現れた自分の影のような敵を睨む。
「はん、かつての四栄王の、影ってことかよっ! 上等だねぇ!」
カトリアも背中の魔変刀暗器を引き抜き、構えた。
「やるしかなさそうだ……コルネは下がっていろ!」
アークも魔弦奏楽器を手に持ち、臨戦態勢をとる。
「……ならば、俺たちが、俺たちが王、お前たちを抑えることができたのなら、お前の知っている全てを教えてもらう! なぜ俺が、お前の半身と選ばれたのかも全部だっ!!」
ルーシェも黒魔石の剣を構え、しっかりと王の影を見据えた。
『よかろう……だが、主らには万が一にも勝ち目はない!!』
王の影の双眸がカッと光ると、強力な引力が発生した。ルーシェは王の影が座る玉座の前へと、まるで吸い寄せられるように引きずり出される。
アーク、リンシェン、カトリアも、それぞれの四栄王魔神具から生み出された影の戦士と、強制的に一対一の状況を作り出された。
戦いが始まる。そう思われた瞬間だった。
ドゴォォォォンッ!!
広間に唯一見えている、左右の巨大な扉の、右の扉が内側から大きな爆発を起こし、吹き飛んだ。土煙と共に、二人の少年少女が転がるようにして広間へとなだれ込んでくる。
彼らの頭には、悪魔族の証でもある一本角。しかし、少年の方の角は痛々しくも半分に折られていた。
そして、その少年少女を追いかけるように、具現化された影の戦士がまたひとつ、赤黎い靄を纏って広間へと入り込んでくる。
「ノイン、大丈夫っ!?」
少女が叫ぶ。ノインと呼ばれた少年は、転がり込んできた広間で、すぐに体勢を立て直して、追ってきた影の戦士と対峙した。
その手には、鋭利な三つの刃を持つ、円形の大きな手裏剣のような武器が握られ、妖しく光っている。
「おい、ありゃあっ!」
その姿を見て、リンシェンが驚きの声を上げる。
「はん、ここにきて四人目の四栄王の末裔かよっ! 役者が揃ったってわけかい!」
カトリアも横目で、少年少女を確かめるように視線を向けながら続いた。
「……四栄王魔神具の最後のひとつ、魔仭投三日月・円月か……」
アークも確かめるように低い声で呟いた。
この空間には今、かつての悪魔王、そしてそれを支えた四栄王の全ての力が集結している。この王の間とも言われる広大な広間で、四人の末裔と一人の王の半身となった男。それぞれがそれぞれの力の影と、静かに対峙した。
第四十四話:『ノインルート』に続く。




