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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
第四章:響動の証明と共動の輪舞曲

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第四十話:ノイン、テナ、キリリ

第四章:響動の証明と共動の輪舞曲

 同時刻。人間領と悪魔領を隔てる大海原の只中。

 そこに屹立する巨大な建造物「真の結界塔」、塔の内部は今まさに地獄と化していた。


「オラオラオラオラァ!! ぶっ潰せ! ガハハハハ!!」

 塔の内部、石造りの広大な回廊に、下卑た笑い声が反響する。

 白銀の鎧に身を包んだ聖騎士団の兵隊たちが、逃げ惑う悪魔たちを追い詰め、無残にも斬り刻んでいた。

 悪魔たちは武器を持たぬ技術者や、塔の守り人たちだ。彼らに抵抗する術はない。

 その惨劇の後ろで、さも愉快と言わんばかりに叫んでいる男がいた。

 顔を覆う不気味な『黒キ仮面』。丸太のように太い腕には鋼鉄の手甲が嵌められ、返り血で赤黒く染まっている。


 ギルジエンド王国直属、黒キ仮面の一人、ディビラだ。

「結界塔を全部壊しゃあ、後は悪魔領を蹂躙するだけだぁ! 大部隊で攻め入って、一気に悪魔どもを根絶やしにしてやれんなぁっ! ガハハハハァァ!!」

 ディビラは手近な石柱を素手で粉砕し、瓦礫の雨を降らせながら哄笑する。

 塔のあちこちから、悲鳴のような断末魔が聞こえているが、彼にとっては極上の音楽でしかないようだ。

「ディ、ディビラ様! 後は最上の中央部のみとなります!」

 一人の聖騎士団員が、震える声でディビラへと報告を上げる。

「あぁーん? 塔の隅々までちゃんと見たかぁ?」

 ディビラは仮面の奥からギロリと兵隊を睨みつけ、威圧的な態度で声を返す。

「い、いえ、塔の最上、結界を制御している中央部を最優先にしましたので、細かいとこまでは……」

「うらぁあああ!!」

 ドガァッ!!

「ガブォグギャアゴッ!!」

 鈍い音と共に、報告を上げに来ていた兵隊の身体が「く」の字に折れ曲がり、壁まで吹き飛んだ。ディビラがその剛腕でぶん殴ったのだ。

 壁にめり込んだ兵隊はピクリとも動かない。

 周りの聖騎士団兵士たちが「ひいぃいっ!!」と情けない声を上げ、後ずさりする。


「……全部だよぉ!」

 ディビラが低い声で唸る。

「ひぃっ、ぜ、全部……」

「塔の隅から隅まで、ここにいる悪魔を全員見つけて殺せ! 全員だ! ネズミ一匹逃がすんじゃねぇぞ!!」

「し、しかし……無駄に多くの血を流す必要はぁあぁアガボゲガグギグゲェッ!!」

 正論を口にしようとした兵士の頭を、ディビラは巨大な手で鷲掴みにし、そのまま床へと思い切り叩きつけた。

 グシャリ、と生々しい音が響き、兵士は無残にも絶命する。

 ディビラの狂気的な態度と命令に、残った聖騎士団兵士たちがすぐに怯えたようにその場で膝をつき、平伏した。

「は、は、はぁあい! お、仰せのままに!」

「悪魔は全員皆殺しだ! そして俺様に口答えするバカどもも全員なぁ!! さぁもっと悲鳴を、断末魔を聞かせてくれよぉ!!」

 ディビラは両手を広げ、天井に向かって吠えた。

 塔は暴力と恐怖に完全に支配されていた。



「……っくそ、人間め」

 その凄惨な一部始終を、通気ダクトの隙間から息を潜めて見ている少年が一人。まだあどけなさの残る顔立ちだが、その双眸には強い意志の光が宿っている。

 額から生えている悪魔族の証でもある一本角は、痛々しく半分に折られていた。


「とにかく、この結界塔はもう駄目だ。最優先は、できるだけ多くの同胞をここから逃がすこと」

 少年は唇を噛み締め、ディビラの姿を睨みつけると、踵を返してダクトの中を這い進んだ。

 これ以上ここに留まれば、見つかるのは時間の問題だ。

「地下通路から……海底トンネルを抜けるしか、ないか」

 彼は迷路のようなダクトを抜け、薄暗い廊下へと降り立つと、足音を忍ばせて走り出した。

 少し走った先の行き止まり。壁に掛けられた古いタペストリーをめくり、そこに隠されている隠しボタンを押す。

 ゴゴゴ……と微かな音を立てて壁がスライドし、隠し部屋への入り口が現れた。

 少年は周囲を警戒しながら、そっと中へと滑り込む。

 その扉の中には、狭い空間に身を寄せ合うようにして、たくさんの悪魔族の子供達が隠れていた。とても小さい子から、少年と同じ、十五、六歳くらいまでの年長組まで様々な年齢の子供達。その数は八名。

 彼らは身寄りを亡くした子供や、家族と離れ離れになってしまった少年少女たちだ。この結界塔では、そんな子供達を各地で保護しては、育て、教育をおこなっていた。


「ノイン! 無事だったのね」

 扉が開いた音にびくりと震えた少女が、ノインの姿を見て安堵の声を上げた。年長組の一人で、小さい子供たちを守るように抱きしめている。

「テナ! 良かった。まだここは見つかっていなかったんだね」

 ノインもほっと息をつく。

「ノイ、ノイ兄ちゃん、な、何が起きてるの……」

 一番小さな男の子が、涙目でノインの足にしがみついてきた。

「怖いよー! なんで揺れてるの!」

「大きい音いやぁ! いやぁ!」

 外から響く爆発音や振動に耐えきれず、堰を切ったように子供達が泣き叫び出す。

 パニックが伝染し、狭い部屋は恐怖で満たされた。


「みんな、大丈夫だ! 静かに!」

 ノインが声を張り上げるが、子供たちの耳には届かない。

 彼は深呼吸をし、精一杯の穏やかな声と笑顔を作って、子供達の目線に合わせて屈み込んだ。

「大丈夫だよ。僕たちがついてる。だけどここは危ないから、すぐにお引越ししよう。ね?」

 テナを含む、年長組の数人が、その様子を見てハッと我に返る。自分たちが動揺していては、小さい子たちはさらに不安になるだけだ。

 彼らもまた、震える手を隠し、精一杯の穏やかな声を作って子供たちを宥め始めた。

「ノイン、脱出するって……海底トンネルを使うのか? だがあそこは!」

 同じ年長組の男、キリリが顔色を変えて問いかける。体格の良い少年だが、今は不安で顔が青ざめているように見えた。

「こ、ここにずっと隠れていれば、見つからずにやり過ごせないかな?」

 その言葉にテナも縋るように続いた。海底トンネルの危険性を、彼女たちは知っている。


 だが、ノインは静かに首を横に振った。

「駄目だ。やつら、この塔の隅から隅までを調べ上げて、悪魔を皆殺しにするつもりだ……この場所もいずれ……」

「……そんなっ! 酷すぎる……」

 テナが絶望に膝をついた。

「やつらは、女子供でも容赦しない……だから、一刻も早くここから脱出しなくちゃいけないんだ」

 ノインが悲痛な声を上げた。

 選択肢はない。ここに残れば死あるのみ。ならば、わずかでも可能性がある道を選ぶしかない。

「……分かった。ならすぐに動こう。子供達を犠牲になんてさせない」

 キリリが顔を上げ、決意を固めたように声を上げた。

 彼はパンと手を叩き、泣きわめくように騒いでいる子供達に、明るく、力強く声をかける。

「みんな! 聞いてくれ! 今ここは悪ーい人間たちに攻め込まれている。だけど大丈夫だ。俺達にしっかりついてきてくれたら絶対に安全だ! ちょっとした冒険だぞ。ついてきてくれるよな! みんな、泣かないで頑張れる、強い子だもんな!」

 キリリの頼もしい声に、子供達は怯えながらも、涙を袖で拭い、小さく頷く。

「う、うん! できる……」

「がんばる……」

 ぐずった声だが、一応のパニックは収まった。


「ありがとう。キリリ」

 ノインが感謝の言葉をかける。キリリは「へへっ」と照れくさそうに鼻をこすった。

「絶対、全員生き残るぞ! 誰一人欠けさせねぇ」

 キリリは拳を力強く握る。

「私も……みんなで絶対に!」

 テナも表情を取り戻し、涙を拭って頷いた。

 年長組の三人が先頭に立ち、子供たちを守るように陣形を組む。

 ノインは部屋の隅にある床板を外し、暗い梯子が続く地下への入り口を開いた。そこからは、冷たい潮風と、不気味な海鳴りが聞こえてくる。


 彼らにとっての唯一の希望の道。

「行こう。静かに、素早くだ」

 ノインを先頭に、小さな影たちは闇の中へと消えていった。

第五章:【鳴動の邂逅と宿縁の幻想曲】

   第四十一話:『崩壊国家ダークリア城跡地』に続く。

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