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『すべてを奪われた皇子は、復讐の果てに【悪魔の王】として世界を塗り替える』  作者: 綾坂真文
第三章:黎明の反逆と奔走の行進曲

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第二十七話:しばしの休息

第三章:黎明の反逆と奔走の行進曲

「ぷっはあぁあああっ!!」


 冷たい水の底から、モッズが勢いよく顔を出し、大きく息を吸い込んだ。サティは既に泳ぎ切り、湖畔へと上がっている。びしょ濡れになったショートカットの髪をかき上げ、彼女は何事もなかったかのように静かに息を整えていた。


「……生き残れたな」

「『生き残れたな』……じゃねえよ! ほんっとに無茶ばっかりする嬢ちゃんだな!」

 サティの後を追って、モッズもようやく湖畔へと這い上がってきた。

 全身にまとわりつく濡れた服が、ずしりと重い。

「はあぁあ……。もう、限界だぜ……」

 そう言うと、彼は濡れた地面の上に、大の字になって倒れ込んだ。

「悪いが、少し……休ませてくれ……」

 そう言って、モッズは静かに目を閉じる。

 サティも、近くにあった大樹にもたれかかるように座り込むと、「……その意見には、同感だ」と短く答え、同じように目を瞑った。


「……追手は、こないだろうな……?」

 しばらくして、モッズが、空を見上げたまま呟いた。

「わからない。普通に考えれば、爆発した小型艇の残骸から私たちの位置を割り出すのは、そう難しくはないだろう」

 サティが、冷静に答える。

「……逃げるか?」

「いや……」

 サティは、首を横に振った。

「根拠はないが、この場所は安全な気がする……。不思議な力の流れだ」

「……勘違いじゃなきゃいいがな」

 モッズは軽口を叩きながらも、どちらにしろ、もう一歩も動けない、とでも言わんばかりに身体を横向きにすると、すぐに穏やかで静かな寝息を立て始める。


 先ほどまでの怒涛の展開が嘘のように、穏やかな風が二人の濡れた髪を優しく揺らしていく。夜が明け、空に昇り始めた太陽の光が、冷え切った二人の体温をゆっくりと温めていく。

 時折聞こえてくる名も知らぬ鳥の声や、木々の葉が擦れ合う音が、まるで子守唄のように心地良く響いていた。

 二人は、しばしの貴重な休息を取った。


 どのくらいの時間が経っただろうか。

 太陽はいつの間にか、空の最も高い位置まで昇りきっており、雲一つない突き抜けるような青空が広がっていた。

 深く眠ってしまっていたサティが、ふと、その目を開ける。

 耳には、パチパチ、という心地の良い音が響き、香ばしい焼けた魚の匂いが鼻腔を静かにくすぐる。


「よぉっ! 美味しそうな匂いに目が覚めたか、嬢ちゃん」

 焚火の前で、数匹の魚を慣れた手つきで焼いている、モッズの姿が目に映った。

「これは……」

 サティは、ゆっくりと上半身を起こす。

「腹、減っただろ。そこの湖、結構いい魚がいっぱい泳いでたんだ。食わねえと力も入らねえしな」

 木の枝を削って作ったのであろう串に刺さった魚が、じゅうじゅうと音を立て、脂を滴らせながら、食欲をそそる香ばしい匂いをあたりに漂わせている。

「……お前が、獲ったのか?」

「まぁな。若い頃は、よくこうやって川で魚を獲って食ったもんだ。魚を獲るのも、火を起こすのも、結構得意なんだぜ。……っと、コイツはもう食えるな」

 モッズから、こんがりと焼けた魚串を一本受け取ると、サティは豪快にその身に齧り付いた。

「……うまいな」

 空腹だった腹に、温かい食事が染み渡っていく。

「だろ? あー、やっぱとれたてはうめぇ~」

 モッズも自分の分の魚串を一本取ると、満足げに声を上げた。


「太陽が、真上に位置している……。既に昼過ぎか」

 魚を頬張りながら、サティが空を見上げて呟いた。

「ああ。俺たちがここに墜落したのが、多分、明け方くらいだ……。七時間くらいは、ぐっすり寝てたんじゃねえかな」

 モッズが肩をぐるぐると回しながら、「おかげで大分、体力も戻ってきたぜ」と答えた。

「周りに人の気配は……ないか。空や、遠くの方がざわついている感じも、ない……」

「嬢ちゃんの言う通り、俺が目覚めてからも、追手の気配は今のところ全くねえな。……もしかしたら、諦めてくれたのかもな。俺たちみたいな小物、放っておけばいいだろう、ってよ」

 モッズが、いつものように軽口を叩く。

「……そうだといいがな」

 サティも、静かに答えた。


「どちらにしろ、まずは、ここがどこなのかを知る必要がある。可能性があるとしたら、自治州コーストとギルジエンドの国境付近か……」

「……ギルジエンド領内、ってか?」

 サティの言葉に、モッズが割って入った。

「ああ。あの飛行戦艦が飛んでいた位置からして、おそらく……そのあたりだろう……」

「嬢ちゃん、この森と湖に何か心当たりは?」

「……ないな」

「だろうな……。俺にも、全く見覚えがねえ。……となると、やはりギルジエンド領内の可能性が高いだろうな……」

 モッズが、冷静に言葉を紡いだ。

「見つかれば、捕虜に逆戻り、か……」

 もう一口、サティが魚串を齧る。

「いつまでも、ここにいるわけにもいかねえしな……。この魚を食い終わったら、日が暮れる前に少しこの辺りを調べてみるか」

 そう言って、モッズも残りの魚を口へと運んだ。


「しっかし、いい天気だねぇ!」

 モッズが、食べ終えた串を焚火に放り込み、立ち上がって大きく伸びをしながら空を仰いだ。

「そうだな。霧なども出ていない、視界は良さそうだ」

 サティも立ち上がると、「行くぞ」とでも言わんばかりに手招きをし、モッズもやれやれといった表情で、その後ろを追いかけた。

「いきなりギルジエンドの聖騎士団にでも遭遇して即連行、なんてことにならなきゃいいがな」

「問題ないだろう。森の中は、陽動もしやすい。少人数の方が断然有利だ」

 行く手を阻む植物を手でかき分けながら、サティが先頭を進む。

「ったく……。どこまでも、たくましい嬢ちゃんだこって……」


 その頼もしい後ろ姿を見ながら、モッズは呆れたように両手を広げた。

第二十八話:『幻術の森と古代遺跡』に続く。

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