第二十四話:モッズ・ラッツ・ソルティ
第三章:黎明の反逆と奔走の行進曲
「紹介しようっっ! ギルジエンドが誇る、最新鋭の生物兵器! 軍用機械魔獣ガルアーガ、その試作機――『プロトタイプ LEO / ナンバー・シックスティーン』だ!」
高らかに叫ぶジルガンの声に呼応するかのように、目の前の魔獣が天を衝くほどの咆哮を上げた。
「ガルァァアアアアアアアガァアアアッッ!!」
凄まじい絶叫が操縦室のフロア全体を震わせる。爆風にも似た衝撃波が奔り、サティとモッズはその威力に抗う術もなく、通路へと吹き飛ばされた。
「くそっ! おい、どうすんだよ、アレ!」
モッズが空中で巧みに身体を回転させながら体勢を立て直し、忌々しげに問いかける。
「どうもこうもない! やるしかないだろう!」
同じく、猫のようにしなやかに着地したサティは、即座に両の拳を固く握りしめた。その瞳には、恐怖の色など微塵も浮かんでいない。
「うへぇっ! まじかよ……」
目の前の常軌を逸した怪物にも一切動じないサティの様子に、モッズが「肝が据わってんのか、ただの無謀なのか……」と呆れたように声をかけ、手にした剣を構えた。
押し出された扉の外。二人が構えたのと、ほぼ同時だった。
魔獣がその巨体からは到底想像もできないほどの、驚異的なスピードで襲い掛かってくる。その牙を粘つく唾液で濡らしながら、鋭い爪を横薙ぎに振り抜いた。
「ガルァァッ!」
ズガァァァンッ!! 艦内の硬い金属の床が、まるで紙細工のように砕け散り、無数の破片が宙を舞う。そのあまりにも破壊的な一撃を二人は左右に散開し、紙一重で回避した。
「おいおい、ちょっ……! 戦艦ごとぶっ壊す気かよ、コイツは!」
器用に片手で床をつきながら身体を回転させたモッズが、悪態をつく。
「ならば、壊される前に叩き潰すまでだ!」
サティは尚も連続して叩き込まれる魔獣の爪を、常人離れした素早い身のこなしで避け続けると、攻撃と攻撃のほんの一瞬の隙をついて、逆に魔獣へと間合いを詰めた。
懐に潜り込まれた魔獣が、その巨大な牙でサティを噛み千切ろうと大きく口を開く。だが、サティは軸足をくるりと捻ると、片手で床をついて側転し、その勢いのまま右足を強く踏み込んで、天高く跳躍した。
「大人しく沈め!」
叫びながら魔獣の太い腕を足場にして駆け上がる。そして再び空中へと跳躍すると、がら空きになった獣の後頭部へと強烈なハイキックを叩き込んだ。
「ガルグァアアアアアアァッ!!」
脳天を揺るがす一撃に、魔獣が苦悶の声を上げ、その巨体が前のめりに崩れ落ちる。
その隙を逃さず、サティはモッズへと鋭いアイコンタクトを送った。
「わーったよ! やりゃあ、いいんだろっ!」
モッズは、サティの意図を即座に理解すると、床を蹴って加速し、前のめりになった魔獣の頭部めがけて、その鋭い剣を力任せに突き立てた。
「ギャアアアアガァアアアアアアアッ!!」
頭蓋に剣を突き立てられ、魔獣が艦内全体を揺るがすほどの絶叫を上げた。そして凄まじい勢いでのたうち回る。
「うおっ、お、おい、おおっい!」
縦へ、横へと、予測不能に暴れ狂う魔獣の動きに、剣を掴んだままだったモッズは、あっけなく振り落とされてしまった。
「いってぇええええっ!」
剣を頭部に突き刺されたままの魔獣が、床に転がったモッズへと、怒りのままに無茶苦茶に爪を振り下ろし始めた。
「いや、待てって! 頭に剣が突き刺さってんだろうが! とっととくたばれよ、この化け物が!」
丸腰になったモッズは、その爪を必死に身体を捩じりながら避け続ける。だが、完全に避けきることはできず、その身体に細かい切り傷が次々と増えていく。
「ちょっ……! 嬢ちゃん、何とかしてくれよぉっ!」
「今、動いている!」
自分の頭部に剣を突き立てたモッズに、怒りに任せて爪を振り下ろし続ける魔獣へと、サティが横から猛スピードで走り込む。
「私のことを、忘れるなっ!」
サティの存在など、もはや眼中にないかのように、モッズへと執拗に攻撃を続ける魔獣。そのがら空きになった頭部へと、サティは再び強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ギャガアアアアアッ!!!」
その隙をついて、モッズがどうにか体勢を立て直し、後方へと大きく跳んで下がった。
「助かったぜ、嬢ちゃん! ……ただ、相手さんは、相当な激おこモードだけどな!」
精一杯の軽口を叩くモッズに、「言い方が古い! おじさんだな」と、サティが冷静に突っ込んだ。
「ちっ……! おじさんも何も、正真正銘おっさんなんだよ!」
モッズは、バツが悪そうに頭を掻いた。
「んで、どうする? 致命傷でも与えねえと、静かになってくれそうにないぜ」
尚も咆哮を上げ、こちらへ向かって一直線に突進してくる魔獣に目を向けながら、「俺は丸腰、嬢ちゃんは素手だ。おまけに、頭に剣が突き刺さってても、あっちは戦意バリバリと来た……。どうやってこの場を収める?」と、モッズが問いかけた。
「モッズ。あんたは最初、こう言ったな。『剣は専門じゃない』、と。……他に、専門分野があるんじゃないのか?」
サティの、全てを見透かすような鋭い言葉に、モッズは一瞬、言葉を詰まらせた。
「……はぁぁー。嬢ちゃん、あんた、やっぱ只者じゃないな」
やれやれ、とでも言うような大げさなジェスチャーをして、モッズが声を吐き出す。
「私が、魔獣の動きを止める。……いけるな?」
サティが一瞬のうちにそう告げると、再び持ち前のスピードで、襲い来る魔獣へと真正面から走り込んでいく。
「……しゃあねえか。へいへい、これで俺も、ギルジエンドに名を知られた、立派な指名手配犯か。……って、まあ、こんなことしてる時点でどっちも一緒か」
モッズは、懐から禍々しい紫色の光を放つ滅紫の宝玉を取り出した。それを左手で強く握り締め、右の手の平をその横に添える。
すると彼の手の平に、どす黒い気が渦を巻くようにどんどんと集まり、膨れ上がっていくのが見えた。
「……ふっ、そうか。どうりで……! せいやぁっ!」
サティが、モッズのただならぬ様子を横目に確認しながら、魔獣の攻撃を掻い潜り、その屈強な足に裏拳を的確に叩き込んだ。
「ギャアアアアガアアアアッ!!」
足元のバランスを崩し、魔獣の巨体が轟音と共に床へと倒れ込む。
すぐさまサティは回転し、後方へと大きく跳んで距離を取った。
「崩したぞ! 今だっ!!」
そのサティの声に呼応し、モッズが全ての気を溜め込んだ右手を、魔獣へと向ける。
「はいよっ! ……一回こっきりが限度だ! とっとと成仏してくれよっと!」
「夢幻開門・一魔――嘴!」
瞬間、モッズの右手に集まっていた禍々しい気が巨大な怪鳥の嘴のような形へと変化した。そして、そのまま倒れ込んだ魔獣の身体を、喰い千切るように粉々に切り裂いていく。圧倒的な力が空間を揺らしているかのような衝動。
「ゴグゲガァァァアアアガゲボラァアアアアアアアッッ!!!」
魔獣は最後の断末魔を上げると、その巨体を無残に引き裂かれ、その場で完全に沈黙した。
第二十五話:『【クライシス】脱出』に続く。




