第二十三話:艦内制圧戦
第三章:黎明の反逆と奔走の行進曲
ギルジエンド特務飛行戦艦第三号【クライシス】艦内、操縦室。
無数のモニターが、艦内の様子を映し出していた。その中には、先ほどまで捕虜として監禁されていたサティとモッズの姿が、はっきりと映し出されている。
「……で、いかがなさいますか? ジルガン様」
銀色の鎧を纏った副官らしき男が、恭しく膝をつき、指示を仰いだ。
「面白いじゃないか。僕は、こういうイレギュラーも楽しめる男なんでねぇ。もし、この操縦室まで辿り着くことができたのなら、それ相応の歓迎をしてやろうじゃないか」
ジルガンと呼ばれた男は、優雅にキャプテンズシートに腰掛けながら、片手に持ったワイングラスを軽く揺らし、キザな口調で答えた。
その表情には、焦りの色など微塵も浮かんでいない。
「それに、ちょうど試したかった『玩具』もあったんだ。むしろ、おあつらえ向きじゃないかぁ」
いやらしい笑みを浮かべるジルガンに、副官は「……では、あれを……」と、遠慮がちに声をかけた。
「あぁ。ここまで辿り着けるかはわからないが、準備だけはしておいてくれ。さぁてさて、退屈しのぎくらいには、なってくれるのかねぇ」
そう言うと、ジルガンは、モニターに映る二人の反逆者を肴にするように、手に持っていたワインをゆっくりと一口だけ飲みこんだ。
ーー
「はいよぉっと! よぉっと! あらよっと!」
兵士が振り抜く鋭い剣を、ひょうひょうとした、どこか掴みどころのない動きで避けながら、モッズは正確に相手の足を狙って、手にした剣を突き立てる。
その姿は、一見するとただの中年のおっさんが、不格好に、無我夢中で動き回り、偶然にも剣を振り抜いた先に兵士の足があったかのように見えているが、もう一方で完全に計算され尽くした不格好さにも見て取れた。
「くっ……! なんだ、このおっさんは……!?」
その奇妙で予測不能な動きに、屈強な兵士たちは翻弄され、徐々に攻撃の精度を欠いていく。
「おいおい、こっちはただのおっさんと女の二人なんだぜぇ? 少しは遠慮してくれよぉ、兵隊さんよ!」
そう軽口を叩きながら、モッズは身体を捻り、独特のステップで兵士との間合いを詰めると、次々とその足を斬り裂き戦闘不能へと追い込んでいく。
「ぐわあぁああ!」
「ぐぉおっ!」
「命がかかってるとはいえ、あんまり殺しはしたくないんでね! 足だけ狙わせてもらうぜ! ……まあ、さっきの見張りの兵隊には、悪いことしちまったがなぁ!」
その一方で、サティは持ち前の圧倒的なスピードで、あっという間に兵士との間合いを詰めると、瞬時に相手の死角である後方へと回り込み、しなやかで鋼のように強靭な脚から強烈なハイキックを首筋へと叩き込む。
有無を言わさぬ速さと威力で、周囲の兵士たちを次々となぎ倒していくその姿は、まさしく『拳将』の異名に相応しく、あっという間に兵士たちは意識を失い、無力化されていった。
「な、なんだよ、こいつら……! ただの捕虜じゃないのかよぉっ!」
気付けば二人を囲んでいた数人の兵士は倒れ、残るは、恐怖に顔を引きつらせた最後の一人だけとなっていた。
その最後の一人に向かって、サティとモッズが同時に走り出す。
「……おっと! ここは、お嬢さんに華を持たせるとしますかね!」
その様子を見極め、モッズはわざとらしく足を止めると、残された兵士に向けて「ご愁傷さん!」と小さく声を上げて、片手を顔の前にかざした。
「ひぃいいいいいいっ!!」
詰められた間合いに、兵士が情けない悲鳴を上げる。
勢いのまま高く跳躍したサティが、空中で身体を回転させ、今度は拳を回し、強烈な裏拳を兵士の首へと的確に打ち込んだ。
「ひゅーっ! おっかないねぇ」
声もなく崩れ落ちた兵士の姿を見て、モッズがやれやれと肩をすくめた。
「行くぞ! もたもたしてはいられない!」
サティは、尚も冷静な声で言うと、すぐに前へと走り出す。
「へいへい! 時間がないんだったな」
そう言って、モッズもその後ろを追いかけた。
けたたましい警報音は、未だ、艦内に鳴り響き続けている。
「んで、今更だが操縦室の場所はわかるのか?」
モッズが、サティに問いかける。
「問題ない。この手の戦艦の構造は大体が一緒だろう。なんとなく、見当はつく」
足を止めることなく、サティは即答した。
「そういうもんかねぇ。ったく、どこまでも強気な嬢ちゃんだ!」
「艦内での戦闘は、早期決着が鉄則だ! さっさと行くぞ!」
「へいへいっ」
緊張感があるようで、どこか余裕すら感じさせる会話を交わしながら、二人は艦内の奥へ、奥へと突き進んでいく。
途中、何度か兵士たちに囲まれるが、その度に、ものの数分で彼らを無力化し、やがて、ひときわ大きく重厚な扉が、二人の視界に飛び込んできた。
扉の前には、二人の見張りの兵士が巨大な盾と槍を構えて立っている。
「おっと、こりゃ、ビンゴだな!」
モッズの言葉に、「一気に制圧するぞ!」とサティが短く答えると、二人はそれぞれの利き足を軸に同時に跳躍した。そして左右に分かれ、見張りの兵士たちを必殺の蹴りと剣で一瞬のうちに無力化する。
そのままの勢いで着地し、二人は重い扉の中へと転がり込んだ。
「くそっ! やはり、ここまで辿り着いたか!」
キャプテンズシートの前に立つ数人の精鋭兵士が、憎々しげに声を上げ、二人を睨みつけ武器を構えた。
その後方で、キャプテンズシートをくるりと回転させたジルガンが、不敵な笑みを浮かべながら、芝居がかった口調で言った。
「やあ、勇敢なる捕虜の諸君。私の名前はジルガン。艦内には、結構な数の兵士がいたと思うのだが、よくぞここまで辿り着いたものだねぇ」
その、あまりにも余裕を感じさせる態度が、サティとモッズの癇に障った。
「余裕ぶっこいてんな……。もうちょっと、焦った顔が見られるかと思ってたんだが」
モッズが、つまらなそうに呟く。
「……切り札があるってことだろう。……使われる前に、終わらせる」
サティはそう言うと、すぐさま床を蹴り上げ、ジルガンに向かって一直線に跳躍した。
しかし、そのサティの前に、閃光のような速さで巨大な影が立ち塞がった。
「ガルァァアアアアアアアガァアアアッッ!!」
一瞬にして、二人の目の前に現れたのは、百獣の王ライオンを思わせる頭部を持つ、二足歩行の巨大な獣だった。鋭き牙が剥き出しにされ、そこから滴る唾液がその獰猛さを物語っている。恐ろしい爪を備えたその四メートルはあろうかという巨体には、無骨な機械の鎧のようなパーツがいくつも接続されていた。
その圧倒的な威圧感に、後方へと回転し、サティは獣との距離を取った。
そして、キャプテンズシートに座るジルガンが、ワインを優雅に一口飲み込むと、高らかに、そして楽しげに叫んだ。
「紹介しようっっ! ギルジエンドが誇る、最新鋭の生物兵器! 軍用機械魔獣ガルアーガ、その試作機――『プロトタイプ LEO / ナンバー・シックスティーン』だ!」
第二十四話:『モッズ・ラッツ・ソルティ』に続く。




