やらなきゃいけないこと
お母さんは左腕が無かった。それは、私が物心ついたときから無かった。代わりにお母さんの腕には義手が嵌められていた。
「かえで?どうしたの?」
「ううん。なんでもない。洗濯物畳んでくる!」
器用に料理するお母さんはまるで何か隠し事をしているような気がした。
「今日は『あの人』出張なんだって。どうせ女の人と飲んでるんだろうね。人間なんて信じなきゃ良かった」
「そう、なんだ」
_お母さんが言ってる『あの人』はお父さんのことだけど、アリスの言ってた”あの人”って誰なんだろ。ん?ちょっと待って、お母さんのシチューを食べた時に言ってた気がする。
「お母さん、あのさ、友達がシチュー美味しかったって。それと、『アリス』って子知ってる?」
「そう。それは良かった。今度家にも招待してね」
お母さんは最初から聞こえなかったとでも言うように、アリスのことをスルーした。
「おかあさ」
「かえで。ちょっと静かにしててくれるかな?」
「っ。ごめんなさい」
アリスに言われたとおりに指輪に付いた宝石に唇をつけると、光が私を包みこんだ。
「ばあ」
「うわっ!」
アリスがくすっと笑った。
「びっくりした?」
「びっくりしたに決まってんじゃん!もー、どこでそんなの覚えたの」
「ほん」
いこう、とアリスが手を差し伸べてきた。手を取るとアリスはゆっくりと歩き出した。
「ねえ、ここって私の学校なんだけど」
「そうなの?しらなかった」
毎日のように通っている学校なのに、知らない学校みたいだった。
「わたしのおきにいり」
階段を上って、屋上につながる扉に着いた。
「ここって開くの?私の世界じゃ開かないけど…」
「あくよ。…ここはわたしの世界だから」
アリスがドアノブに手をかざすと、錆びついた音を立てながら扉がひとりでに開いた。
「わぁ…」
目の前に広がった景色に思わず息を呑んだ。
手が届きそうな距離に月が浮かんでいた。屋上のフェンスには不亡蝶が止まっていた。
「月がきれいだね」
「うん。私の世界とは大違いだよ」
「………わたしもカエデの世界にいきたい。ほんとうの世界にいってみたい」
「!じゃあ行こうよ!私が案内してあげる!」
「…ごめんね」
手がすっと離れる。その間を冷たい風が吹いた。
「なんで…」
「わたしはやらなきゃいけないことがあるの」
「そんなの…そんなの捨てて、私と逃げようよ!」
「………」
「!」
世界の色が青から白く変わった。
なんで色が変わるのかも、色の意味も知らなかったけど…この色は悪い予感がする。早くここから逃げたほうがいいという警告が頭の中で鳴り響くのと同時に、アリスを置いていけないと思った。
「わたしはだいじょうぶ」
終わりの雰囲気が漂ってますが、書きたいシーン書けてないのでまだ終わりませんよ〜




