好きとかじゃないし
「救う、ってどういうこと?」
アリスは目を閉じいて、下を向いた。再び、アリスが目を開けると瞳の中は紫色で満ちていた。気づけば、海も遠くに映るビル群も紫色
「なんでもない。忘れて」
冗談を言った後のように微笑んだ。アリスの瞳は、青色に戻っていた。
「帰らなくていいの?」
「…いや、帰るけど。ってか、どうやって」
「わたしとキスしないと帰れないよ」
アリスはさらりとそう言った。
「え…。他に方法ないの?ほら、どこかに扉があるとか」
「ないよ」
「…………マジで?」
「マジってなに」
「………」
「カエデ、目を閉じて」
アリスの柔らかな声に促されるまま、私は目を閉じた。左手の薬指に何かがはめられる気がしたのと同時に、唇に温かいものが当たった。
「また来てね」
_目を開くと、アリスの姿は見えなかった。
そこはさっき水たまりがあった路地裏だった。だけど、水たまりはもうなかった。
「夢じゃ、ないよね………痛っ」
頬をつねったけど、普通に痛い。
「うわーびしょ濡れ」
立ち上がって制服を絞っていると、アリスにはめられた指輪が目に止まった。指輪に付いた小さなピンク色の宝石が輝いている。
_また来てね。
「…また来るよ、アリス」
路地裏を抜けて家に帰る頃にはもう日は落ちていた。代わりに、星が一つ輝いていた。
「ただいまー」
「おかえりかえで…って、びしょ濡れじゃない。もーどうしたのよ。今タオル持ってくるから、そこで待っててね」
玄関まで迎えに来た母が、わたしの姿を見て慌ててタオルを持ってきた。
「もう高校生だし自分で拭けるってば」
「いいのいいの」
母はそう言いながら、私の頭にタオルを乗せた。
「今日はかえでの好きなシチューだよ」
「ほんと!やったー!」
そういえば、アリスってご飯食べてるのかな。てか、食べれるのかな。
「お母さん、シチューをタッパーに入れて欲しいの。食べさせたい人がいるんだ」
母が私の指輪を見た気がした。慌てて指輪を手で押さえたが、もう遅かった。
「もちろん。カエデが恋した相手なら」
「えっ」
「恋は世界を変えるからね。お母さんには分かっちゃうんだー」
ニコッと母は笑って台所に戻っていった。そんな母の後ろ姿に私は思いっ切り叫んだ。
「そんなんじゃないってば!」
母は振り返って「そうなの?」と言ったが、まるで分かってるとでも言うように笑っていた。
「好きとかじゃないし…」




