救われる人と救う人
どこまでも青かった。私が住んでいる世界と鏡合わせにしたかのようにそっくりだ。建物もあるのに、人や虫、動物は見当たらない。強いていえば、前を歩く少女の姿だけ。
少女は飾り気のない白いワンピースを着ていた。
「ここは、どこなの?君は誰なの?」
青とも金とも言える白銀の髪を揺らしながら少女が立ち止まった。
「わたしはアリス。ここは…『わたしの世界』」
振り返ることなくアリスは再び私の手を引っ張って歩き出した。何処かに向かっているみたい。アリスの裸足の足音と、私のローファーの音が交わって静寂な世界に消えていく。
「アリスはどうしてここにいるの?」
「…………」
「『わたしの世界』って何?」
「…………」
何を喋ってもアリスは何も答えなかった。
「…ファーストキスだったのに」
ぽつりと呟いた声も水の中に消えてしまいそうだった。
「……ごめん?」
「まあ、良いけど…」
急に返事が帰ってきて照れくさくなった私は、アリスの背中から視線を外した。その時、視界の隅で何かが光った。
「あ、さっきの蝶」
「どこ」
「えーっと、あそこ。てか、距離近くない?」
女同士だとしても明らかに距離が近すぎる気がする。
「?ごめん。初めて人に会ったから距離感分からない」
そっとアリスが離れた。アリスの顔には不思議そうな表情が残った。
「おいで、不亡蝶」
「ふなきちょう?」
白く淡く光っている蝶_不亡蝶がアリスの伸ばした指に止まった。
「ここで生きていた人たちの名残。不亡蝶はいっぱいいるよ」
でもどこで生まれていつからいるか分からない、とアリスは言った。不亡蝶はアリスの指先から飛び立っていった。
「いこう。もうすぐ日が暮れるよ」
ビル群を抜けると、視界が青く広がった。
「海だ」
思わず息を呑んだ。現実の世界と違って波は一つもなく、ただ遠くまで水平線が広がっていた。それと、海の中から出た崩壊したビルや電波塔の一部が見える。
「こっち」
アリスは砂浜に無造作に置かれたベンチを指さした。古びていて、白いペンキがところどころ剥がれていた。
「ここは?」
「わたしの好きな場所。あそこからいつも違う世界を見ているの」
「…この世界が全てじゃないから?」
昔、母に言われた言葉だ。もしかして、ここは_
「それ誰から聞いたの」
「お母さんから。私が小さかったときに」
アリスは何も言わずに、古びたベンチに座った。
「待ってたよ、カエデ」
「どういうこと?それに、どうして私の名前を」
アリスと目が合った。その目は青く澄んでいた。
「ねえ、カエデ」
アリスは私の問には答えずに、そっと手を握ってきた。
「わたしを救って」




