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第五話 町田良、変わりゆく世界

「分かった。いいよ」

「……いいの?」

「勿論だ。ちょっと時間かかるけどな。なんせキャラデザとか担当した大学時代の友人達にも声かけにゃならんから。連絡先分からんやつもいるし」

父さんはモニタの向こう側で軽く微笑んで見せながらそう言った。今、こっちは昼だけど、向こうは夜のはず。時間の調整が中々つかなかったのと、本当を言うと僕が気後れしたせいで、市川先生に言われた「許可」を得るためのネット通話を繋げられるまでに結構な日数がかかってしまった。全部メールとかで連絡しても良かったんだろうけど(実際いつも連絡はメールで済ませてたから、こんな風に、それも僕の方から通話するのはすごく珍しいことだ)、勝手にファイルを引っ張り出して勝手に制作したことに対する負い目が、それを許さなかった。怒られるだろうか、呆れられるだろうか。それとも、無関心だろうか。色々想像した。なのに、

「まあ心配するな。自慢じゃないが父さん友達少なくてな。せいぜい3人から許可取ればオールクリアだ。待ってろ、カッチョいい許可証作ってすぐ送ってやるからなー」

「……楽しそうだね」

「嬉しいんだよ」

「何が?」

「わかんねーかな? だって自分の仕事を自分の息子が引き継いでくれるんだぞ? 頼んでもないのにな。ははは。こんな嬉しいことが他にあるか?!」

僕は面食らった。そんな風に考えたことが無かったから。僕は父さんのことが好きだったし、「Burn Drive」の仕様書を見てからはエンジニアとしても尊敬してた。だからその仕事を盗んでしまった僕が、盗まれた父さんに喜んでもらえるなんて、想像の範囲を越えてしまっていた。

「お前も子どもを持ったら分かるよ」父さんはそう続けてから、画面の向こうで母さんにキスして、通話をバトンタッチした。


すごいな。なんでこんな事になるんだろう。なんでこんなに、世界の見え方が変わるんだろう。

「良君。ちょっと見ない間にまた格好良くなったね」

という、いつもなら返答に困る母さんの言葉も、少しだけ素直に嬉しく感じる。

「そう?……ありがとう」

僕が答えると、母さんは微笑んだ。そして

「また、できるだけ早くに帰るからね」と、鼻を少しこすりながら言った。


***


それからしばらくして、父さんから酷く凝った「デザイン及び仕様書の使用許可」のPDFファイルが送られてきた。僕はそれを印刷して、最新ソースを入れたメモリと一緒に提出した。その結果、僕たちは市川先生という絵のプロによる監修と、美術準備室の機材を開発に使用できる権利を得た。

それらの効果は物凄かった。今まで不満だったいくつものモーションや、どう実装したらいいのか分からなかった技が、あっという間に改善されたり、片付いたりした。市川先生の指摘が分かりやすかったのもあるけど、何より田村君の手が速かった。彼は絵が上手くない。自分で言ってたし、僕もそう思う。でも言われた通りに直すのは速かった。それはおそらく、手先の器用さから来る線引きの上手さと、思い切りの良さから来る速さだったのだろう。それに、線画からドット絵を起こすのも、着色も、ツールの使い方を覚えてからはかなりの速さでこなしてくれた。

本当に、彼は一体何者なんだろう? 全部、彼があのとき、いるはずのなかった場所にいて、不審者丸出しの体で写真を撮ってた僕を見つけてくれてから、世界が変わったのだ。おかしいよ。どうかしてる。


そして今日もまた、僕たちは美術準備室に篭っている。


「このジャンプ強Kってこのモーションでいいのか?」

「うん、それは空対空兼めくりだから」

「めくり? じゃあこっちの足にも判定つけんの? ってか、この絵何フレ表示?」

「3フレだよ。発生は早め。6フレくらい? その次で攻撃判定は消して、フォロー長めにするから、実際に使うときは相手のジャンプを見てからとか、若干遅出しのつもりなんだけど」

「じゃあ飛び込み用途にはPの方使えってか」


「……えっと、あの二人話してるの、日本語ですよね?」

「ああうん、多分ね」

準備室に機材を取りに入ってきた笹北先輩が、市川先生と顔を見合わせてそんな会話をしてたけど、僕達からしたら油絵や水彩画なんかの専門用語だって日本語には聞こえないんだからお互い様だと思う。

まあいいや。僕は軽く伸びをすると、田村君が仕上げてくれたドット絵をゲームの世界に顕現させるべく、ソースにコードを追加していった。

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