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短編集

氾濫

作者: 豆苗4

 虚構である我々に虚構の淵なんて分かるはずもないのだ。りんごは切ってもりんご。かえるの子はかえる。

 波は現在進行形で広がっている。濁流が嵐の中を駆け回る雷のように蠢いている。形あるものは全て呑み込まれてしまった。どこを見渡してもモノクロの水平線。色はこの波に凝縮されつつある。途轍もない渦が今目の前で生まれようとしている。逆巻く流れに直角に進む。少しずつだが離れている。しかし、渦は留まるところを知らない。進むよりも広がる方がずっと速い。これではいつまで経っても辿り着かないではないか。突然、音もなく空が降ってきた。波に潜るしかない。即座にそう判断して息をめい一杯吸い込む。勢い余って鼻から水を吸いこんでしまった。思いっきり咽せる。身体中の空気を吐き出すようにして咳き込む。涙ぐんだ目で祈るように空を見る。低い。あまりにも低い。もはや潜ったところで何になろう。先送り先送り。ねじれた雲に恨み節の一つでも言いたくなる。

 波の遠い向こう側に灯台の光が見え隠れする。ああ、あそこまで行けば助かるのだ。なんとかあそこまで死力を尽くそう。泳げば泳ぐほど、力をこめればこめるほど、光は遠ざかっていく。悪化する状況に絶望してついに泳ぐのを辞めてしまった。ふと気づく。おかしい。何か変だ。さっきまであんなに遠く見えた光はいまや泳ぎ出す前と変わらない位置にある。それになぜ光があるのか。形あるものはすべて波の藻屑だと言うのに。……そうか、これがフィクションなのか。これですらも虚構だと言うのか!認めたくはないがそうだ。そうとしか考えられない。

 現実が虚構を生み出すのではない。虚構が現実を生み出すのだ。現実が虚構を侵食するのではない。虚構が現実を侵食するのだ。虚構が虚構を再生産するのだとしたらもはや現実なんてどこにも見つからないだろう。それでもなお「現実」に溺れているのだろうか。聖者の行進。鏡像の参道。虚構の氾濫。

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