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其ノ二 友の視線を受けて

「クラウレ、お前いつから此処に居たんだ」


 彼女――クラウレは、元々この場に一人で居たハイバの元に後から合流していたのだ。


 翡翠色の長髪は、後ろには馬の尾のように束ねられているが、顔に掛かる前側はやや波打つようにし(ウェーブしており)生来の色香を助長する。


 褪せて赤み掛かっているようにも見える青色の衣を纏い、下には清潔感のある白のズボンを装着していた。


「昨日の夕刻から、だね。この辺りの胡霊が増えてるらしかったから討滅に来たんだけどね、精神集中しているキミの姿が見えたから、見守るのを優先していた」


 胡霊がキミにちょっかいを掛けないように――クラウレは最後そう()める。


「余計な世話だ、大抵のやつは俺の霊気に触れただけで吹っ飛ぶ」


 ハイバの言葉が強がりでないことは、彼女も承知していた。霊感応の最中は霊脈と密接に繋がる為に、自身の霊気も強力な波動を纏うものなのである。


「実際何日やっていたんだい?」


「うん? ああ、太陽と月が五回入れ替わったから五日だな」


「それ六日間ってことだろ。まったく剛毅だねぇ」


 彼はきっと、体感ではきちんと六日間と認識していたのであろうが。


 ただ、自身が得た感覚を他者と共有するのが億劫(おっくう)である為に、言語に落とし込む際、意識と無意識の狭間にズレが生じた訳だ。


 相手のそういったことを理解し合えてこそ、親友というもの。


「まあ正直、何か大きなものを目指しているキミの背中を僕が見てたかったのさ」


 ハイバに対し、クラウレは事も無げにそう言ってのけた。


 彼女には、自分の内面には存在しないものをこそ追い求めるという気質がある。


 これは精神性の話であり、今でいうなら、身勝手なままに伝承の龍に(まみ)えようとするハイバの一途さに、その関心が向いている。


 ハイバのような精神性の男を手に入れたい、では無く、ハイバのような精神性の男のように自身が成りたい。


 そう願うのが彼女、クラウレという女だった。


 だからといって自身が女であることを問われ嫌がるのかといえば、そんなことも無い。


 実際クラウレは自身の肉体を愛しており、その美しさを調(ととの)える為薄化粧を施しもする。


「見るだけで満足なのか? 相変わらず主体性の無い奴め」


 ハイバの人的な意味でのクラウレへの評価はこうである。


 過去には『お前は自分に無いものを求め過ぎて人生を棒に振るの極致だろうな』と、そう断じられた事もあったが、しかし。


「己より強い奴に惹かれて何が悪い? 脇を固める役目を負うのも大事なことなんだよ」


 クラウレはその時のハイバに対し驚きはしたものの、最後には『キミは正しく相手の本質を誤魔化さず見据えられる奴だね。キミから学べることは多い、だから敬意を表する』と返している。


 彼女は改めて彼に、ルサナの事を伝えた。


「差し当り重要なのは姫様さ。完全に巫女様を殺しに掛かってる、あれだけの霊気を放出してたら遠見で直ぐに分かるよ」


「ルサナが手を抜くなんて、どんな状況であれ俺には想像も出来んけどな」


 ハイバはそう(こぼ)しながら、精神を集中させる。


 恐らく既に、里の上空でルサナと巫女ヘルメルスが激しく霊気を交わらせている、その様を見通しているだろう。


 呆れ顔を見せつつ、彼は一言零す。


「……一体なんで?」


「そこまでは僕にも」


 肩を竦めてみせるクラウレに、ハイバは溜息一つ吐いて歩き出した。


「やっぱり放っとかないんだね。彼女はキミの夢には重石(おもし)なだけと思うけど」


 クラウレは恋慕の感情というものには懐疑的だ。


 己に無いものを求める――確立された強き存在を尊ぶ彼女にとって、時に人を弱く不確かにもさせるその感情は、自身の人生にはただ不要なものであると思えるから。


 しかし彼はこう言い放つ。


「お前、過去に一度も経験したことが無いか? 心に枷を負った時、人の内なる想念は逆に高まりもすることを。折れてしまっては元も子も無いが、重石それ自体が悪しきものだと思ってるんなら、お前は未だ高みには遠いな」


「……また、はっきり言ってくれるよ」


 クラウレは芯を揺さぶられる感触を受けながら、これは確かに得難い忠言だと、彼の言葉を心に刻む。


 冷たく見えたハイバの表情は和らぎ、彼女に悪戯っぽい笑みを投げ掛けていた。


「ルサナを止めてくる。何となくだけど、暫くはこの丘に来れないかもな」


 ハイバはそう告げると虚空から獅子の姿をした霊獣を召喚する。その背に立って飛翔し、この場を去っていった。


「……まったく。(まばゆ)いね」


 クラウレは彼の苦みを含む言葉を吞み込んだ後、返ってその瞳の色が冴えたのだ。

クラウレは作者神代が想定する、ハイバとルサナの物語に対しての『視点』です。要するに


クラウレのような、人付き合いで『自身が』男女のメンタル的な違いを持ち込むことを嫌忌する心にも、


『この男と女に限っては各々の違い全開でぶつかり合いなよ』と思わせたい、ということです。


最初は親友枠にはもっと無色透明で、邪魔にならないタイプのモブを配しようとしてたんですけど、


メイン処の二人がキャラ強過ぎて返って邪魔にしかならんってなったんですよ、ええ。


(濃い主人公の周辺には濃いキャラが集うのが自然なんですかね? どなたか検証してみて欲しいです)


けどクラウレのお陰で、ハイバとルサナの格も引き立ってくれそうな気はしています。


次回は遂にルサナ主眼のお話です!


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