其ノ二十二 レギが背負うもの
妖術師サザベクの襲撃から一夜が過ぎた。
※
レギとラスフェリの二人は、食事係の者から――自身らは両手を縛られている故に――丁寧な対応で朝食を取らせて貰い、英気を養っていた。
「それでは、失礼致します」
「おう、ありがとうな」レギは感謝の笑みを向けながら、食事係の者を見送り、そして。
「……後は、あの二人が来るのを待つだけだな」
やや鋭い気勢で、向かいの席に座るラスフェリに話し掛けた。
「ハイバにーさんとルサナさん、本当にアタシらの事を信用してるのかな?」
大して深刻にも思ってなさそうな表情で、彼女が応えるが。
「いざとなれば、こっちが出し抜いてやればいいんだよ」
と、強気な態度を示してみせる。
――昨日、この部屋でレギ達は、ハイバとルサナに取引を持ち掛けたのだ。
『ドグスドイの顕現を阻止するのを手伝う。その代わりに、危険思想に凝り固まった里の大人達を説き伏せてくれないか』
レギは、ハイバ達自身が有する霊威を高く評価していた。
戦いに負けた直後は悔しさも覚えたが、しかし二人の力に難癖を付けるような気持ちには、どうしてもなれなかったのだ。
それには理由がある。
此処に閉じ込められた後も、改めてラスフェリとも意見を交わした。そして彼女も自分と同じ感覚を抱いたと知って、それは確信へと近付く。
――彼奴らの霊気には、相対する奴の心にさえ照射される程の、強い輝きってやつが内在されている。そう、まるで光が架かって射ち込まれるかのような輝きだ――
それはレギとラスフェリの若き感性が抱いた、やや大仰な心象ではあったが。
しかしそういった心象に自らが真実性を持たせ、己が見る世界を彩る基盤とする事は、若人の行動指針を前へと推し進める爆発力へと変換されるものなのだ。
レギは、里の大人達が好きではなかった。
このニースフェル大陸に於いて、殆どの者は存在も知らぬ小さな里。
其処に潜んでいるに過ぎぬ威勢も覇気も持ち合わせぬ矮小な者達が、神の力頼みに世界を滅ぼそうと考えるなど、最早妄想の領域ではないかと思うのだ。
――せめて俺ら若衆を使うだけでなく、手前ら自身も他の人里に降りて物資を奪ってくる位の気概を見せやがれ――
口だけが達者な大人など、今の世界では、若人の本当の意味での求心力には成り得ない。だが、レギ自身に大人を完全に不要なものと断じる気概が有るかと問われれば、その答えは否であった。
何故なら。
まだ親の庇護が必要な年端も行かぬ子供達を、代わりに守ってやれるだけの力があるか。レギはその答えに窮するのである。
「お頭ぁ、まーた難しい顔してますよー」
ラスフェリがあっけらかんとした顔で、此方を見ていた。
「能天気なお前と違って、俺は考えることが多いんだよ」
憮然とした風を装い、彼女を突き放すようにする。
それでも、彼女の言葉は止まらない。
「まあ大体察しは付きます。お頭は昔から自分の手に余る事に首突っ込むのが好きですからねー」
「何だとお前」
流石に看過できぬことを言われ、レギは声を荒げた。
だが。
「……あの時、アタシがあのアディンって坊やに短剣を突き付けられた時も、アタシの治癒力なら簡単には死なないって知ってるのに、焦っちゃってさ。悪ぶるなら悪ぶるで、一本筋通さないと、いつか足元掬われちゃいますって」
ラスフェリが真剣な面持ちになってそう語ったのを受け、彼は息を呑み、言い返すことが出来なくなったのである。
その様子に、ラスフェリは溜息を吐く。
「ダッサイなぁもー。そこは寧ろ、一番言い返してきてほしー所なんだっての!」
「なっ」
「アタシのこと、本当にただの能天気の阿呆と見下してるのか、それとももっと大切に思ってくれてるのか、ここで宣言しろって言ったら出来ますか?」
突然放たれた問い掛け。此方の威勢はもう完全に吹き飛んでしまった。
「は、はあっ!? いきなり何言って――」
「逃げんなよっ、今どー考えても肝心なこと聞いてんでしょーが!」
捲し立ててくる彼女。ここまで食らい付いてこられるのは、レギにとって初めての事であった。
「大切って、どんな意味でだよっ!?」
「それすら自分で考えるのを放棄するんだー!?」
怒っているようでもあり、本当に驚いているようでもある彼女。最早彼には、今のこの場の空気自体がまったく掴めないという有り様だった。
そっぽを向く彼女。そして――
「あーもう、ハイバにーさんに慰めて貰おっかなー」
――刺々しい口調で、そんなことを宣ってきた。
「あぁん、勝手にしろよ」レギは本当に、彼女の意図が分かっていない。
ただそれでも「俺達も彼奴らを信用し過ぎる訳にはいかないんだからな。そこは忘れんなよ」と助言はしてやる。
「――ッ! そんなこと言われなくても分かってますよーッ!!」
――なんで此奴はこんなに切れてんだよ……――
まだ朝だというのに、レギは今日一日分の疲労を溜め込んだような感覚に陥っていた。
ラスフェリがぼそりと呟く。
「お頭こそ、もしにーさん達が今後何か神妙な顔したりすることがあっても、変に気にして構おうとしちゃ駄目ですからね」
「それこそ言われるまでも無えよ。俺を舐めんなよ」
此方も意固地にならねばやっていられない。レギは強い気持ちで、彼女にこの先難癖を付けられはしまいと誓った。
扉が開く。あの二人がやって来たのだ。
「おう、ちょっと遅かったなぁ。気が抜けてんじゃねえ、か……」
昨日会った時よりも、明らかに、ハイバとルサナの顔に覇気が無かった。
「ああ、済まないな」
「ちょっと、食事が喉を通り辛くてね」
此方に対し、これまででは想像も付かないような謝罪を入れてくる二人に、レギは。
「え、うん。何かあったのか?」
自然に、気遣い掛けていたのであった。
――あ、やべっ!――
そっと後ろを振り返る。
「……むぅ」
案の定、ラスフェリが凄まじくじとっとした目線を寄越してきていた。
気遣い煩い系青年レギ、出陣――。
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