其ノ二十 攻撃の術(テクニック)
霊気、その超常の力を操る者の戦いに於いて、相手の見た目の印象など、まるで当てにはならない。
ハイバは全力であった。相対する老婆の妖術師へと距離を詰め、一撃の下に葬るつもりで、剣を持つ手に力を籠める。
妖術師は、ハイバの戦闘意思を見抜いたのだろう。下手な小細工では無い、刺し貫くが如き霊気の波動を地面に向けて放出した。
ハイバの前方の土が隆起して、複数の、浮揚する土塊の様相を成した。
「質量、物としてくれるわぁッ!」
土塊が来る、ハイバ目掛けて。
ハイバは瞬時に理解する、妖術師の魂胆を。
――気ではなく物質をぶつけてくるのは、その重量が俺の体の力を殺ぐと踏んでいるからだ――
霊気の障壁でも、強者のそれであれば物質をも防ぐことは可能だ。
しかし、障壁が守り手の霊気に依って張られている以上、物質が触れた時に生じる衝撃は霊気を伝わり、守り手の体幹を揺るがせるのである。
攻め手にとっては、ぶつける物質は重ければ重いほど良いという訳だ。
「かァと言ってぇッ! その剣で土塊を斬ってみせれるというのか若造よォッ!!」
妖術師が叫ぶ。勝ち誇る。見開かれた目は眼光鋭く、外見は明らかなる老婆であろうと、内から迸る熱情は、若人の意気をその顎で嚙み砕かんとする!
だがそれでも、ハイバは走る勢いを殺さない。
一歩踏み締めた足に爆発的な速さで力を籠め、爪先を軸として、捻り、身体をぐるりと回転させる。その回転の力を活かし、躍り出るような所作で跳ぶ。
「ほぎゃッ!?」
妖術師が驚き叫ぶも、まるで構わず――目先の土塊に狙いを定め、その真芯を捉えた角度の回し蹴りを撃ち込むのだった。
ハイバの眼が煌めきを増していた。彼は元来、空を舞う敵――主に胡霊である――に零距離で迫る戦闘手段を得意とする。
故に、ただ直線の軌道で迫る物体などには、自身の挙動を合わせることなど造作も無かった。
破砕する土塊。ハイバは間髪入れず、空を蹴る所作で次の土塊へと飛び掛かる。
……彼は以前、胡霊風羅との戦い終わりに浮揚術を切って墜ちるに任せたが、今回はその逆。
一息の間だけ浮揚術を発現させて前方へと飛翔し、後は慣性に任せて飛んでいるだけなのだった。
土塊の上に着地、そのまま次々と飛び移る。
その華麗さと野性味が合わさる空中舞に、妖術師が舌を巻く。
「さ、猿の如き身の熟しィッ!!」
――違う!!――突如響いた女の声、それは彼を見守るルサナのものだった。
「ハイバは、猫よッ!!」
「ね、ねェぇェぇこォぉォぉォッ!?」
眼球が零れて落ちるのではないかという程に見開かれる妖術師の目。ハイバは、自身の身の熟しに対するルサナの――そのやや過剰な信頼感――を今は受け入れ、勝負を決めるべく動く。
最後の土塊を踏み締めた後、高く高く飛び上がる。そして妖術師目掛けて、片脚を槍のように突き出す形の、飛び蹴りの姿勢を取った。
「な、舐めるでないわァッ」
妖術師が霊気の障壁を展開する。あのルサナの霊破掌をも食い止めた防御術だ。
しかし――
「俺のこの蹴りは、重いぞ」
――ハイバはここで全身に霊気を纏い、浮揚術を発現させた。それに依り、蹴りの突進力を数段引き上げる。
「ぎょォッ!?」妖術師が叫ぶ。加速状態にあっても、ハイバの霊視は彼女の顔が恐怖に引き攣っているのがはっきりと視えていた。
激しい霊気の衝突。ハイバの閃光の霊気と、妖術師の蠢く波動の霊気がぶつかり合う。
妖術師の体勢が揺らぐ。霊気を操る者は外見以上の身体能力を発揮させるものだが、それをもってしてもハイバの肉体から生じる蹴りの重量が勝るのだ。
蠢く波動の隙間から閃光が差し込んでいき、妖術師の身体を照らしたと同時に、障壁は完膚なきまでに破砕されたのだった。
ハイバの槍の如き蹴りが、妖術師の顔面にめり込む。
「ほボバァーーーッ!!!」
吹っ飛ぶ妖術師。
大の字で倒れる、妖術師……。
※
倒れる最中、妖術師は思った。
――なんという豪胆さ、この者の強さは霊気のみに頼らぬ姿勢から来ておるものじゃ。なんと猛き若人よのォ……――
この齢にして、まだ新鮮な驚きを得られる機会が訪れるとは……。妖術師は、自身の肉体の痛みを存外に悪くないとして受け止めていた。
真っ向勝負の果てに、新たな気付き――或いは長き人生の中で眠った元来その者が持つ瑞々しい感性が目を覚ます、というのはあり得ることだ。
彼女は八十年以上の時を生きる妖術師。名はサザベクという。
妖術師サザベク、強敵でしたがハイバの戦闘術とは相性が悪かったようですね。
エピソード内でも言及してますが、霊気を使えば身体能力は向上しますので、
サザベクは体を鍛えてる訳では無い並の成人男性相手なら、十人に囲まれてもちぎっては投げ出来る位には体力も強いです。ええ。
脱げば結構いい身体つきもしていますよ。
それは彼女が滋養の整った食生活を送っているのと、あと霊気を使う者は体内にもその気を巡らせるという手順が間に挟まるので、必然的に体の芯の部分は鍛えられる、という要因からそうなってます。
一応先に言っておくと、ヘルメルスと違って彼女の見た目が老いているのは、単純にサザベクが『美麗な見た目でいることに拘りが無い』からで、霊気の正道を外れた妖術師だからなんてことはありません。
要するに、プライドを持って喪女をやっているタイプの女性ということです。
……もしかしたら、サザベクの老婆の見た目から、顔面を蹴られた彼女を過剰に可哀そうと思われる方が居るかもしれませんが、
歳の近いヘルメルスは片腕が吹っ飛んでいるのに、サザベクだけを苛烈な展開から外すというのは、
神代としては逆にサザベクに対する差別的な創作行為になると思えた為に、
少し勇気は要りましたが、きちんと彼女にも痛い目に遭って貰いました。
読者さんには、真っ向勝負をやり切った彼女の逞しさをこそ買ってあげて欲しいなと思います。
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