其ノ十三 ルサナ、剣技に舞う
ルサナは、次々と攻めてくる暴徒を相手に、涼しい顔をしていた。
今も三人が同時に武器を振るってきたが、此方の一薙ぎはその全てを唯々打ち払うのである。
――ルサナの戦術の披露、とくと見よ。
相手は四方八方から波状攻撃を仕掛けているようだが、こういった状況下での対処法としては、その時一番近い距離に居る者らを常に視界に捉えておく。視界の端でも、まあ良しとする。
二番手以降については、位置関係だけ気にしていればよいと割り切る。そして自身の動きは、剣舞のそれを意識する。
ルサナの得物は長剣。斬撃時に発生する力は複数の敵を圧倒する。多対一での戦いに於いて肝要なのは、一度起こしたその力を無駄にはせず、次の一撃にも活かしていくことだ。
剣を振るう動作自体は肩や腕に依るものだが、その実、何かを斬る力というのはそれ以外の、腰、脚、足先といった、身体に線を通すかの如き力の連帯で決定づけられる。
その場にただ留まりながら戦っているように見えても、ルサナは振るわれる長剣の力を己自身が殺してしまわぬよう、脚腰足先を巧みに使い、力を、練り上げ続けていたのだ。
今のルサナには、長剣が己が身体の一部として感じ取れていた。
時にはこの刃長が巻き起こす斬撃の力に、望んで振り回されにいってやる気持ちで、逆らわず、乗り掛かってみせていく。
豪胆さと繊細さ、両を兼ね備えた付き合い方がこの長剣を強くする。この剣術が、ルサナにはしっくり来るのであった。
無論、時には霊気弾も放つ。戦いは相手の虚を突くのも大事である故に。
来た者来た者を的確に潰す、ひたすら繰り返す、それで良い。敵がこの者らのように、連携することを知らぬ者なら、それで十分だ。
……かつて霊峰ガダで、集霊地から胡霊が噴出する事変が起きたことがある。これ自体は天変地異の類であり、そう予見できるような事象ではないので、仕方が無いで片付けるより外は無いが。
ただ、その時ルサナはアスリルの姫君として民の先頭に立ち、たった一人で胡霊およそ百体の討滅を果たしている。
多くは大した力も伴わぬ有象無象であったが、まあそれでも、今戦っているこの痴れ者らに比べれば幾許かマシであったろう。
「まったく愚鈍極まりない。お前達は、圧倒的に! 研鑽が足らぬ!」
ルサナの一喝と共に、最後の暴徒らが打ち倒された。そして、これで終わりではない。
「フッ――!」長剣を振り抜く力に、今度は己の全身を引っ張らせ、回転舞い。……こちらの死角を狙ってきたつもりでいる、青髪の男に向けて霊破掌を放つのだった。
「なッ!?」男は霊破掌の光の直撃を受け、吹き飛んでいく。
「殺気が剥き出し過ぎるのよ、お前は。故に眼で見るまでも無かった」
長剣を下げ、髪をかき上げながら周囲を見遣る。
町の住民らは、暴徒を沈めた此方に対して、畏怖の念を抱いているようだ。全身を震わせ、中には拝んできている者すら居る。
先程からずっと茫然自失としている少年の姿などは、特に酷い有様だった。
――やれやれ。どうやら私の人離れした気迫というものが、彼らの精神を過剰に揺さぶってしまったようね――
ルサナは神の分身である。分身である以上、黎妙神アズヴィーラの意思の有無に関わらず、彼女自身が神気を放つ存在であるということなのだ。
並大抵では、他者と人として心を通わせられはしない。剣技の修練に励んだのも、体内に巡る霊気の源は神に通じるものでも、この手に馴染ませた技術は己自身のものだと、そう胸を張ることが出来たからだ。
そういう地に足を付けた努力を自らに課さねば、ルサナは、いとも容易く、人としての己の魂の在り処を見失ってしまう。
だからこそ――。
「お頭ッ!?」
彼、ハイバが自身の戦いを続ける最中、相手の女との間に青髪の男が倒れてくるという事態になっても――
「ほう、あいつの霊破掌を受けてまだ息があるとは中々の奴だな」
――常人が見れば凡庸にも捉えられ兼ねない、その実、雄大な佇まいを絶やさぬことに。
「ごめんハイバ、貴方の戦いを邪魔してしまったわね」
安心と、幸福とを覚えるのであった。
今回はルサナの戦闘フェーズ、でしたね。
ルサナの戦い方を解説交じり風にしたのは、彼女の剣技を、例えばファストフード店で食事しながら読んでる女子高生にも、何かしら感じ取れるものにしたいなと思ったからです。
折角の闘うヒロインなので、やっぱり闘っている様が魅力的でないとね。
あと、前回ハイバのことをレギとラスフェリが並の奴だと誤認したのは、今回最後の方で書いた通りの事です。
ルサナが幽玄なオーラを出すので、余計にハイバが地味に映ってしまったんですね。
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