其ノ十二 鮮烈なるラスフェリ
前回初登場のレギの見た目描写に少しリセットを掛け、変更を施しました。
レギ……空色のざんばら髪を後ろに流し、袖無しの着込み衣(←シャツから変更)とズボンをやや光沢のある黒色(←光沢表現を付加)で揃えた姿。その目つきは荒く鋭い。
※ハイバの黒のズボンはどっちかといえばシックなイメージを神代は想像していますが、
レギの黒揃えはちょっと やんちゃ さがあるイメージですね。
あと、すいません! 前回の前書きで主要キャラの見た目描写について書いたんですが、
ハイバが駆る獅子の霊獣ラッカラの見た目も、描写を追加していたのに其処に触れていませんでした。
獅子の霊獣ラッカラ……首元から長く美しき毛を靡かせる獅子。霊体と実体の二つの形態を取り、また体躯の大きさも変えることが可能。ルサナとの二人乗り時には、それが可能な大きさに変じてみせている。
※ラッカラの見た目は、所謂リアルのライオンとはちょっと差異があるデザインを想定しています。
この現実世界でも、神話の生き物が地域を渡って伝わる際に、獅子、シーサーなどの別名を得たみたいな、
ワードとしては獅子でも、まんま現実の獅子とは違うって風に思ってくださいませ。
爆風を背にやってくる男と女を、レギは見過ごすことが出来なかった。二人に向かって真っ直ぐに歩き、問い掛ける。
「何もんだ、お前達!」
彼の問いには女の方が先に答えてきた。
「傲慢さに塗れた神を手始めにして、このニースフェル大陸に蔓延る悪しき霊気の根を断つ者よ」
大言壮語、には聞こえなかった。
この白眩桃の髪の女には、えもいわれぬ気迫が纏われていたからだ。深く練られた気迫は、現世に視覚化されるものである。
その手に霊気の残滓が迸っているのを見るに、さっきの爆発も彼女が引き起こしたものであろう。
彼女から少し離れた位置に立つ黒髪の男は、何も語らない。細身ながらも引き締まった体躯をしてはいるが、それ以外は、特に感じるものが無い。
表情も、この乱れた町の様相の中にあっては余りにも、凡庸。
――フン、此奴はこの女の腰巾着か。なら叩くべきは……――
レギはこの場に於いての一番の脅威を割り出した。そして手下らに向けて号令を出す。
「女だ、女の方をヤれ! 一斉にだ!」
如何に一撃の威力が高い技を使えようとも、四方八方から同時に攻められれば、対処し切れるものではない。レギはそう踏んでいた。
更に。
「ラスフェリ、動けるんだよなぁ! お前はその男を相手してやれ!」
自分に石を投げ付けてきた少年の短剣を、寸での所で抑えてみせた彼女にも指示を出す。
「……はいなー。ってワケだから僕ちゃん、それ返してねぇ」
ラスフェリはあくまで軽薄な感じで応え、未だ茫然としている少年の手を捻り上げ、短剣を取り返してみせた。
「あ……」先程までの威勢が消失してしまっている少年の、その異様。
そんな彼の事を、レギは表情には出さず気に掛ける。
……ラスフェリに対しては、自身が指揮する一団の中でも図抜けた戦闘の才を持つ者だと高く評価している。
それに。
※
ラスフェリは己の傷付いた手を見遣った。
「ん、よし」少年から受けた短剣の刺し傷がすぅっと消えていく、その様を確認したのである。
振り返り、どうやら此方の敵であるらしい二人の来訪者を視界の正面に捉える。
女の方には既に、仲間達が複数の隊列を組むようにして波状攻撃を仕掛けている。きっとお頭であるレギは、その最中に生じる筈の、女の隙を突く考えだろう。
ならば自分は――。
「男の方、ね。んー、なんか普通のおにーさんっぽいかなぁッ!」
身を低くしてから、一気に翔ける。
――俊足。男の懐に飛び込み、短剣を逆手で振り抜く。
金属音。男は短剣の刃を――いつの間にか取り出していた――片刃の剣で受け止めていた。
ラスフェリと同じように逆手で握り、切っ先を土に向ける形で、だ。男のこの挙動に、彼女は驚愕する。
攻撃を止められた事が、ではない。
此方の眼には、彼に戦闘意思が有るようにはとても見えなかった。だのにこんな慣れ切ったような構えで防いできた事の異様さに、驚きを禁じ得なかったのだ。
「――がッ!?」腹を強く蹴り込まれた。
口から唾液を零す。しかし、次に来る攻撃の所作は見逃さない。
男は片刃剣をぐるんと回し順手に持ち替え、斬撃を放つ。――読めている、此方が後方へ飛び退る動作に移ったのが活き、切っ先が前胸部を掠める程度で済んだ。
出血はあるが、それはいい。体幹にも影響を及ぼし兼ねない、腹部の痛みが消えるまで何秒掛かるかの方に、意識を向ける。
「魄穢傀儡、いや眩梦人か」
男は此方の胸の傷が瞬時に引いていく様を目の当たりにし、そう言い放った。彼の言葉に、ラスフェリは興味を示す。
「へぇ。おにーさん、そういうの詳しいんだ?」
男は此方の反応を、無いものとして斬り込んできた。もう片方の手にも片刃剣を出現させ、双剣の構えで舞うような連撃をラスフェリに見舞ってくる。
だがその猛攻の、彼の呼吸に合わせるようにして、此方も躱してみせる。連撃の最後、より力の込められた一振りにも息を合わせ、空へと飛翔し逃れるのである。
短剣を持たぬ方の手で、速さ、に特化した霊気弾を放つ。
男にこれを回避する手立ては無い――と思われた、のに。直撃の寸前で、霊気弾が激しく霧散したのだ!
「あらぁッ!?」ラスフェリは叫ぶ。驚きと、おどけと、戦意とを内包させた、精神密度の膨張が彼女の心を躍らせる。
彼女の視界が捉える、男の両の瞳が煌めく気迫を放つ。『あー、瞳力ってヤツかぁッ!』その術の正体を看破しながら、全身に霊気を纏い加速力に変換し、男へと突撃を掛けていく!
男も此方へと向けて空を跳ぶ。双剣を交差する構え、防御と攻撃を兼ね備えた構えだ。
ラスフェリは短剣を持つ腕を前方へと突き出すようにする。――確実に此方が押し負ける、ならばせめて間合いで力の差を縮める!――ぎりぎりまで英明に臨んでみせる。
男の左の剣が短剣を打ち払い、身を捩る動作でラスフェリの下を掻い潜り、右の剣が、彼女の横腹を斬り裂いた。
「がふっ」苦悶に顔を歪めるラスフェリ。
しかし、心ではほくそ笑んでいた。
力を振り絞って、倒れ伏すことなく着地。――大丈夫、アタシにとってはこの傷は浅い……――男の、流れるような所作での着地を、その眼でしっかりと見据える。
……眩梦人。高純度の霊気流にその身を浸し、その力で自らの内なる霊核への感応を行い、己が体内に巡る霊気の過剰な活性化を図った者の総称だ。
眩梦人は、異能とも呼べる特殊な能力を発現させることも可能とする。例えば、受けた傷の超速回復など。
男の視線が、今まさに細胞の蠢きの最中にある横腹へと向く。ラスフェリは、その事を強く感じ取って、笑った。
「おにーさん、アタシのこの傷が治ってくの見てもそんなに驚かないんだね。……そうだよ。アタシさ、眩梦人なんだ」
誰もが眩梦人になれるというものではない。
「アタシの中身を、今想像してる? イイね、その煌めいた眼で傷口見られてるの、凄くイイよおにーさんッ!」
その境地に至る為の一つ重大な要素。それは時に他者から『危うい』と揶揄される程の苛烈な思い込みを発現させる、心の、絶大な芯の太さだ。
眩梦人の設定は、この物語世界の中に居る人々の、その幅を拡張する要素として、神代が以前から温めていたものです。
一応、現代社会にも通じるような、価値観の多様化の中で個性が膨張を果たした、他者との交わり難さも内包した一個人、という存在の隠喩として、この物語世界に据えている感じです。
神の眷族という出自のハイバ達とは、また異なる属性を持つ奴ら。まあ、霊気を操る流派が違う、
みたいな感じでしょうかね。
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