其ノ十一 少年の瞳の認知(レンズ)
今回から新章開幕です。
ただその前に、前までのエピソードのちょっとした直し、主に主要キャラの見た目描写などを入れたので、
ここで既にこれまでのお話を読んでくれている方に向けての、キャラ見た目ピックアップをお届けします。
ルサナ……歳二十二。身の丈百七十一の女丈夫。限りなく白に近い淡い桃色の髪を長く伸ばしたその姿は、周りに畏怖の念さえ抱かす幽玄さを湛える。
引き締まった美しい脚に張り付くような赤紫のズボンを履き熟す。腰帯で留められた、白き羽織衣が、彼女の洗練された美を彩っている。
ヘルメルス……およそ八十年以上は生きているが、その外見は齢二十五前後。色濃くも透明感を放つ青の髪を背中まで伸ばし、袖無しの、着込み型の衣を身に纏う彼女は、その素肌も美しい。
ハイバ……齢二十一歳、身の丈百七十五。艶めく黒髪、細身ながらもその身に秘めた力強い霊気が、彼に溌剌とした印象を付加させる。
やや広がり感のある、深みを帯びた黒色のズボンを装着し、襟元が開けた腰丈の、黒灰色の羽織衣を纏った姿が、彼に何処か孤高のイメージを付加させている。
クラウレ……唇にペールオレンジの口紅を引いている。翡翠色の長髪を、後ろ手に馬の尾のように束ねているが、元々クセ毛気味であり、顔に掛かる前側はややウェーブしていて、生来の色香を助長している。
褪せて赤み掛かっているようにも見える青色の衣を纏い、下には清潔感のある白のズボンを装着している。
ルサナ(SP情報)……彼女の下着は丈夫ではあるが簡素な見た目をしており、また華やかさからは遠い胡桃色という、煽情の効果を期待するには素朴に過ぎるもの。
あと、霊気の技に関して、これまで 霊波動 と呼んでいたものを 霊破掌 という呼び方に変更しています。
……それでは、本編の始まり始まり!
此処はカザヤ国フィリットの町。各地に点在する、人々が集い暮らす地の一つだ。
町に住まう少年アディンは、今、見知った大人達が一方的な暴力に晒される様を目の当たりにしていた。
「お前達の物資は幇陀神ドグスドイへの供物として、このレギ様が間違いなく届けてやる。感謝するんだな!」
略奪行為。その指揮者である青年レギが、広場一帯に響く声を上げる。
空色のざんばら髪を後ろに流し、袖無しの着込み衣とズボンをやや光沢のある黒色で揃えた姿。その目つきは荒く鋭い。
五十名を超える暴徒の一団を従えるレギは、今この時も地に這いつくばる住民を踏みつける部下を見遣り、不遜な笑みを浮かべていく。
「や、やめろよ!」
アディンが反抗の声を上げる。しかしそれは、踏みつけにされている男自身に依って否定された。
「馬鹿者が! 誰の所為で俺達がこんな目に合っていると思ってる!」
別の大人、暴徒から片腕を後ろ手に捕られている女もアディンを詰る。
「お前が、この人達に余計なことを言ったからでしょうが!」
他の苦しめられている大人も、皆、アディンを恨めしそうな表情で見ていたのである。
「そんな……」
アディンは茫然とした。いや、本当は彼らが自分に非難を向ける事自体は最もだという自覚はあった。
「オラッ、勝手に喋ってんじゃねえよ!」
暴徒が捕えていた女の後頭部を殴りつけ、女は「あぐ……」と呻き声を上げ地面に崩れ落ちる。
「――くっ! な、なんでそんなこと、を……」
アディンの心は軋みの音を上げた。そんな彼の背後に、そっと忍び寄る――
「アッハハ。なんでも何も、僕ちゃんがアタシらのお頭に悪口言ったからでちゅよねぇ」
――目尻に赤黒のアイラインを引いた、軽やかな雰囲気を纏う蠱惑的な女。
焼けついたような茶色の髪に、やや褐色の肌を遺憾なく晒す濃藍色のミニスカートが、機敏そうな印象を付加させている。
「は、放せっ」アディンは両肩に女の手を回され、抱き締められる形で身動きを封じられてしまう。
「レギのお頭は最初大人しく物資を渡せば危害は加えないって言ったろぉ? 此処の大人は皆素直なのに、選りにも選って碌に物を知らない僕ちゃんが『こんな事して恥ずかしくないのか』って、お頭の顔に石を投げ付けたんだ」
そう、切っ掛けは彼の行動だった。額に石を受けたレギは、激昂するでもなく、しかし『ガキの躾も出来ない大人らに責任を取って貰う』と告げたのだ。
女は口元をそっとアディンの耳に近付けて――人間なんて生きてるだけで恥を重ねる生き物なのに、そんな道理も知らない坊やが偉そうに説教するなんてさ、許せるワケないよね――甘く、されど鋭い声色で囁いてきた。
「おいラスフェリ、俺はガキ共には一切の手を出すなって言ったよな! 今そいつに何言っていやがった!」
レギの怒号に、女――ラスフェリが姿勢を戻す。
「そんな怖い顔しないでよぉ。アタシら自慢のお頭に舐めたこと言った坊やに、ちょいとお灸を据えて――」
彼女が言い終わる前に、レギの手から霊気弾が飛んでその顔を掠めた。
「!?」驚いたのはアディンの方だ。
ラスフェリは、刹那凪いだ様な目線をレギへと送り、次の瞬間には「あは、ごめーん」と再び軽やかさを纏うのだった。
アディンはこの二人の事が、それぞれ異なる方向で理解が出来ずにいる。
――なんであのレギって奴は、俺の事は痛め付けないんだ? 普通一番に俺を襲う筈なのに。それにこの女も、なんでこんなに直ぐに喋り方や態度が変わる? さっき耳打ちされた時は、凄く冷たい感じがして怖かったのに――
アディンは思う。
分からない、こんな悪いことをする奴らなんて真面な人間じゃないのに。
こんな人の痛みが分からない悪人なのだから、此方だって無条件で悪と断じていい筈なのに。
「……なんなんだよ、お前ら!」
アディンは叫び、憤りのままに後ろに振り返って、ラスフェリの腰帯に留められていた短剣を引き抜いた。
「あらら」
ラスフェリはおどけた表情で両手を小降りに上げる。彼にはそれが降伏のサインのように見えた。
「さっきから、な、舐めやがって! お前ら悪人なんか、お、俺がぶっ倒してやるっ!」
アディンは、こんな悪人から意味も分からず翻弄されているという自身の思いから、過剰に嫌悪感を抱いていく。
呼吸荒く、引き攣った表情で睨み付けるアディン。周囲の暴徒は未だ略奪行為に明け暮れており、彼一人の反攻には目が向かない。
ラスフェリは、蜜が深く滲むように、笑う。――レギに向けて。
「あは。お頭ぁ、アタシまんまとやられちゃいましたぁ」
「ラスフェリ、お前!?」
「お頭の命令だから、この坊やには手出し出来ませーん。アタシ、きっと此処で死んじゃいますね」
「――ッ! 馬鹿ヤロウがっ!」
レギが焦りを内包した声色で叫んでいる。奴が動揺している事を感じ取り、アディンの精神は更なる昂ぶりを見せていく。
「こ、こんな胡霊みたいな奴らはっ、俺が、浄化するんだっ!!」
最早戻ることの不可能な感情の膨張。酩酊にも似た惑いの熱が、アディンの手にある短剣を、彼女の腹へと突き動かす。
義憤……自分は正しいという強い思いが、少年の心を激しく歪めていた。
しかし、それ故であろう。
「――ああッ!?」
正義という思想に染まり剥き出しとなるその眼の認知の中に現れた、二人の来訪者が放つ真に純然たる霊気の奔流に、アディンの乱れた魂は一瞬で凍りついたのだ。
ラスフェリの背後、遥か後方で生じた爆発の光。
衝撃の余波がその髪を激しく揺らめかせる。圧力に気が動転したのか、死を受け入れているかのようだった彼女が咄嗟に、短剣の切っ先を掌の肉で防いでいた。
※
レギも、驚愕する。
「な、なんだってんだ!?」
彼の眼には、大勢の部下が激しく引き飛ぶ異様な光景が広がっていた。
彼には霊気を操る優れた素質があった為に、その二人の言葉が精神に感応したのだ。
「成程、ドグスドイは幇陀神だったのか。ならば俺達が戦うことになるのは元々自然な流れだったといえるな、ルサナ」
「黎妙神が人々を救う為に言ったとは思えない……! けれど、このような無法を為す存在を放っておく訳にはいかないわよね!」
幇陀神とは神々の中で、かつて人心の戒めを司る存在の総称であった。
しかし今現在の時代に於いては、この名を持つ神らは生ける者への暴威を執り行う存在と化している。
――レギは、己が心から信奉する神と、この来訪者とが何か因縁を持つらしいと勘づき……怒りで、感情の波が伝う精神の糸が切れた。
新章、初回。いかがでしたでしょうか? 新キャラも出ましたね。
性格や台詞回しから読者さんがどんな印象を受けるか、それについては神代自身がナマの反応を想像して楽しみたいので、
此処で神代がキャラ解説するのはまだ控えておきます。数話後に語る機会があれば語ろうかな位に思ってます。
ただ物語に於ける彼らの役割で言うと、一応、
アディン……他者に深い意味で触れてきた経験が浅いが故の、所謂『まっさら』な目線で他キャラを見る役
レギ……ハイバとはまた違う角度で『男というもの』を発現する役
ラスフェリ……何でもあり感を彩る、『物語弾ませ』をやる役
という感じでしょうか。
レギ&ラスフェリをコンビ付けたのは、まあ、今作はハイバとルサナで男女コンビを強調してるので、
他にも男女関係を出して【比較】に依り更に【拡張】させる効果を期待してのこと、です。
〈この物語に少しでもご興味持って頂けましたら、↓の評価・ブックマークをお願いします!〉




