其ノ十 星空の下の雰囲気(ムード)
ルサナがハイバと共に霊峰を降りてから七日が過ぎていた。
獅子の霊獣ラッカラには実体の姿を取らせ、空ではなく陸路を往くことを選んでいたが、これは世界に巡る命の息吹を自らの体に刻もうと試みたからである。
当て所も無い旅路ではあったが、先導無き暮らしは二人にとって、思いの外に新鮮なものともなっていった。
野を駆ける獣を捕り、水辺で体を清めるといった、基礎的な暮らしに通じる行いにも違った趣きが感じられ――
「星空の下。焼いた肉を下着姿で食べるというのは、これは存外に乙なものね」
「確かにこの開放感は悪くない、或る意味生きてる実感を強く得られる。ただ、足は閉じろ」
――それなりに、退屈しない日々を送れはしていた。
衣服は水洗いをして、木の枝に掛け干しているのであった。本当は下着もまだ乾いてはいないのだが、全裸で居ることはハイバから却下され、止む無く濡れたまま身に着けている。
「嫌よ。空気に触れさせていなければ乾くものも乾かないわ」
二人は今、焚火を挟んで向かい合わせに腰かけていた。見えているものを見ないままでいるのは、お互いに不可能である。
――まったく、ハイバの精神の乱れ無さは筋金入りね。まあこんな生地が厚くて野暮ったい胸当て布と下穿きでは、色香もそう出せないかな――
彼女の下着は丈夫ではあるが簡素な見た目をしており、また華やかさからは遠い胡桃色という、煽情の効果を期待するには素朴に過ぎるものであった。
――せめてこの胸の谷間が、目に焼き付けばいいのだけど――
脳内で彼女は、如何にして彼をその気にさせるかを思案していたのだ。後もう三日あれば或いは、と今は淡い期待を抱く。
ハイバの、細身なようで引き締まった胸板と腹筋が、焚火からの照り返しでその美を増す。ルサナは幽玄な表情で――うっとりと――見つめる。
そのハイバが、平然とした風のまま、ふと話を切り出してきた。
「お前が言ったドグスドイって神とは、まだ縁が結ばれないな」
「私じゃなくて黎妙神がね。正直どんな神かも知れないし、それに彼の神の言うことを旅の当てにするのも気に入らないわ」
ルサナはこのドグスドイという神の事は、黎妙神アズヴィーラが語り掛けてきた話として、既に彼にも伝えている。
本当の所を言えば、例えハイバ相手でも彼の神の声を聴いた事を明らかにするのは、その存在を自ら此方に引き寄せてしまうように感じられて、嫌だった。
しかし……。
「俺はお前のそういった所での苦しみは分からないけどさ。けど結果的に今こうして半裸で向き合ってる間柄な訳だし、その、変に気取らずに頼れよ」
「――っ! ハイバ……!」
こんな風に! 不意に照れくさそうな仕草で此方が恥ずかしくなるようなことを言ってくる彼に対して! ――下手な隠し事をするのは、無理であったのだ。
「ハイバ、えとその……隣に行っても、いい?」
「絶対に来るな。来たら殺す」
「もうっ、今の流れでどうして其処まで拒めるのかしら!?」
流石に本当に殺されはしないと分かるが、しかし頬に拳をめり込ませてくる位は確実にされそうだと察知して、ルサナは口を尖らせながらも引き下がるのであった。
ハイバが彼女の様子をじっと見て、一つ大きな溜め息を吐く。
「……まあ、明日には何処か人里でも行けるといいな」
「いえ、それは困るわ。四日後ならばいいけれど」
「なんでだよ、三日の間に何か起こるのかよ」
「希望を、捨ててはいけないの。そう、希望を」
「急に物憂げな表情で意味の分からんことを言うんじゃない」
自身の想いの機微こそは決して語らず秘めるルサナであった。
こういう二人の触れ合い回を入れるのは大事だと、神代はそう思っています。
エロスな要素も入っていましたが、今回ルサナ目線で話をお届けしたのは、自分の半裸を好きな男にナチュラルに晒せる彼女の、そうした面での女性の格好良さというのも演出したかったから。
ああ、一応言っとくと、ルサナが今回付けてる下着は彼女も言ってる通り少し厚めなので、水で濡れててもそこまで透けてないと思います。
アスリルの里の仕立て技術で薄い生地の下着を作るのは難しそうだと感じた為に、そういう下着にしました。
ハイバが彼女の所作に対しどう思っていたかは、今は読者さんの想像に任せますね。
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