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其ノ九 胡霊烈戦

 ハイバは迫る胡霊の気配に対し、自身の戦闘意思を高めていく。


「結構手強そうだな。かなりの年月を霊峰を取り巻くようにして過ごしてきた類のやつか」


 霊峰には代々の巫女が継続し霊脈を制御してきたことで、或る種の結界が張られたような状態となっている。故に外界の胡霊は霊峰の高純度の気に惹かれつつも、手が出せなかったのである。


「さしづめ私達は霊峰の気を浴びた格好の御馳走、といった所かしら」


 ルサナの軽口にハイバは笑う。


「霊獣の制御は任せたぞ」


「分かったわ。よろしくね、ええと……」


「獅子だぞ」


「そうじゃなくて、やっぱり名前があった方がいいでしょう?」


「お前そういうの拘るよな」


「貴方が無頓着なのよ。私が考えておいてあげる」


 何か上に立たれたような気がして、()()()とした眼でルサナを見る。だが次の瞬間には己の身を大空へと投げ出すのだった。


 雲を切り裂いて視界が開ける。其処に現れたのは、風の羽衣を纏い青の髪を逆立てた巨躯の鬼。


 胡霊とは、霊脈の乱れから生じる粗暴の霊威である。その性質は霊体と実体を行き来するが、力を振るう時には実体の姿を取ることが多い。


 有象無象であれば念のみに依る浄化も容易いが、強き個体ともなると、此方も霊気を伴う武力での討滅を余儀なくされた。


「人型で空を翔けるか。面白い、お前のことは風羅(フウラ)と呼んでやるぞ!」


 ハイバはこの胡霊をそう呼称し、虚空から霊具――一対の、反り返った片刃の剣を召喚しその手に握った。


 胡霊風羅が唸りを上げてハイバに迫る。彼の熱気に当てられた故かもしれない。


 風羅の両腕が突き出され、其処から多数の真空刃が生じハイバ目掛けて強襲していく。


 ハイバは迫る真空刃を対し、大きな挙動で避けるという選択は取らなかった。


 あくまで前進することは止めず、最小限の軌道変更を巧みに織り交ぜ()()()()()()()のだ。


 何度も身を捩り、姿勢を天地逆さまに入れ替えもしながら進んでいく。ハイバに視界に映る天地が、目まぐるしく逆転を繰り返す。


 数度、ほんの微かに真空刃が掠め身体を傷付ける。関係無い、遂には風羅との距離を詰め、双剣で奴の両肩目掛け、縦に振り下ろす斬撃を放っていった。


 しかし、風羅は剛腕を交差させて双剣を防ぐ。肉の盾、斬り抜けない。――ハイバはそれでも構わず、即座に身体を後ろに逸らせ、反動を活かし前方に振り抜く形の渾身の膝蹴りを撃ち込んだ。


 奴の剛腕の防御を膝蹴りが擦り抜けて、その顔面へと強烈にめり込ませる。


 大きく仰け反った風羅の胸部を狙い、そのまま連続斬りへと繋げ斬り裂いていく。


 しかし巨躯が誇る奴の生命力は凄まじく、反撃に、その大口は避けんばかりに開かれ、風の力渦巻く霊気弾を高速で射出される。


「――ッ!」


 ハイバの眼が鋭く光った。――その瞳力(どうりき)で霊気弾を見切り、直撃の、その刹那の時の差で半身はんみの態勢を取って、顔面擦れ擦れの軌道(コース)を行き過ぎさせる。


 黒髪が激しく揺らめく。食らえば致命の一撃であったと心に刻み、ハイバの精神は、高揚感を覚えた。


 双剣を柄頭の部分で連結させ、長大な双刃剣として右手に構える。全身の霊力を一気に開放し、加速力へと変換させ、風羅へと突撃していく!


「これで仕舞いにしよう!」


 ハイバは双刃剣を輪の如く回転させ、一閃。刃に残光纏いて、風羅の首は吹き飛び空を舞った。


「世界の脈動の中へと還れ」


 風羅の首は胴体諸共に光の粒子と化して消えていく。


 浮揚の術を解き自由落下に身を任せ、火照った精神の沈静化(クールダウン)を図りながら、ハイバは暫しその様を見送った。


 ※


 ルサナはハイバの戦いを、膿んだ心が透く思いで見届けていた。


 ――アズヴィーラよ。私は彼の存在を、この私の心で世界に知らしめてみせるわ。


 熱情で以て、霊妙神の意思へと投げ返す。今はもう彼方へと消え去っているようだったが、そんなことは彼女には関係が無い。


「ハイバ!」


 彼の名を呼んで、獅子の霊獣と共に寄り添っていく。伸ばしたこの手を彼は握って、再び霊獣の背に移ったのである。


「面白い相手だった。あんな感じの奴が、きっとこの先も出て来るんだろうな」


「巫女様が日頃語っていた、世界に悪しき気が巡り始めているという話は本当よ。あの方にとっては、黎妙神の降臨は世の憂いから出た真の願いだった」


 そう、ルサナは全てを分かっていた。故にヘルメルスを無理に此方の味方に引き込もうとはせず、彼女の思いを歪めて捉えることだけはするまいとしたのだ。


「巫女様はまだいいさ。真っ向からお前にぶつかってきたし、だからこそ最後には此方の話を聞いてくれた」


 ハイバの言葉に、ルサナは顔を上げる。


「……アスリルの中には、黎妙神に過剰に入れ込んでる連中も居る。巫女様がお前を抑えてくれると踏んでた内はいいだろうが、此処までの事態になったら、形振(なりふ)り構わずに行動を起こしてくるかもな」


「私のことを心配してくれているの?」


 ルサナは気が付けばそう尋ねていた。彼の神と相対することは関しては、一々言葉で安心を聞かせて欲しいと無意識的に思っていたからだ。


 ハイバは変わらず、前を向きながら答える。


「そうだな。何をしてくるか分からない奴というのは怖いものさ。例えそれが俺達より格下の奴であってもな」


 彼が話したのは、ルサナが期待するものとは少し違う、やや大きな視点に依るものだった。


 求める言葉にはそのスケール感の一致が重要にもなるのだが、彼の捉える世界は、大概はルサナの認知(レンズ)を外れてしまいがちなのである。


「確かにそうね。まあ、来るなら全力で叩くだけだわ」


 それでも、小さなスケールに囚われること無く我儘も言わないが。


 雲を抜け、何処までも広がる大地がこの眼に映った。


 圧倒的なまでの存在感。これが世界か、と心が震える。


「この圧力――流石に、少し畏れを抱くな」


 しかしルサナは、ハイバのこの言葉には軽口を叩かずにいられない。


「龍相手には、あんなに無謀に挑んでいけるのに?」


 ――貴方はその畏れを力に変えられる、そういう人でしょう?――そう言いながら、そっとハイバの背中に手を添える。


「……それもそうか。一歩踏み出した後は、何が相手であっても兎角(とかく)慣れていくものなのかもしれん」


「きっとそうよ。……そういえばこの獅子の名前だけど、ラッカラというのはどうかしら?」


 不意に告げたその言葉に、ハイバはゆっくりと振り返ってくる。


「お前、悪くないじゃないか」


 当然でしょう、私を誰だと思っているの?――その気持ちを()()()()に表情へ乗せ、ルサナは微笑むのだった。

遂に来ました、胡霊の存在!


胡霊はこの作品オリジナルの敵設定なのですが、大系化するよりも寧ろ何でもあり感で彩っていきたいですね。


(バトルのバリエーションを増やす上では、自由に造形を作れる方が楽しいですしね!)


名付け方に関しても、これはハイバ達が霊気を操るということで、その霊魂に直接に名を刻み込むという見せ方をしてみました。


学術的な見方というものを、そもそもハイバ達はしないんです。細かなところに関しては、はっきり言って結構ライブ感で推し測っていくような奴らなのです、ええ。


二人の戦い方に関しては、ルサナは一撃が重く、ハイバは技量を活かす、という感じで差別化しようと思っています。


双剣、からの双刃剣(両の先端に反り返った刃が付いた薙刀みたな感じですね)のコンビネーションは、主人公武器として神代も初めて扱う武器ジャンル。


面白い戦いが演出出来たらいいなと思います!


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