花
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
咲いてる花に、咲こうとしている花
咲いていない花に、つぼみのできたばかりの花
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
綺麗な花も、瑞々しい花も
気持ちの悪い花も、崩れた花も
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
花が咲くかもしれない草、ただ伸びるだけで邪魔になる草
花が咲いて実をつけるかもしれない草、芽吹いたばかりの草
……この大地を覆う、たくさんの、花
花だらけで、埋もれてゆく自分がもどかしい
花だらけで、うまく息がすえない自分がもどかしい
花だらけで、目に付く華やかさに惑わされる自分がもどかしい
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
花の囁きに踏み止まる自分がもどかしい
花の訴えに口をつぐむ自分がもどかしい
花の叱責に身を縮める自分がもどかしい
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
花に翻弄されていく自分が嘆かわしい
花に巻き込まれる自分が情けない
花に合わせる自分が忌々しい
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
目に付く花を、毟りましょう
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
手当たり次第に、毟りましょう
花を毟りましょう
ぶちり、ぶちり
毟った花は、風に乗って飛んで行く
毟った花は、どこかの大地に飛んで行く
花を、毟りましょう
花が、毟れません
花が、どこにもありません
花を毟りつくした大地に、私が一人
だだっ広い大地に、私が一人
この身を囲う花がない
この身を覆う花がない
この身に迫る花がない
競う花がない
見比べる花がない
支えてくれる花がない
称えてくれる花がない
擦り付ける花がない
押し付ける花がない
叩き付ける花がない
貧弱な大地の上に、貧弱な私が一人
強い日差しを私だけが受け止めて
強い風を私だけが受け止めて
強い雨を私だけが受け止めて
枯れてゆく
私という花が、枯れてゆく
枯れてゆく
私の心が、枯れてゆく
枯れてゆく
枯れたこの身を隠す花がどこにもない
枯れて醜く崩れたこの身に添えられる花はどこにもない
……どこにも、ない