とある日の一幕:大好きなお姉ちゃん
「あ、お姉ちゃん! おかえり!」
「ただい――凛……! あんた、また……!」
階段を降りていると、ちょうどお姉ちゃんが帰ってきた。
嬉しい!
とっても可愛い、自慢のお姉ちゃん。
いつも優しくて、私をいっぱいいっぱい愛してくれる。
でも私の「おかえり」に輝くような笑顔を向けてくれたと思ったら、こちらを見るなり途端に表情が凍り付いてしまった。
さっき慌てて私の背中に身を隠したこの男のせいだ。
「この男、お姉ちゃんのでしょ? 別れた方がいいよ。ちょっと声かけただけですぐにコレだもん」
「違う……ッ! 誤解なんだ! 澪! 話を訊いてくれ!」
何も誤解なんてないんだけど?
さっきまでベッドの上で私にずーっとキモいこと言いながら腰振ってたのはどこのどいつなんだか。
というか、気軽にお姉ちゃんの名前を呼ばないでくれる? 怖気が走るんだけど。
これ以上、この男をお姉ちゃんの視界にいれておきたくないな。
「うっさいなあ、さっさと帰りなよ。彼女の妹を抱いといて、そのまま彼氏でいられると思ってんの?」
「そ、それはお前が――「帰って」」
お姉ちゃんへの言い訳そっちのけで私に突っかかろうとした男の背中に、氷のように冷たい言葉がかけられた。
男は冷や汗をだらだら流して固まっている。
いい気味。
お姉ちゃんという最高の彼女がいながら、他の女に手をだした報いだ。
本当はこんなものじゃ全然足りないけど、もう二度とお姉ちゃんに近寄らないなら許してあげる。
と思ったけれど、男はなおも食い下がろうとしているのか、往生際悪くお姉ちゃんのところへ向かっていった。
「いや……違うんだ。その前に話を……」
「――帰って。二度と私の前に現れないで」
「………………悪い」
言い訳なんて許さない。そんな感情を込めたお姉ちゃんの声が響いた。
普段は表情豊かなお姉ちゃんの顔が能面のようになっている。
よっぽど堪えたのか、男はがっくりと肩を落として家から出て行った。
パタン、と静かに玄関ドアが閉じる。
「ふふふ……」
ダメだ。笑いが込み上げてくるのを止められない。なんとかして抑えないと。
手を口に当てて身を震わせていると、お姉ちゃんがキッとこちらを睨みつけてきた。嫌悪感が剥き出しの、敵意すら感じさせる目だ。
「凛――あんたこんなこと何回やれば気がすむの?」
刃物のように鋭い口調で発された言葉が突き刺さった。
ゾクゾクと言いようのない快感が脚から頭まで走り抜けて、思わず身を捩ってしまいそうになる。
だけど私は努めて平静を装いながら言った。
「まだ付き合ってそんなに経ってないうちに本性わかってよかったじゃん。あんな男、お姉ちゃんに相応しくないよ」
お姉ちゃんは悔しそうに歯噛みした。
端正な顔がみるみるうちに歪んでいく。
ああ……最っ高♡
いつも天使みたいなお姉ちゃんのそんな顔が見られるなんて。
普通に生活していたら絶対に見られない顔。
何度経験してもドキドキとゾクゾクが止まらない。
笑ったお姉ちゃんも、怒ったお姉ちゃんも、哀しむお姉ちゃんも、楽しそうなお姉ちゃんも……全部全部全部私のもの。私だけのもの。他の誰にも渡してあげない。
「……次やったら許さないから」
吐き捨てるように言い残して、お姉ちゃんはリビングの方へと消えていった。
――ほらやっぱり許してくれた。
なんでそんなに優しいの? そんなことされたら……ますます好きになっちゃう。
もう限界まで好きだと思ってたけど、上限は毎日上がりっぱなしで留まるところを知らない。
お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……大好き!
ずっと一緒にいようね、お姉ちゃん♡
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