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8 トリスタンとジョージ

「何かわからないことでも?ダミアン」


「い、いえ。そういうわけではありません」


「そう?手が止まっているようだったからね。聞きたいことがあれば何でも言って。この書類の山の前で無駄にする時間は少しもない。悩む時間があれば聞いてくれ」


 じゃっかん疲れ気味のトリスタンが言うように机の上には処理を待つ書類達が積まれていた。

 先日辺境伯の使いだと言って不正を働こうとしたものがいたせいで、その他の領地の申請分も見直すことになり仕事が増えている今リリーが配属されたのはありがたかったらしくトリスタンは初日から優しく仕事を教えてくれている。


「はい」


 リリーは書類に目を戻した。執務室では王太子殿下の姿が目に入る度につい先日の令嬢のことを思ってしまう。


 「大嫌い」という言葉に重なって聞こえた『大好き』。どうやら事情があって素直になれないようだけれど王太子殿下もエリザベス様のことを好きならお二人で幸せになる方法はないのかしら、と思って手が止まっていたのだ。


(貴族ですらただ好きだから結婚というわけにはいかないんだもの。王族だからなおさら簡単にはいかないのね)


「ここまで終われれば後は少しだから」


 そう言ってトリスタンが次の書類の束を渡してきた。


「はい。でもあちらの山もですよね」


 『少し』についてトリスタンが嘘をついていることは分かっていたがリリーは了承の意をしめしつつ本当のことをあきらかにした。この程度の真実は暴かれた人の気持を害することもない。


「えぇ?よく分かったね!!やる気を無くさないようにぼやかしてたんだけどなぁ。はは」


 驚いたトリスタンに精霊が少し喜んでくれたのがリリーには分かった。


(小さなことでも自分の呪いが働いて嘘が暴かれることで喜んでくれるのだから毎回こうならいいのだけど)


「そんなにお気遣いいただかなくても計算は好きですから」


「そう?ダミアンが来てくれて本当に助かってるよ」


 他のものが既に仕事を終わらせいなくなり、二人で書類の束を片付けて仕事を終わろうとしていた時ジョージという大柄な青年が執務室へ戻ってきた。


 彼はトリスタンの親友かつ幼馴染で元々は騎士をしていたが肩を痛めてしまい近年は事務方をしているということをリリーは聞かされていた。


「口は悪いけど優しいやつなんだ」


 そう言って笑ったトリスタンの表情が柔らかかったのでなんだかリリーの胸まで温かくなったのだ。


「二人共まだいたのか」


「あぁでももう終わるよ。ダミアンのおかげで助かってるんだ。今日は捗った。家でゆっくりできそうだ」

『ほんとうは後少し詰めたいけどダミアンまでこれ以上残すのは悪いし』


 そう言ってトリスタンがリリーに微笑みかけた。だがトリスタンの後ろに一瞬切なげな表情を浮かべたジョージを見たリリーはしまったと思った。リリーが彼の表情を見たことをジョージは気づいてしまった。


「お前の仕事が遅いせいで人員を増やしてもらっているんだからお前はアレク様に感謝するべきだぞ。トリスタン。この小僧がどれほど助けになっているかは知らないが」


 ジョージはなんとも偉そうな物言いでトリスタンだけでなくリリーまで小馬鹿にする。


「君に迷惑をかけてないんだからそういう言い方はしなくていいだろう?」


 ムッとした表情を向けるトリスタンはジョージの気持ちに気づかなかったようだ。


「昔から仕事が遅いのを助けてやったのは俺だろ?俺がいないとほんとにダメだったじゃないか」


『お前の側で俺が一番に手助けしたいんだよ。俺が一番の親友だろ!!そんなガキに構うなよ』


 聞こえてきたジョージの心の声がめめしくて子供っぽすぎてリリーはつい油断した。一日中書類仕事で頭を使い続けていたのでついぽろりと言葉が出てしまった。


「ジョージ様は大好きなトリスタン様を側で一番にお手伝いしたいんですよね?」


「そういうわけじゃない!」


 真っ赤になったジョージに怒鳴られてリリーもむっとする。


「トリスタン様にかまってもらえなくて拗ねるなんてジョージ様はお子様ですね」


「な!」


「そうなの?ジョージ」


 ぎりぎりと音がしそうなほどぎこちなくトリスタンの方を見たジョージは耳まで赤くして固まった。


「じゃあ一緒に仕事する?ほんとうは後少しだけやっちゃいたいんだ」 


「お前がどうしてもっていうならやってやってもいい」


「くくく。じゃあ、そういうことにしてくれよ」


 トリスタンが楽しげに笑うのでジョージもつられて笑った。


(全く皆素直じゃないなぁ)


 リリーはトリスタンの気が変わって巻き込まれる前にとそそくさと執務室の扉に向かった。


 精霊が喜んでいる気配は確かだったので細かいことは気にしないことにして後ろ手に扉をしめた。



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