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6 男装の子ぶた?

 あまり大きい方ではない胸を潰して男物の洋服をきてもじゃもじゃとしたカツラを被り厚いガラスのメガネをかけたらそこには垢抜けない小太りの少年がいた。


(なけなしの自尊心が消えてしまいそうだわ。まるで子ぶたみたい)


 窓ガラスに映る自分の姿を見てリリーは小さくため息をついた。


 同じ部屋にいる人物たちがスッキリとした美丈夫達なだけに惨めな気分が止められない。


 部屋の奥の執務机に座り書類に目を通している王太子殿下はもちろん補佐をしているのも王太子殿下の学友だった若者たちでなんだかキラキラしい彼らに比べ男装がばれないようにという父の気遣いで与えられた綿入りのもこもことした上着がリリーのダサさを確固たるものにしている。


 そもそもどうしてこんな事になったかと言うと時は昨日に遡る。



 ***



「元気にしているか?」


 あやしい美丈夫に会った数日後リリーは宰相の補佐をしている父に王宮の一室に呼び出された。


 久しぶりにあった父はあきらかに機嫌がよく強面の父の笑顔というのは胡散臭く感じるな、と失礼なことをリリーは思った。


「えぇ。お話する相手がいないのが少しさみしいですけれど。不自由はありません」


「それは何よりだ。いくつか伝えておくことがあってな。アルフォンスとの婚約に関してはリアのこともあって保留になった」


「それはそうでしょうね」


「お前の初仕事に関して宰相様からお褒めの言葉を頂いている。そこで今後は書記官として王太子殿下のお側に控えるように言われてな」


「王太子殿下」


「あぁ。だがお前のことを周りの人間に知られてしまうといろいろあるのでな、身分は宰相様の親族のお名前をお借りすることになった。今日からお前はダミアン・ハースト、15歳ハースト子爵の4男だ」


「ダミアン?男性名ですが」


「そうだ、王太子殿下の周りに未婚の女性が侍る。周りがどう見る?だからお前には男装してもらうことになったよ。なに成年になったばかりの子供なら多少声が高くてもわからないさ。カツラとメガネで顔を隠せば男でいけるさ」


 父は至極真面目な顔だったのでどうやら本気らしいとリリーは黙って話を聞いていた。


「だがお前ほど可愛らしいと王太子殿下の目に止まってしまうだろう。素顔をさらさないように気をつけなさい」


「はい」


 ニコリともせず付け加えられた言葉が父の本意だということは精霊の呪いが教えてくれた。

 強面の父は存外親ばかだったらしい。


 リリーは胸の奥がほんわりと温かくなったのを感じた。


***



 次の日父に言われたとおり男装をして小太りの少年になったリリーは父の使いのものに王太子の執務室へ連れてこられた。数人の男性が静かに書類に目を通している。


 さすがに緊張しながら部屋へはいったリリーだったが部屋の奥にいた王太子と思われる男を見て呼吸を止めた。

 夏の青空を切り取ったような瞳。麗しいを造形にしたような顔立ち。


(お気の毒な方)


 王太子はリリーを中庭で抱きしめた男にそっくりだったのだ。


「私の顔に何か?」


 不躾に顔を眺める結果となったリリーは慌てて頭を下げた。


「失礼いたしました。はじめましてダミアン・ハーストです」


「私はアレクサンダーだ。宰相からの推薦だな。数字に強いらしいな。よろしくな。さっそくだがトリスタンについてくれ」


 あっさりとした指示を出した王太子はすぐに仕事に戻った。


 リリーもトリスタンと呼ばれた彼について机に向かう。

 トリスタンは赤茶の短髪に落ち着いた雰囲気の若者でガーウィン伯爵家の三男だということは彼自身が説明してくれた。


 上流階級の公達は突然放り込まれた怪しげなリリーをあっさりと受け入れて皆仕事に集中している。


 リリーは書類の数字が正しいのか計算を任されたのだが、大量の数字をひたすら計算していると頭がぼうっとしてくる。


(そもそも計算には私の呪いは役立たないのだけれど)


 そう思ったときに執務室のドアが叩かれた。


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