32 本当のレオ
「ちょっと、一言よろしいですか?」
とうに朝日というには柔らかい光のさす部屋で、気まずそうに口を開いたヨハンが主であるレオにどうか落ち着いてくれと言うように手のひらを見せた。
仕事に行くというリリーと別れ部屋に戻ってからというもの、レオはヨハン相手にひたすらリリーと自分の運命の恋について明るい未来予想図を語りつづけていた。
曰く
「リリーはうちの国の花嫁衣装がきっと似合う」
「成人式が終わったら兄上に領地をもらおう」
「家族が増えてもいいように部屋数の多い家が良いな」
「ヨハンもお相手を見つけような」
等など、いつまでももうリリーが了承したかのような言葉を紡ぎ続けるので優秀な侍従と自負するヨハンとしては主に現実を見せなくてはという義務感からの一言だった。
「リリー様がレオ様を愛してくれたとして。呪いが解けて元の姿に戻った時にひかれると思わないんですか?」
主はすっかり失念しているようだが本来の彼の姿はこの国の王太子アレクサンダーとは似ても似つかない姿なのだ。
現在の姿になる三年前この国に逃げて来たレオは、家族を助けることの出来ない弱く小さい自分を呪い続けていた。そんなレオをあわれんだ精霊は『力のある大人になりたい』というレオの願いを叶えた。
その精霊がよくしっている力のある大人というものがアレクサンダーだったからなのだがレオにとっては残念ながら都合の悪い姿だった。
なぜならレオの国では皆黒髪でアレクサンダーのような金の髪は他国のものだとすぐに分かってしまう。他国との交流をたっているレオの国に戻ろうとすればすぐにスパイと思われ捕まってしまうだろう。
精霊はこの姿では家族を助けに国に帰れないというレオに『一度変えた姿をもどすことはできないが運命の相手に愛されたら元の姿に戻れるという条件をつけてあげる』といったのだ。それ以来レオは運命の相手に出会えるようにと神に祈り続けてきた。そして先日やっとリリーに会えて舞い上がっているのだ。
ちなみに側にいたヨハンまで大人にされたのは精霊の親切心だったのだがヨハンにとっては『小さな親切余計なお世話』でしかなかった。急に姿が変わったせいで国元とのつなぎ役には疑われさんざんしなくてもいい苦労をさせられたからだ。
ヨハンが何を言っているのかさっぱりわからないといった体でレオは首を傾げた。
「なぜだ?」
「レオ様本来のお姿はアレク様と全然似てないってわかってますか?」
「分かっている。それがどうかしたのか?」
「アレク様の外見のお陰でリリー様がレオ様に好意的だと思わないのでしょうか?」
「私の?外見で?」
「そうです」
髪の色だって目の色だってレオとアレクサンダーは何一つ同じではない。おまけに年だってレオは十三歳。二十代半ばのアレクサンダーとは大違いなのだ。
「リリーは人の表面だけを見て判断するような女性だと言っているのか。彼女はそんな浅慮な女性じゃないぞ!!ヨハンいくらお前でも言ってもいいことと悪いことがあるんだぞ!!」
都合の悪いところをつかれたのかレオはムキになって否定した。
「一般的に見目麗しい人物はそれだけで好ましく思われるんですよ」
「リリーは私の運命の相手だぞ!!姿形が変わったくらいで私のことを愛さなくなるなんてことはない!!だって運命なんだぞ!!」
「レオ様は我が国の基準ではきっと麗しくお育ちになるだろうという外見でしたが、お忘れではないですよね」
「何をだ?」
「レオ様はまだ成人式を終えられてないのですよ」
「そうだが」
「つまりリリー様より年下だということです。身体だって今とは違いかなり小さい」
「何だそんなことか。年の一つや二つ気にならないぞ。リリーは美しく私の運命の相手だ。問題ない。身体だってあれから三年だぞ。きっと私の背もかなり伸びているはずだ。リリーより小さいはずがない」
「実際は四つちがいますが……私が心配しているのはリリー様がレオ様をどう思うかなんですが。そこをちゃんとわかってらっしゃいますか?」
「ヨハンは心配性だなぁ。大丈夫だ。リリーが彼女の父君と合わせてくれたら婚約の許可をもらってすぐに婚姻までこぎつけられるさ。あんまり心配するとお前の父みたいに髪の毛がうすくなるぞ」
「そうだといいんですが。精霊は悪戯好きですから。まだ何か一波乱起きそうな気がするんですよね……気のせいならいいんですけど……」
どうにも嫌な予感がするヨハンなのだった。




