29 中庭で待つ男
次の日の朝、眠い目をこすって中庭に出たリリーを待っていたのはレオではなかった。
いつもはレオがいるはずの茂みの側のベンチには満面の笑みを浮かべた元婚約者のアルフォンスがいた。ひらひらと手を振りながらこちらをみている男に、リリーには爽やかなはずの朝の空気が一挙に淀んだように感じられた。
「おはよう。リリーひさしぶりだね」
驚きで固まったあと距離を取ろうとしたリリーは、アルフォンスに腕をすばやくつかまれ問答無用でベンチに座らせられた。
表面上はにこやかに微笑んでいるアルフォンスだが、その笑顔はそこが知れない。今までのてひどい裏切りに昨日の暴力でダメ押しをされたリリーの心が恐怖できゅっと縮んだ。
「なんで、ここに?」
愛しい恋人にするように腰に手を回されリリーの動きは封じられた。
「それは俺のセリフだよ。どうして王宮なんかに隠れているのか教えてほしいな。リリーに会いたくてさがしたよ」
『まったく手間のかかる』
リリーに向けられた瞳の奥が冷たい光を宿していることにリリーは気づいた。
身体が恐怖にがんじがらめにされそうでリリーは息を止めた。
「それはお手間をおかけしました。でも私は話すことなどないので。今から人と会う予定ですの。邪魔をしないでください」
顔を見ないようにして一息に言い放つ。精一杯の力でぎゅうぎゅうとアルフォンスの体を押し返すが彼は微動だにしない。
その代わり楽しそうにクククと喉を鳴らした。
「へぇ。毎朝男と会っているというのは本当なんだな」
『リアのことを非難していたくせに自分も同じ穴の狢じゃないか。しかもあんな小僧』
「な!!」
呆れて口が塞がらないとはこのことだ。リリーは自分のことは棚に上げてリリーを非難するアルフォンスを凝視した。
「あの小僧ならやめておけよ。あんなのより俺のほうがよっぽど頼りになる」
『昨日の今日でリリーに会いに来るような根性はないだろう』
「どういう状況での頼りですの?自分より弱い相手を叩きのめすのにあなたの助けを借りれというの?」
「俺がそんな卑怯者だというのか?」
「違うとおっしゃるの?行方不明になったあと後ろ指をさされているときには助けてくれなかったのに?」
何度か出席した茶会で向けられた視線を一人で受けなくてはならなかったことを思い出しリリーの頭に血が上る。茶会につくと早々にリリーを一人にし自分は男友達とその取り巻きの令嬢たちと談笑していた。リリーは一人で好奇の目にさらされていたのに。
リリーの胃の腑に冷たい何かが落ちていく。
「傷ついた婚約者を思いやるのではなく自分が行きたいから夜会に参加しろと何度も誘って下さったわよね。私がどんな目で見られるかわかっていたのに。自分が、行きたいから!!傷物婚約者でも見捨てない優しい男を演じたかったのでしょう?心の中では私のことを信じてなかったくせに」
ぎゅっと握りしめたドレスの布につめがくいこんでいることにもリリーは気づかなかった。
悔しさが彼女の血をたぎらせていた。
「挙句の果てにはリアと一緒になって私を追い出そうとしておいて。今度はまた婚約だなんて!!ばかにするのもいい加減にして!!あなたと結婚なんて絶対しない!!」
強い口調で言い切ったリリーがアルフォンスの腕を振りほどこうと身じろぐ。
振り回したリリーの手がアルフォンスの頬にあたりよろめいた彼が地面に尻餅をついた。
「だまって聞いていれば生意気な女だな!!お前は大人しく俺と結婚すればいいんだよ!!」
怒りの形相のアルフォンスがリリーに手を伸ばした。




