27 王妃様は一直線
「おや?こんな遅くに何をしているの?」
三人が館の扉をくぐった時に声がかけられた。
「クリスおば様!」
シシィの視線の先には背の高い女性が豪華な緑色のドレスを着て立っていた。少しはなれて侍女が控えている。
彼女のはちみつ色の豊かな髪は高く結い上げられ宝石を散りばめた髪留めでとめてある。
豊かなまつげに縁取られた空色の瞳が三人を見、リリーを見つけて軽く細められた。
リリーは慌てて軽く膝を曲げ視線を合わせないように床を見た。
実物は園遊会で一度遠目に見ただけだがこの国の最高権力者の妻である彼女の姿絵は何度も見たことがある。
光の聖母と呼ばれるこの国の王妃クリスティーナだった。
「また何かいたずらしていたの?何があったのか聞きたいわ。ついていらして」
ふんわりとした話し方だが命令であることは明白だった。
「私もう子供ではありませんの。いたずらなんてしませんわ」
『いたずらはしていません』
三人はクリーム色の壁に金で装飾をしてある部屋へと連れて行かれた。
シシィに通された部屋より二倍は大きく応接のための椅子や机も一段と華美である。
クリスティーナが席につくと侍女が三人を席に案内した。
「さて、シシィのいたずらに巻き込まれたお嬢さん。お名前を教えていただける?」
「はい。お初にお目にかかります。アデノフォラ伯爵家の長子リリフォリアでございます」
「あら?アデノフォラ家というと」
「行方不明令嬢として名高いリリー様よ。伯母様」
「まぁ……大変!!パティ!!早くお医者様を呼んで」
シシィの言葉にクリスティーナはリリーをしげしげと見つめハッと大きく目を見開くと部屋に控える侍女へ指示を出した。
『赤ちゃんが!!』
「いえ、王妃様!!」
「先程コケたのでしょう。ドレスが破けてるもの。あぁ頬も打ったの?大変!!座ってるのは辛いわよね。長椅子で横になったほうがいいのではなくて?早くお医者様を呼んで!!」
『大変大変大変だわ!!赤ちゃんが!!たしか妊娠してるって!!妹の婚約者を寝取ったのよね?すごいわそんなことをする子には見えないのに。あぁでも妊娠しているのにコケたのでしょう?大丈夫なのかしら?』
親切心と好奇心でいっぱいになった王妃は落ち着いた様子から一転パタパタと手にした扇を腿に打ち付けながら医者を求めていた。
「伯母様それは必要ないわ」
シシィが王妃が何を思っているのか察してリリーに目配せをした。。
「隠しているのね?わかったわ。もちろんリリー様の名誉は守らせるわ。王宮の医者に口が軽いものはいないから大丈夫よ!!」
どうやらシシィの目配せが王妃に確信をもたらしたらしい。
リリーのお腹を見て安心させるように微笑む。
(何もわかっていないのに!!ここでもまた風評被害が!!)
リリーは誤解を解こうと口を開いたがそこをまた王妃に遮られる。
「しーっしーっ言わなくても大丈夫よ。心配いらないわ」
彼女は何も言うなと口の前で指を一本たててニッコリと微笑む。そしてわざわざリリーのそばに寄ってきて優しく抱きしめた。
「ぐっあっ」
王妃の豊かな胸に口を物理で塞がれてリリーの弁解は聞いてもらえない。
「伯母様思い込んだら一直線なのよね」
シシィがそう言ったが哀れなリリーを慰めることでいっぱいの王妃の耳には届いていないようだった。




