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裏話 霞み

 急いで教室に戻ると、雨谷は自分の席に座って待っていてくれた。


「はぁ……はぁ……」


 扉に寄りかかってなんとか呼吸を整えると、小見原は曲がっていた背筋に力を入れた。


「ちゃんといるわね。アンタのことだから途中で逃げ出すかと思ったわ」

「……そう、だね」

「なに、なんかあったの?」


 心なしか覇気がないので問いかけてみると、雨谷は翳りのある笑顔を浮かべた。


「なんでもないよ。それより、曲のことなんだけど、内容は決められた?」

「当たり前でしょ。私が言い出したんだから」


 小見原は周囲にクラスメイトが誰も残っていないことを廊下の外まで確認してから、鞄のクリアファイルを掴む。皺も折り目もついてないルーズリーフに少し目を通してから、強張った動作で雨谷の方へ差し出した。

 以前からアイデアとして浮かんでいた曲のイメージを一晩かけてまとめ上げた、渾身の出来だ。だが何度見ても、相手に拒否されるんじゃ無いかと不安になってしまう。画面越しの匿名のやりとりだったら、こんなに気負うことはなかっただろうに。


 ルーズリーフの表面を滑る雨谷の目を見つめながら、小見原は無意識に両手を背中の後ろで握りしめた。やがて雨谷が、感心した声と共に顔を上げた。


「……すごいね。これを一日で? 前から考えてたとか?」


 ガッツポーズを取り掛けた。だが寸での所で耐え切ることに成功し、斜め上の虚空を睨みながら言い訳をした。


「たまたま、使い損ねたネタがあっただけ!」

「そうなんだ。じゃあ前にも、こんな風に誰かに曲をお願いした事があるの?」

「え?」

「だってすごく分かりやすいし、僕が欲しかった部分が全部あるんだ。もちろん細かい調整は必要だけど、全体のイメージがつかみやすくて助かるよ」


 一瞬Akatukiだとバレたかと思った。小見原は止めていた呼吸を再開して、すっかり調子の戻った雨谷に呆れた。


「アンタ、曲の話になると饒舌ね」

「好きなものなら、みんなそうだと思ったんだけど……」


 また弱気になって、と苛立ちが湧き上がってきたが、遅れて雨谷の目尻が柔らかく細まっていることに気づいた。どうやら照れている、らしい。

 そう言う所はYUIIらしい、と小見原はすぐ機嫌を直して言った。


「じゃあ早速打合せするわよ。ここだと先生に見つかりそうだから駅に行くわよ」

「駅?」

「カラオケ! あそこなら色々音とか試せるでしょ。外に聞こえにくいし誰にも見られないし」


 駅にはカラオケ店が複数あって学生の出入りも多いのだが、小見原が行きつけのカラオケ店ならクラスメイトに不人気だと調査済みだ。それにヒトカラ用の部屋もあるから、後から二人っきりの瞬間を見られても言い訳ができる。


「なるほど。……じゃあ、僕は帽子でも被っておこうか?」

「アンタ帽子なんてあるの?」

「あるよ」


 言うや否や、雨谷は鞄から取り出した帽子を深く被って見せた。帽子を被っているときの雨谷の見た目はますます暗い雰囲気を助長させており、制服を着ていなければ職務質問待ったなしの不審者だ。


 何もそこまでしなくても、と小見原は思ったが、顔を隠している方が雨谷も安心しているように見えて何も口出ししないことにした。


 それにしても、と小見原は帽子のつばの下を覗き込む。前髪をどけて、よりはっきり見えるようになった雨谷の目は澄んだ黒色で、思っていた以上に大きく見える。しかも今まで気づかなかったが目尻に美人黒子があったらしい。


 髪型のせいで老けて見えていたけど、こうしてみると同い年だと実感が湧く。しかもこれがYUIIだと思うと不思議とカッコよく見えてきた。


 雨谷は穴が開くほど見つめてくる小見原を見返して、不意にこんなことを言ってきた。


「ねぇ、どう考えても僕と一緒にいることと、曲を作るメリットが釣り合ってる気がしないんだけど、どうしてか聞いていいかな」

「言わなかったっけ?」

「聞いてないよ」


 小見原はざっと記憶をさらって、そういえば言ってなかったと思い出して顔を顰めた。つい何も答えないでさっさと教室の外へ歩く。


 馬鹿正直に答えるわけにはいかない。アナタのファンだからとも言えない。本当はYUIIに対する敬意と本心を言ってみたいが、脅したと言う負い目で踏ん切りがつかない。

 結局教室を出る前に口をついたのは短い言葉だけだった。


「歌手になりたかったから。それだけよ」

「……それだったら、僕よりもっといい人がいくらでもいるじゃないか」


 胸元の奥が刺々しく騒ついた。振り返って怒鳴ろうと口を開けたが、思いとどまってため息を吐く。


「そういうアンタは、何になりたいの」

「え?」

「曲を作って人気になりたいの? 誰かに認めてほしいんじゃないの?」


 何年も作曲活動を続けて、曲を投稿し続けているのだから、何かしらの目標があっていいはずである。小見原は一番長くYUIIを見てきたという自負があるが、YUIIの求める結末や目標といったものは明確に感じ取れなかった。振り返ってみれば、メールでのやり取りでもYUIIの夢なんて聞いたことがない。過去も現在もただ曲を作って投稿しているだけ。


 YUIIの曲に熱意を感じたのは自分の思い込みだったのかもしれない。メール越しのあの会話はビジネストークで、本人は嫌々構ってくれていたのかもしれない。

 小見原はYUIIに人気になって欲しかった。だが、雨谷はそうではないのかもしれない。一度も有名になりたいなんて言っていなかったから。


 自分が今やっていることは……。


 足元が沈んでいくような深い闇に襲われた気がして、小見原は誤魔化すように言った。


「早く行くわよ。遅くなったらお互い親に怒られるでしょ」


 雨谷の返事を聞きたくなかった。

 

 …


 ……


 ………


 正門を抜けて駅へ向かう間、小見原は雨谷の横顔を時々見ながら考えていた。

 この人のために、小見原は歌手になりたいと努力してきた。しかし雨谷は自分の音楽の趣味について、それほど深い感情を抱いていないかもしれない。YUIIとしての実力を自分で理解していないから雨谷は弱気になっている。

 そんな煮え切らない態度がまた小見原には気に入らなかったが、秋葉に忠告された今なら、なんとか苛立ちを抑え込めるようになった。


 YUIIと喧嘩したいわけじゃない。仲良くなりたいのだ。だからもっと打ち解けた態度で関わりたい。


 とは思ったものの、小見原は雨谷と絶望的なまでに世間話ができなかった。何か話題を探しても、最終的に雨谷の返答で自分が切れ散らかす未来しか見えないのだ。故に迂闊に小見原からは話題を振れないし、雨谷も小見原のただならぬ雰囲気に怯えて喋ろうとしない。

 お陰で小見原と雨谷の間には尋常ではないほど重い空気が流れていた。側を通りかかった人たちもわざわざ迂回して通り過ぎて行く。


 長く感じられた道のりの末、やっと目的地であるサウンドエコーが見えた。地獄の時間から解放されたと喜ぶと、隣からも嬉しそうな反応があった。


「ここにサウンドエコーあったんだ!」


 驚いてそちらを見れば、雨谷は重苦しい空気なんてなかったかのように目を輝かせていた。


 前々から思っていたが、雨谷は見た目に反して喜怒哀楽がはっきりしていて時々大袈裟だ。だがこの瞬間だけ、小見原は不覚にも、その笑顔をかわいいと思ってしまった。


「たかがカラオケ店でしょ」


 つい小見原はぶっきらぼうに言い放つが、雨谷は全く気にせず会話を続行した。


「それはそうだけど、すっごく得した気分なんだ。いつも別のところに自転車で行ってたから、まさかこんな近くにあったなんて」

「アンタの家、駅に近いの?」

「歩いて十五分ぐらいだよ」

「ふぅん」


 いつか遊びに行ける日が来るかな、と思ってすぐに脳内で否定する。これから仲良くするつもりだからと言って、それは想像しすぎだ。

 しかし諦め悪く、雨谷の部屋を少し想像してみながら小見原はサウンドエコーに入店した。


 受付で店員に会員証を見せて割引してもらい、小見原は早速コースを決めていく。以前AkatukiとしてYUIIと曲の調整をしていた時は、一日三時間程度で相談が終わっていた。だから今回もカラオケで借りる時間も三時間にしておいて、機種は若者向けの曲が多いものを選んでおいた。


 そこまで決めてはたと、小見原は雨谷から全く希望を聞いていないことに気が付いた。咄嗟に顔を上げると、雨谷は帽子の下で目を瞬かせて首をかしげた。


「どうしたの小見原」

「べ、別に、文句あれば、素直に言いなさいよ?」


 雨谷に対して優しくなれるように精一杯の気遣いをしたのだが、彼は困ったように笑うだけだった。


「僕はなんでもいいよ」

「遠慮してないでしょうね」

「してないよ」

「ならいいわ」


 小見原は喉の奥に小骨が引っ掛かったような気分だったが、改めて店員と向き直ってマイクとドリンクバーのグラスをトレーごと受け取った。

 それから部屋の番号を見ようとトレーの上の伝票を見ようとしたら、縦長のグラスが不安定にグラグラと揺れた。


 危ない、と身構えた所で、横から伸びた腕にひょいっとトレーを持っていかれてしまう。つられて視線を向けると、トレーを持ったまま部屋番号を確認する雨谷の横顔が見えた。


 男のくせに白くきめ細かな頬を持つ雨谷を無心で見上げていると、彼はこちらへ向けて微笑みを向けた。


「えっと、あっちだね」


 そう言って先導するように雨谷は踵を返す。追いかけようと一歩踏み出した時、雨谷の背中が高いところにあることにようやく気づいた。


 よくよく考えると、雨谷はかなり高身長の部類に入ると思う。制服の黒いズボンで足の細長さもはっきりしているし、背中のラインにはうっすらと筋肉らしき膨らみがある。


 ――YUIIってこんな感じなんだ。


 思った瞬間、急に雨谷の歩く姿や先ほどの微笑みまでが尊いものに感じられ、きゅうっと胸が甘く締め付けられた。


「小見原さん?」


 不思議そうに振り返る姿までかっこいい、なんて、あの雨谷に思う日が来るとは思わなかった。


「……生意気」

「なんで?」


 間抜けな顔になる雨谷を軽く押して部屋へ入る。中はテーブルとL字ソファ、向かいに液晶というありきたりな個室だった。小見原は一番奥の席に荷物を置いて場所を取ると、各々で空のグラスを持って交代でドリンクバーへ向かった。


 なみなみに入れたメロンソーダをストローで一口飲みながら、小見原は雨谷が戻ってくるのを待つ。

 思えば、異性とカラオケに行くのは初めてだ。友達とは二、三人で遊びにくるのが常で、二人っきりというシチュエーションというのも片手で数えるほどしかない。


 異性と二人きり。しかも相手はYUII。


 下手にYUIIへの尊敬の想いが戻りかけていたせいで、小見原は今すぐにでもテーブルに額を叩きつけて悶絶したくなった。

 浅はかだ。幾ら機密性の高い相談をするとしても、もっとマシな場所を探せばよかった。面と向かってやらずとも、電話越しでやり取りできたのに。いや、曲のことでYUIIに妥協して欲しくないから、結局この形がベストなのだろう。でもYUIIの正体が雨谷だとしても、個室で一緒の空間にいるのは恐れ多くて心臓が口から飛び出てしまう。


 やばい、しんどい。


 まもなく雨谷がジンジャーエールを持って戻ってきた。小見原は呼吸を忘れて完全に動きを止めるが、そんなことに気づかない雨谷はルーズリーフを見ながらいきなり本題に入った。


「小見原の要望だと、アップテンポ調でかっこいい感じ、ピアノとかが多めのものがいいんだよね。そして、君が歌うんだね?」


 頭が再起動するのに数秒を要して、オミhqはカチカチに固まった口を必死に動かした。


「そそうよ。私のデビュー曲にしたいの」


 めちゃくちゃ噛んだ。小見原の頭の中は絶対変に思われた、という恥ずかしさでオーバーヒートしていた。それでも雨谷からの質問は止まらない。


「いままで自分の歌を動画でアップしたことある?」

「あ、あるけど二年前に撮ったの。しかも友達と」

「できれば聞かせてほしい」

「え!? でも、その……」


 二年前なんて嘘だ。小見原は以前からSNS内で、自分の歌声の評価を得るために今も短い動画をアップしている。だが動画を上げているアカウントの呟き履歴にはこれでもかとYUIIに対する愛が語られている。

 動画を見せたら雨谷にアカウントがバレるかもしれない。となると自分がAkatukiであることも、あの熱烈なポエムも見られるかもしれないということで。


「ダメ! これだけはダメ! 絶対にダメ! 親にも内緒だし、アナタにだけは聞かれたくない!」

「えぇ……」

「なによ文句あるの!?」

「いやない。ないよ、ないから振り回さないで脳みそ溶ける」


 不満げな雨谷が万が一にでもアカウントを探さないよう、小見原は奴の記憶を吹き飛ばす勢いで肩を揺さぶった。すぐに雨谷が降参とばかりに両手を上げたので解放してやると、彼は気持ち悪そうにしながらテーブルのマイクを握り、こちらに差し出した。


「ん」

「え、何よ」

「せめてここで一曲歌ってみてよ。君の歌声が分からないと僕も曲作りに困るんだ」

「あ……うん、それぐらいなら、いいわよ」


 ここで歌うだけなら垢バレも免れる。小見原は慌てふためいていたさっきの自分を思い返して複雑になりながら、メロンソーダを一気に半分まで飲み干した。そしてマイクのスイッチを入れつつ画面に曲名を打ち込んでいく。

 選んだ曲はエルウナの『革新犯』。メディアにて歌うパリコレモデルと持て囃されているエルウナは、その評判通りに奇抜な格好でテレビに出演している女性歌手だ。顔立ちも本当にモデルのように美しく、アルバムの表紙に使われた彼女の顔を見て虜になった人は多い。

 小見原は性別年齢問わず、様々な歌手の歌い方を真似てきたが、エルウナの歌い方は独特で難しい。張りのある力強いがなりとビブラートは聴き心地が良く、疾走感のある凛とした声は何度聴いても心が弾む。


 ここでエルウナの歌い方を再現しろと言われたら、多分できると思う。でも今歌うのはYUIIに聞いてもらうため。だから自分自身を見せなくてはいけない。


 マイクを持つ手が震える。画面を見ている間は雨谷の顔を見なくて済むのが救いかもしれない。


 YUIIのために磨き続けた歌声を、ようやく本人に聞かせられる。


 画面に歌詞が表示され、声を出した。


 歌い出しは酷い声だった。音程が外れてお腹から声も出せていない素人の声だ。ボイストレーニングをサボったせいだとすぐに分かった。YUIIの正体を知って、あんな奴のために自分が努力していたなんてと、塞ぎ込んでいたせいだ。

 悔しさのあまり涙が滲む。リズムも信じられないほどズレていて声も出せない。心が軋んで悲鳴をあげているが、ここで踏ん張らなくてどうする。この日のために生きてきたんだと自分を鼓舞して、ダメなところを一つ一つ直す。

 直すためにはミスを自覚しなくてはいけない。今まで好きだった歌うことが嫌いになりそうだ。YUIIの前だから余計に辛い。


『Ah 素直じゃない仮面はいらないの 罪で汚れた素顔が見たいの』


 ようやく巻き返した時にはもう曲は後半になっていた。もう無駄なことは考えず、ただ歌い切ることだけを考える。


 やがて、曲が終わって画面の安っぽい映像がフェードアウトした。


 振り返るのが怖かった。とてもベストを尽くしたとは言えない歌で自分が情けなくなる。これでは雨谷の普段の態度に文句を言えない。下手くそと言われるより、普通より上手いと言われる方がもっと怖い。それで歌手なんて目指してるの、と、いじめられていた頃に言われた言葉まで蘇ってくる。


 勇気を振り絞って雨谷の方へ向き直ってみる。すると雨谷は小見原を見たまま全く動いていないらしかった。小見原にはその無表情が、どうやって曲作りを断ろうか思案しているように思えてならなかった。


 そも、雨谷に使った脅し文句なんて大したことではない。曲を作っていることが両親にバレても、ただ若い頃の黒歴史で済ませられる程度のかわいい脅しだ。しかも雨谷ほどの才能なら両親が馬鹿にしてくるどころか、作曲を応援してくれるかもしれない。

 一晩もすれば雨谷だってそこに思い至るだろうから、今ここで曲を作らない、と言われる可能性は十分にあった。


 ーーやっぱり私じゃ無理なのかな。


 後ろ向きな思考が溢れて、ウロウロと落ち着きのなかった小見原の視線は床に落ちた。そこへ、雨谷の声が滑り込んでくる。


「あのさ」

「は、はい!」


 驚きで声が裏返ってしまった。マイクを握りながら小見原が縮こまるも、雨谷は前髪の奥で双眸を煌めかせながら、まっすぐ見据えてきた。こんなに気持ちが透けて見える綺麗な目は初めてだ。沈んでいた気持ちが引き上げられてしまうほど強い眼差しに、小見原は期待せずにはいられなかった。


 ーーどうか、お願いします。


 手が白くなるまでマイクを握る。そしてゆっくりと、雨谷の唇が動き出した。


「凄く感動した。初めて本気で曲を作りたくなった。だから、君のお願い以上に僕からお願いしたいんだ」


 嘘。


「君のために曲を作らせてほしい。絶対に後悔させないから。お願いします」


 後頭部が見えるぐらいに深々と下げられた頭を、信じられない気持ちで小見原は凝視した。曲に対するその真摯な姿に自分が想像していたYUIIの姿が被る。同時に雨谷に投げかけられた感想の一つ一つが頭の中を駆け巡って、目の後ろでチカチカと瞬いた。


 感動したと、本気で曲を作りたくなったと言った。君のために。


 ずっと届かなかった積年の想いが、ようやく相手に伝わったのだ。


 小見原は視界が潤んでいくのに気づいて、慌てて雨谷に背を向けた。


 曲に対する熱意も、ファンに対しての真面目な姿も、メール越しでも伝わってきた本気も、全部、雨谷が今も持っていた。失われたわけではなかった。

 まだ純粋に成長を喜び合えていたあの時と、全く変わらない一面を垣間見てついに涙が溢れる。

 小見原は涙を隠すようにまた雨谷に背を向けて、ポーカーフェイスになろうとした。強気で性格が悪くて、我が強いクラスで人気な小見原唯になって。


「本気だから」

「え?」

「途中で投げ出したら、許さないから」


 吐いた言葉は間違いなく本心だ。


「ありがとう! 僕が君を絶対に歌手デビューさせるから! 絶対!」


 振り返った時に見えた雨谷の顔は本当に嬉しそうで、つられて小見原も笑顔になった。学校では絶対に見せない、心からの笑顔だった。


「そこまで言うなら、任せてあげる!」

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