どうせ世界を救うなら、ホワイト待遇で救いたい~勇者は社畜チートで世界を救うことにした~
リンドル王国の豪華絢爛な謁見の間にて。
立派な王冠を被ったふくよかな国王が、重々しく言った。
「よく来た、勇者達よ」
「「はっ」」
王の前に跪いているのは、キリリとした表情の見目麗しい2人の少年。
つい数日前に、占い師の預言により、辺境の村で発見された勇者達だ。
2人はとても高揚していた。
実は、この少年達は元日本人。
いわゆる社畜というやつで、徹夜明けにフラフラと歩いて帰宅途中、トラックにはねられ死亡。
気が付いた時は、2人揃ってこの世界に転生していた。
前世の記憶があったものの、2人はこの世界の人間としてすくすくと育った。
馬や牛を飼い、畑を耕し、木を伐る。自給自足のスローライフ。
以前とは正反対な生活に幸せを感じる一方、彼等はどこかに物足りなさを感じていた。
スローライフもいいけど、異世界っぽいことをしてみたい。
そんな時に、突然の勇者認定、王城への呼び出し。
2人が興奮したのも無理はない。
王は、困ったような顔をしながら事情を説明した。
「実は、世界中で魔王復活の予兆が次々と起こっておるのじゃ。人々の生活は魔物によって圧迫され、世界の滅亡の危機が近づいておる。
……勇者達よ、お主達だけが頼りじゃ。どうか魔王を倒して人々の平和を守ってくれ」
「「はっ」」
興奮を押さえつつ、ハモる2人。
世界平和を守ってくれとか、まじパねえ!
王は満足気に頷いた。
「そなたたちの成功を祈って、わしから贈り物をしよう! 受け取るが良い!」
騎士が、少年達の前に立派なトレイを置く。
2人は、まじまじと目の前に置かれたトレイの上を見た。
木の棒2本に、質素な布素材のローブ2枚、赤ちゃんの握りこぶし大の小袋が2つ。
少年の1人―――勇者Aが、恐る恐る口を開いた。
「王様。これは……、その、まさか、棍棒でしょうか?」
「ふむ。そう見えるか。では、試しに振ってみよ」
勇者Aは、木の棒を手に取ると、ブンブンっと、思い切り振ってみた。
辺りに爽やかな森の香りが漂う。
「この香りは……、もしかして、ひのきのぼう、ですか?」
「さすがは勇者。よくぞ見破った」
勇者Aは無言になった。
木の伐採を手伝っていた彼は知っていた。
檜は、加工しやすく、香りによる防虫効果があるため、箪笥等の家具には適しているが、武器には全く適していない、ということを。
そして、布素材のローブを広げて見ていた勇者Bもまた困惑していた。
「王様。あの、これは、布のローブ、ですか?」
すると、王の後ろに立っていた禿げた大臣が、髭をしごきながら答えた。
「いや、ただの布ではない。木綿である。簡単に洗える優れモノだが、皺になりやすいので注意するがよい」
勇者Bは呆気にとられた。
木綿は吸水性・通気性が良く肌触りが良いため、タオルや下着には適しているが、防具には全く適していない。
簡単に洗えるとか皺になりやすいとか、誰得の情報だよ。
(うーん。どうしよう……)
勇者達は途方に暮れた。
ちょっと香りが良いこんぼうと、お肌に優しい木綿のローブで、魔王が倒せるはずがない。
頼みの綱は小袋に入っているであろうお金だが、なにせ赤ちゃんの握りこぶし大。どう考えてもたくさん入っているようには見えない。
勇者Aは、思い切って口を開いた。
「あの、王様。何て言うか、こう、もっと勇者らしい装備や武器はないのでしょうか?」
すると、王は我が意を得たりとばかり、重々しく頷いた。
「おお、勇者よ。よくぞ聞いてくれた。実は、世界には勇者専用の『英雄シリーズ』が散らばっているらしいのじゃ。伝説では我が城のどこかに眠っているという噂もある」
「で、では、それを探してもらって、頂く訳には……」
すると、王は勇者Aの言葉を遮るようにガバッと立ち上がった。
「勇者よ、他に質問はないか?」
「(えぇー……。そこ流すんですか)……ええっと、それが駄目なら、せめてそちらの騎士様達が装備している剣と鎧を頂く訳には……」
必死に言いすがる勇者B。
王は笑顔のままゆっくりと目を反らすと、カッコ良くバッと手を横に挙げて言った。
「まずは仲間を探しに、城下町の酒場を訪れるが良い。
さあ、行け! 勇者達よ! 世界の平和はお主達にかかっておる!」
*
追い出されるように城から出た2人は、とりあえず城下町に向かうことにした。
「王様のあれって、絶対に有耶無耶にしようとしてたよね」
「俺もそう思う。てか、ひのきのぼうはありえねーだろ」
「それを言うなら木綿のローブも大概だよ」
「なーんか、この感じ、前世で覚えがあるんだよな~」
ぶつくさ文句を言いながら歩く勇者達。
人々が忙しそうに往来する繁華街を通り抜けること10分。
2人は街の外れにある酒場の前に辿り着いた。
思ったよりも大きな建物からは、昼間だというのに酔っ払いの笑い声が聞こえてくる。
「こ、ここ……、だよな?」
「ああ、うん、ここだね……」
こんな場所で、まともな仲間なんか見つかるんだろうか。
不安になりながらもドアを開けると、タバコの煙やら酒の匂いがする淀んだ空気が、中から噴き出してきた。
「うわっ」
「うぷっ」
顔をしかめて中をのぞく2人。
煙の向こうには、退廃的な光景が広がっていた。
転がる酒瓶。顔色の悪いマスター。
突っ伏している管を巻いている男に、「ぱふぱふ」と意味不明なことをぶつぶつ呟いている老人。
くるくると舞を踊りながらも、目が死んでいるバニーガール。
2人は無言でドアを閉めると、その場にしゃがみこんだ。
「なあ、俺達って、世界を救う勇者なんだよな?」
「うん。そういう話だね」
「世界を救う勇者のパーティメンバーを、こんな酒場で探すって、おかしいよな? まともな神経したヤツだったら、こんな場末の酒場に登録とかしてねーよな?」
「……そうだね、何か変だよね」
2人はしばらく話し合い、とりあえず情報収集することにした。
*
王との謁見の翌日。
2人は、海沿いにある隣町の船着き場にいた。
呼び込みをしていた船の船員が、愛想よく2人に話しかけた。
「よお! 兄ちゃん達、どっか行くのかい?」
「隣国に行きたいんだ」
「うちの船は、隣国の港町行きだ! 乗ってくかい?」
「ああ、頼む」
「じゃあ、乗船名簿に書くんで、名前を教えてくれ」
「傭兵A、と、傭兵B、だ」
「出稼ぎかい?」
「ああ。今の雇用主がドケチでね。もっと良い条件で雇ってもらおうと思ってるんだ」
街で聞き込みをした2人は気が付いたのだ。
王は、民衆の生活がひっ迫してきていると言っていたが、実際は街の物価も安定しており、人々は普通に暮らしていること。
騎士等の国家戦力が、全く魔王討伐に充てられていないこと。
2人が王からもらった装備やお金は、薬草10個分程度しかない、ということを。
「間違いない。俺達は低コストな労働力として呼ばれたんだ。大げさに言って同情をひいて、大変な仕事を安い賃金でやらせようって魂胆だ」
「……前の上司みたいだね」
2人は前世の上司を思い出した。
『今物凄く大変で困っているんだ』
『君達しかできない、頼むよ』
『ここで頑張ればスキルアップできるぞ!』
そんな言葉で2人に迫り、低賃金でとんでもない量の仕事を押し付けてきた。
給料はまるで上がらず、残業代もなし。
責任感を人質にされ、やる気が搾取される毎日。
「……僕、あんな生活もう嫌だよ」
「俺もだ。もううんざりだ」
でも、このままこの国にいれば、昔の二の舞は確実。
大量の厄介な仕事を、ただ同然で押し付けられるに違いない。
転生前は、搾り取られ疲れ果てながらも動けず、社畜のまま一生を終えた。
でも、今回はそんな人生お断りだ。
国は他に幾らでもある。
こんな国は捨てて、もっと条件の良い国に行こう。
転職だ、転職!
船員が声を掛けてきた。
「兄ちゃん達、何か用はないかい? なければ出発するぞ」
傭兵Aは尋ねた。
「確か、郵便も引き受けてくれるんだったよな?」
「おうよ! 正確、誠実、どこへでも、をモットーに、郵送業務もやってるぜ!」
傭兵Aは、やや大きめの布袋を差し出した。
「この布袋を、王城にいる大臣に届けてくれ」
「布袋の中身は何だい?」
「ああ、ひのきのぼうと、木綿のローブだ」
「へ? そんなゴミを、何で大臣に?」
「はは、ゴミか……。借りていたんだが、使わないから返すことにしたんだ」
「了解! 確かに預かったぜ!」
2人が船に乗り込むと同時に、船は出発した。
どんどん小さくなっていく港町。
どこまでも続く青い海と空をながめながら、傭兵Bが尋ねた。
「ねえ、隣国に着いたらどうする?」
「まずは、レベル上げと実績作りだろうな」
「そうだね! 日本でも、履歴書に書けるスキルと実績は多ければ多いほど良かったしね!」
これから始まる新しい生活。
心地よい潮風に吹かれながら、2人は心から笑い合った。
「どうせ世界を救うなら、ホワイト待遇で救いたいよね!」
「ああ、もうブラック待遇はお断りだ!」
ーーーーその後。
勇者達は、隣国の王から手厚い支援を受けることになった。
もともと社畜になるほど真面目な2人のこと。
地道に努力を続け、めきめきと頭角を現した。
竜種の討伐に、地下水脈の発見。
活躍は多岐に渡り、その名声は世界に響き渡った。
これを知ったリンドル国王は、大層慌て、何度も帰って来るように文章を送った。
「帰ってきたら最大の名誉を与える」
「娘をやる」
しかし、勇者2人は肩を竦めて苦笑すると、手紙を破り捨てた。
名誉で腹はふくれないし、好みでもない我儘娘をもらったところで煩わしいだけ。
何より、2人は前世の経験で、" トップが変わらない限りブラック体質は改善されない " ことをよく知っていたのだ。
このことを切っ掛けに、リンドル王国は衰退。
王と大臣は責任を取らされ追放。
そして、その2年後。
勇者達は、「仕事は抱え込まずに、みんなでやろう」の精神のもと、協力各国の騎士団・魔法士団と力を合わせて、手堅く魔王を倒したという。
世界を平和にしようと思ったら、みんなでがんばらないとね!