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第3話 無力なぬいぐるみと弟子入り志願

『……という感じで、俺は一週間前に目を覚ましたんだ。ぬいぐるみになっちまったのは流石に予想外だったけどな』


「へー、なるほどー」


『……ティアナ、お前もしかしなくても信じてないな?』


 物置にて、転生魔法を使ってからこの屋敷で目を覚ますまでの一部始終を語り終えた俺は、目の前に座る少女――ティアナの淡泊過ぎる反応を前にジトリとした視線を向ける。

 あははは、とその銀色の髪を撫でながら笑って誤魔化そうとする姿は、幼い容姿も相まって何とも可愛らしい限りなんだが、ここで誤魔化されてやるわけにはいかない。主に、俺の身の安全とかそういう意味で。


「いや、師匠が凄いのはさっきの魔法を見れば分かるんだけどね? ただ……」


『ただ?』


「そんなすごい人が、なんでうちのアッシュの玩具になってるの?」


『…………』


「ワンッ! ワンッ!」


 犬っころにぶんぶんと振り回されながら、俺はどう答えたものかと頭を抱える。


 いやうん、言いたいことは分かる。不気味とか以前に、今の俺はとんでもなく弱い。大賢者なんて言われても到底信じられないだろうなってくらいには。


 というのも、そもそも魔力って生物しか生成出来ないんだよ。つまり、今の俺は魔力ゼロ。文字通り一切の魔法が使えない状態だ。賢者なのに。


 じゃあ、さっきの魔法はどうやったかと言えば、ティアナの魔力を拝借して発動した。

 他人の魔力なんて普通は干渉出来ないが、俺くらいになれば余裕も余裕よ。ふふん。


 まあその代わり、魔力が無ければ文字通りただのぬいぐるみ、指一本自力じゃ動かせないんだけどな。いやもう、そろそろ離せよ!! いや離してくださいお願いします犬っころ様!!


「まあ、大賢者かどうかはともかく……あなたが魔法使いで、悪い人じゃないのは分かったよ。さっき助けてくれたしね」


『そうか。サンキューな、ティアナ』


 流石ご主人様と言うべきか、犬っころからさっと俺を取り上げ、その胸に抱いてくれるティアナ。

 まっ平な胸は柔らかさとは無縁だけど、何となく収まりが良い感じがする。なんだろうな、ここが俺の定位置、みたいな? やっぱぬいぐるみだからかねえ。


「それより、さっきの話だけど……私を魔法使いにしてくれるって、本当?」


 俺がぬいぐるみとしての自分の感覚に思いを馳せていると、ティアナから不安そうにそう問いかけられた。

 そこは俺としても規定路線なので、当然だとばかりに頷きを返す。


『ああ、立派な魔法使いにしてやるよ。任せとけ』


「私に……出来るかな?」


『もちろん。むしろ、素質は高いと思ってるぞ』


 俺がこのぬいぐるみの体になってから、今日まで凡そ一週間。弟子のニーミを探し出すために色々と調べ物をしてたんだが、その間、ティアナのこともずっと見てきた。

 誰も見ていない、それどころか陰口すら叩かれ続けている中、ただ一人成功する気配のない魔法を延々と繰り返し、来る日も来る日も鍛錬に明け暮れる姿を。


『魔法の強さは心の強さだ。もって生まれた才能なんかより、ずっと大事なものをお前はもう持ってる。だから自信を持て』


「っ……嬉しい、そんなこと言ってくれたの、お母様以外では初めて……!!」


『うおっ』


 ぎゅうっと思い切り抱き締められ、少しばかり苦しい。

 けれど、ティアナの喜ぶ顔を見ていると、それもすぐにどうでも良くなった。


「お礼に後で、解れたところちゃんと縫い直してあげるね!」


『お礼はティアナがちゃんと成長してからでも……って待て、俺の体解れてんの!? どこ!?』


「この首の後ろの辺り。アッシュが噛んだせいかな?」


『あんの犬っころぉぉぉぉ!!』


 絶叫するも、気付けば当の犬っころはどこにもいなくなっていた。逃げ足速いなあの野郎!


「ごめんね、アッシュにはしっかり言い聞かせておくから」


『まあ、犬相手に本気で怒っても仕方ないのは分かってるから、いいさ。それより……改めて聞くけど、どうする? 俺の弟子になるか? と言っても、断られても教えてやるけどな』


「どうして?」


『俺もお前と同じだ、魔法学園に行かなきゃならない理由がある』


 一週間の調べものの中で、俺は既にニーミの手がかりも見付け出している。

 どうやらあいつは今王都で、魔法学園の講師をやっているらしいのだ。

 俺の知っているニーミは、まだまだひよっこで危なっかしい子供だったから、それが他人に魔法を教えられるくらいに成長していると思うと、今から会うのが楽しみである。


 もっとも、この体じゃ自力で王都までなんて行けないんだけどな。


『俺がお前を、必ず魔法使いにする。だから、俺を王都まで連れていってくれ』


「っ……うん!! 私、どうしても魔法使いになりたいの……!! よろしくお願いします、師匠!!」


『おう、よろしくな』


 まあ、俺の打算的な部分を別にしても、こいつの成長を手助けしてやりたいと思ったのもまた事実だけどな。

 この素直で可愛らしい少女が、家族に冷遇されたまま潰されるところなんて見たくない。


『さて、それじゃあ早速、少し指導と行きたいが……どこかいい場所ってあるか?』


「うーん……一応、お父様には二度と魔法を使うなって言われてるからなぁ……メイドの人達にバレる分には、多少怒られるくらいで済むだろうけど」


 お父様が怒ると面倒だから、告げ口されないの。と、ティアナは語る。

 ある程度の事情は俺も把握してるけど、それにしたってやっぱり腹立たしいな。それが頑張ってる女の子に対する扱いかよ。


 まあ、それについてはティアナをしっかり育て上げて見返させてやるとして……問題は、そのための訓練場所をどうするか、か。


「人が来なくて、多少騒いでも大丈夫な場所……あっ、一つ良いところがあるよ!」


『おっ、どんなところだ?』


 無難なところだと屋根の上や天井裏なんかだろうけど、俺もこの屋敷の内装や周辺の地理に明るいわけじゃない。

 何かあるなら、とごく軽い気持ちで尋ねた俺だが、直後に返ってきたその場所を聞いて、すぐにそれを後悔することになった。


「それはね……お風呂場!」


『……は?』

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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[良い点] こいつ直接脳内に・・・!
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