表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

第21話 世間知らずのお嬢様

「なぁるほど、お前さん、いや貴女様がランドール家の娘さんだったとは……こいつは失礼した」


 ハウンドウルフとの交戦を終えた後、ひとまず安全なところまで、と王都に向かう中継地点の一つである町にやって来た俺達は、ガラシャのおっさんに連れられて町の定食屋へとやって来ていた。


 夜の定食屋は酒場ほどの賑わいは見せていないが、そこは貴族令嬢たるティアナ達に配慮した結果だろう。正直、全身装備のおっさんはかなり浮いていた。


「しかも、そちらはファミール侯爵家の……お忍びで王都まで、はいいのですが……出来れば俺には事前に一言欲しかったですな」


 そう軽く小言を溢しながらおっさんが目を向けたのは、対面に座るティアナやレトナではなく、自らの隣に腰掛けるふくよかな男性。

 俺達が同道させてもらっている商隊の長、ドルトン氏だ。


「ほっほっほ、いやまあ、こちらとしましても侯爵家のご令嬢からのご依頼とあっては、ほほっ、中々お断りもしにくいわけですよ、はい」


 何だか特徴的な語り口調のこの人は、ファミール家と個人的な繋がりがあるそうで……その伝手で今回の一件を依頼されたのだという。

 一歩間違えばランドール家を敵に回しかねないが、ファミール家が関わっている以上そこまで厄介事にはならないだろうし、恩を売るメリットの方がデカイと判断したんだろうな。


「まあ、迷惑どころか助けられちまった俺としては、文句を言える立場じゃありませんがね。ほらガデル、お前からもちゃんと礼を言っとけ」


「わっ」


 おっさんにバシンと背中を叩かれ、先ほどティアナが助けていたガデルが前に押し出される。

 そんな少年は、ティアナの前に立つと「うっ」と言葉に詰まらせながら、しばし逡巡するように視線を彷徨わせ……。


「……お、お前なんかに助けられなくても、自力でどうにか出来たんだからな!! 貴族だからって調子に乗るなよ!?」


「あっ、こらっ、ガデル!!」


 言うだけ言って走り去って行くガデルを見て、おっさんは深々と溜息を溢す。

 なんというか、大変そうだな。あの年頃の子供らしいといえばらしいけど。


「すみません、礼儀のなっていないやつで」


「私は大丈夫ですから、気にしないでください!」


「礼儀作法に関しては、ティアナも人のこと言えませんものね」


「も、もうレトナ~!」


 レトナにズバッと言われて恥ずかしそうにポカポカしているティアナだが、そもそもそういう行動自体が淑女としてはちょっとアレなことには気付いていないらしい。


 うん、可愛いんだけどね? 学園に行けたらそういうことも少しは学んでもらえるといいが。


「まあ、ティアナのことをみだりに言い触らさないで貰えるなら、私としても構いませんの。その辺りはどうですの?」


「ほほ、問題ありませんとも。町に入る前にきちんと釘は刺しておきましたから、大した噂にもなりますまい。ただ……」


「ただ……なんですの?」


 ここに来て、それまで穏和だったドルトンの表情に陰りが差す。

 先を促すようにレトナが問うと、彼の代わりにガラシャのおっさんが言葉を引き継いだ。


「実は、そのこととは別に問題がありまして。どうもこの先の街道で魔物の活動が特に活発化しているようでしてな、行き来する商人や旅人が襲われているようなのです」


「魔物、ですの?」


「ええ。それも、中には単なる魔物の仕業とは思えない被害もありまして……」


 なんでも、獣型の魔物に襲われ、逃げ帰って来た商人や旅人の話がいくつもあるだけでなく、街道で無人の馬車や荷車が置き去りにされているケースが散見されているらしい。


 特に荒らされた様子もなく、積み荷もそのままに、ただ人だけが忽然と姿を消している。

 魔物の仕業であれば血痕なりが残るはずだし、そうでなくとも食料品などは食い荒らされていて然るべきなのに、そうした痕跡もない。


 それはまた、何とも奇妙な話だな。


「なので、ここから先は少々魔物の出現位置を迂回するルートを通ろうかと考えているのです」


「具体的に、どんなルートですの?」


「こちら、地図ですが……今現在我々のいる町がここ、魔物がこの辺りの森を中心に活動しているようなので、この草原を抜けてこちらの町を目指そうかと。距離が遠いので、最悪野宿となりますが……その場合でも、五日ほどの遅れでどうにかなるかと」


「となると、日程は……シーリャ?」


「はい、多少厳しくはなりますが、どうにかなるかと」


 ずっとレトナの背後に控えていたシーリャが会話に加わり、ガラシャ、ドルトンの二人と情報の共有を行っていく。

 迂回するってことは、それだけ王都への到着が遅れるってことだからな。まだ余裕はあるとはいえ、確認は大事だ。


「師匠、レトナって凄いね、こんな難しい話が出来るなんて」


『ティアナ……』


 一方、うちの可愛い愛弟子はと言えば、地図を見てもさっぱり何を言っているのか分からない様子で、俺の体をモフモフと撫でまわして遊んでいた。

 うん、ロクな教育を受けて来なかった弊害……だと思いたいけど、せめて理解しようと努めなさい。話の途中なんだから俺で遊ぶんじゃありません。


「……というわけで、変更しても構いませんか?」


「私は問題ありませんわよ。ティアナもいいですわよね?」


「うん! よく分からなかったけど、間に合うなら大丈夫!」


「貴女という人は……」


 頭を抱えるレトナに、ティアナはこてんと首を傾げる。

 何が問題か全く分かっていない様子のティアナを見て、レトナはビキリと青筋を浮かべた。


「ドルトンさん、ルートの変更は了解しましたわ。出発は明朝でよろしいですわよね?」


「ええ、それで間違いございません」


「分かりました。ではティアナ、行きますわよ」


「えっ、ご飯は?」


 ここで食事を摂る気満々だったティアナが、レトナに腕を引かれて困惑の声を上げる。

 それに対して、レトナはクワッ!! と目を見開いた。


「食事なんて後にして、貴女はまず勉強ですわ、勉強!!」


「えぇ!? ま、魔法の鍛錬なら、ご飯食べた後にするつもりで……」


「魔法ではなく普通の勉強、座学ですわ!! 貴女勘違いしているみたいですけど、魔法学園にだって普通の座学はありますからね!? もちろん入学試験にも!!」


『えっ、そうなの?』


「当たり前ですわ!! 先生まで知らなかったんですの!?」


 今まで一度もティアナの口からそれらしい情報を一度も聞かなかったから、てっきり純粋に魔法について勉強するだけの場所なのかと思ってたよ。

 ということは、あれ? ティアナはひょっとしてまずいのでは?


「一応、一応!! 魔法の成績さえ良ければ入学は出来ますけれど、特待生入学を目指すなら座学の成績も無視できるものではありませんの! さあ、王都に着くまでにみっちり叩き込みますわ!! シーリャ、手伝いなさい!!」


「承知しました、お嬢様」


「うえぇぇぇぇ!? せめてご飯~~!!」


 ずるずると引きずられていくティアナの悲鳴が、定食屋の中に響き渡る。当然、ティアナに抱かれっぱなしだった俺も一緒だ。


 だから、俺達が去った後、残されたガラシャとドルトンの間で交わされた言葉を知る機会はついぞ訪れなかった。


「貴族であることを隠したがっている様子だったが、あんな大声で魔法学園がどうこうと言ってしまってよかったのか?」


「ほほ、まあ貴族令嬢といえど子供ですからな、感情が昂れば失敗もするということでしょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です [一言] 魔法「学園」なんだよなぁ…(むしろ師匠何故気付かぬw) 脳筋ティアナちゃんの特待生はありえるのか!?(無理だろうけど)
[良い点] ご飯を食べないと空腹感で集中できない ご飯を食べると眠くなって集中できない つまり、挟み撃ちの形になるな(レトナちゃんが)
[一言] ょうじょに体をまさぐられ続けても平然としている…! もしや不感しょ―
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ