第30話 守護騎士同士の戦い
サテライト王国の軍はまっすぐにラムリア王国に入り、城へ向かって進軍していた。
その軍を指揮するのはセミロングの髪と切れ長の瞳に整った顔、そして着ている黒いコートが特徴的な女性であるエスト・クランザーだ。
「できることなら戦闘は避けたいところだから、私1人で行こうと思っていたのだが…」
エストとしては穏便に事を済ませるために単身で来る予定だったのだが、主君であるダリア・サテライトの命令で小規模だが軍をつけられ指揮を任されてきたのだ。
(守護騎士は主を守ることが本懐。戦をするための駒ではないのだが…)
「エスト殿!こちらに向かってくる勢力を確認!いかがいたしましょうか?」
「仕方ない。迎え撃て!」
「はっ!!」
エストは戦いたくて仕方なさそうな兵共に命令を下すと、彼女が仕切っている兵達は嬉々として向かっていく。エスト自身は進んで戦う気はないため、静観する姿勢を取るが、しばらくもしないうちにエストは鞘から剣を抜くことになる。
「っ!!」
(ガキンッ!)
「誰かと思えば、ザルト殿ではないか」
「そう言うお前はエストだな。まさかお前がここに来るとは、なっ!」
エストが鞘から剣を抜いたのはザルトが突っ込んできたからだ。ザルトはサテライト王国兵達を無視して真っ先に軍を指揮しているエストに向かっていき剣を交えたのだ。
「ザルトのヤツ、真っ先に敵将のとこに行っちまってるなぁ…仕方ねぇ。オレ達は周りの雑魚を片付けるとするかぁ!」
後から追いついてきたオルクはザルトの方を見てから大剣を片手で軽く振り回すと、ジャンプしてそれを地面に叩きつける。するとその衝撃でサテライト王国兵達の数十人が一斉に吹き飛ばされた。
「了解っと。この数ならあたし達だけでもいけそうだね」
「それに、味方の兵がいないから思う存分、戦えるわね!」
アルフィは銃を撃ち、ライラは魔力の雷で生成した剣を振って次々とサテライト王国兵達を軽々と倒していく。
「こっちは気にせず、ザルトは存分に戦ってくれ!」
「ああ、そうさせてもらう!」
ザルトは剣に魔力の炎をまとわせると、それを見たエストも魔力を剣に纏わせてザルトと斬り結ぶ。2人の戦闘は常人が目で追えないくらいのスピードで展開されているため、オルクとアルフィ、ライラは戦闘をしながらもその光景にしばらく見入ってしまっていた。
「すげぇ…」
「あたし達でも目で追うのが精一杯なスピードだね」
「アレが守護騎士同士の戦いってやつなのね」
オルクとアルフィとライラはサテライト王国の兵士をその高い実力で蹴散らしてしまっていたため、残る相手は剣を交えているザルトが戦っているエストのみとなっていた。
「くっ…!?」
「さあ、どうする?エスト、残りはお前だけみたいだぞ?」
エストは気付くと相手していたザルトに加えてオルクとアルフィとライラの4人に取り囲まれていた。守護騎士であるエストであってもこれは多勢に無勢と思ったのか、大人しく降参の姿勢を取る。
「仕方ない。降参だ」
「なんだ。やけに素直だな」
「この戦、私は乗り気ではなかったんだ。だが、主の命には逆らえなくてな」
エストが素直に降参したのは、彼女が元々この戦には乗り気ではなかったためであるようだ。それを聞いたザルトはすぐに納得する。
「そういうことか。お前の処分に関してだが、俺では決められないから城に案内しよう」
「良いのかよ?コイツ、サテライト王国の守護騎士なんだろ?」
「ああ。それと俺とは旧知の仲でな。騙し討ちなんてできないくらいには真っすぐな性格だから、連れていっても大丈夫だ」
「もし何かあれば、あたしが手足を撃って動けなくすれば良いだけだからね」
「たしかにそうすれば良いわね」
アルフィとライラは武器を構えながら物騒なことを言っているが、エストがなにかしようとすれば2人は言葉の通り動くだろう。
「話もまとまったところで城に戻るか」
戦闘を終えたザルトとオルク、アルフィとライラはエストを連れてラムリア城に向かっていった。
「…こうなるとはなんとなく予想していましたが、ひとまずは報告に戻らないといけないですねぇ」
暗がりから事態を見守っていた謎の女性はそう言うと、魔法でその場から瞬間移動で姿を消したのだった。




