第22話 襲来する者
街をしばらく歩くとミネルバとアオラの持っているスマートフォンが同時に鳴ったため、2人は一度、立ち止まってポケットからスマートフォンを取り出す。
「リアナから?」
「何でしょうかね?」
ミネルバとアオラのスマホにリアナがメッセージを送ってきたようで、2人はそれを確認すると、こう書かれていた。
『あなた達のいる場所に怪しい2人組が近付いてきているの。もしかしたら戦闘になるかもしれないから注意して』
「っ!?ミネルバ様!」
メッセージを確認したアオラが慌てたような表情でミネルバに声をかけるが、ミネルバは手で制止する。
「待って。ここで慌てたら相手に気付かれたと思わせちゃう。アオラはシャーロットとオルクにこっそり教えてあげて。私はザルトに教えるから」
「…わかりました」
ミネルバの指示を聞いたアオラはシャーロットとオルクに小声でこっそり教えて、ミネルバはザルトのところに来る。
「ミネルバ?どうしたんだ?」
「これを見て」
ミネルバはそこでザルトにリアナから送られてきたメッセージを直接見せる。言葉で説明するよりも見せた方が早いからだ。ザルトはそれを見るなり、剣の鞘に手を置いてみせた。
「そういうことだから、いつでも戦えるようにしておいて」
「わかった」
「ねえ、ミネルバ。あたしに良い考えがあるんだけど、良いかな?」
ミネルバとザルトがこそこそ話していると、アオラから詳細を聞いたシャーロットが割って入ってくる。
「何かな?」
「それはね…」
そこでシャーロットが提案したやり方はミネルバもザルトも驚くものであったが、それをやってみることもありだと思える内容だった。城下町の中には構造上、人目につきづらい場所も当然のようにあるため、シャーロットの作戦に乗ったミネルバ達はあえてここに来ていた。
(ドンッ!)
(キィンッ!)
この場所に着いた瞬間に銃撃の音が響いたため、ザルトが剣を鞘から抜いて飛んできた弾を的確に弾いた。その状況を見てシャーロットが口を開く。
「おっと。早速、誘いに乗ってきたね!」
「ウォールバリア!」
ミネルバは杖を取り出すと魔力を使って自分と周囲を覆うバリアを作り出した。これにより、ザルト達の周囲も丸ごとバリアで守られることになった。アオラは銃を取り出してミネルバを守るようにして前に立つ。シャーロットもいつでも戦闘ができるように短剣を鞘から引き抜いて構えている。
「アオラ。今、私達を狙ってきている相手を探して撃てる?」
「もう少しお待ちを。ザルトさんが防いでくれているところから探していますので!」
ミネルバの指示を受けたアオラは銃を構えながらも自分達を撃ってきている相手を探している。
「オルク!」
「おうよ!」
シャーロットが呼ぶと、オルクが大剣で銃撃を防ぎながらも返事をする。銃撃は時折、ザルトが対処できない場所にも飛んできているため、そこはオルクが大剣で防いでいる。
「アオラが敵を見つけたら大剣でそいつがいるところまでアオラを飛ばしてあげることって、できる?」
「そいつは問題ねぇが、その前にアオラ!」
「は、はいっ!何でしょうか?」
オルクに話しかけられたアオラは敵の位置を探りながらも返事をする。いつもは明るく振る舞うアオラだが、戦闘になると冷静な口調になるため語尾も伸ばしていない。
「跳躍力に自信はあるか!?」
「はい!身体能力には自信ありますよ!」
「上等だ!敵を見つけたらすぐに教えてくれぇい!」
「わかりました!」
「!?ザルト!前!」
ミネルバがザルトに声をかけると、ザルトの前に突如として新たな敵が現れて彼に向かって斬りかかってきたため、ザルトはその相手をせざるを得なくなる。
「くっ!?こんな忙しい時に!」
「あの人の邪魔はさせない!」
ザルトに斬りかかってきたのは金髪ロングの女性で、剣を持ってザルトと斬り結んでいた。ザルトが銃撃を弾けなくなってしまったため、その役目をオルクが引き継ぐ。
「っ!?見つけました!」
「どこだ!?」
アオラはずっと構えていた銃から魔力を込めた弾を数発放つと、当たりだったのか銃撃が一時的に止んだためアオラはそこを指差した。
「あそこです!屋根の上!」
「おうよ!アオラ、コイツに乗れ!」
「はい!」
オルクは大剣の矛を人が乗れるくらいの低さに持つと、アオラは華麗にジャンプしてそれに乗る。
「オレがコイツを上げるタイミングで敵がいる位置に飛べ!」
「わかりました!」
「行くぜぇ…おらああぁ!」
オルクはそこで大剣を思いっきり上に上げると、そのタイミングに合わせてアオラが飛ぶ。アオラは身体能力が高いため、跳躍力もかなりのものである。その飛距離は敵が狙撃してきている屋根の上に届くほどであった。アオラはミネルバが張っているバリア圏内からは出てしまったため、すぐに相手を銃撃できるよう銃を向けながら着地すると目の前に自分達を狙撃していたと思われる者がいた。
「見つけましたよ!あなたが狙撃手ですね!?」
「よくここがわかったね。さすがだよ」
アオラの前にいたのは切れ長な瞳と白い髪、白い服と黒い長ズボンが特徴の女性だった。その者はアオラに向けて銃を向けていたため、アオラもいつでも銃撃できるように銃を向ける。
「なぜ私達を撃ってきたのですか?」
「君達を試すため、といったら信じてくれるのかい?」
「試す…?それにあなたは?」
アオラが銃を向けながら白い髪と白い服装の女性と対峙していると、地属性の魔法で岩を創り出してそれに乗ってきたシャーロットがアオラの隣に着地する。
「シャーロット王女!なぜ来たんですか!?」
「もちろん、アオラの加勢に。ふーん、それにしても…驚いたよ。まさか相手が白き射撃者だったなんてね」
「白き射撃者?」
「異名だけどね。本名はアルフィ・ラトレーゼ。狙った相手は絶対に逃さない上に外さないで有名な暗殺者なんだけど、今回はなんでわざと外しながら射撃してきたのかな~?」
シャーロットはアオラと話した後にアルフィという名前の女性の方を見ながら質問をぶつける。
「そう言うお前はアストロ王国の王女シャーロット・アスランか。アストロ王国の王女様がなんでこんなところにいるんだい?」
アルフィは目の前にいる相手がシャーロットであることがわかると、さすがに王女に対して銃を向けることは失礼に値すると思ったのか、向けていた銃を一旦降ろした。
「今回は色々と事情が重なってね~。それにしても、あたしが考えた作戦にまんまと嵌ってくれたよね」
「作戦?」
「あえて人目のつきにくい場所に移動してくることで行動を起こしてくれると思って、誘い込んだんだ」
シャーロットが考えた作戦はあえて人目がつかない場所に行くという至極単純な作戦ではあるが、アルフィ達はそれに誘い込まれたというわけだ。
「なるほど。あたし達はそれにまんまと誘い込まれたというわけか。やるね」
シャーロットが考えた作戦を聞かされたアルフィは感心したような表情をしていた。




