第1話 守護騎士と姫の運命の出会い
――ラムリア城、謁見の間。
守護騎士が来たという連絡を受けてこの場に来たミネルバは玉座に腰掛ける。アオラはそんなミネルバの側に控える形で立つ。ミネルバは身の丈ほどの杖を持っているが、これは彼女が王女である印であり、戦闘において使用する武器でもあるのだ。
すると、そこに先程までミネルバとアオラが話していた守護騎士が歩いてくる。その守護騎士は赤髪と切れ長な瞳が特徴的な男性で、白のカジュアルシャツの上に長袖の茶色のジャケットを着用しており、青のスラックスという出で立ちであった。
「お初にお目にかかります。俺は今日からミネルバ姫の守護騎士を務めさせてもらうことになった、ザルト・シュバルツといいます」
ザルト・シュバルツと名乗った守護騎士の男性は騎士らしく丁寧に自己紹介をする。続いてミネルバとアオラが自己紹介をする番だ。
「初めまして。私はこの国の王女であるミネルバ・ラヴィリア。こっちは…」
「ミネルバ様の筆頭メイド、アオラ・クルミエールと申します!」
お互いの自己紹介が終わったことでアオラが何やら書類を取り出してザルトに向かって話し始める。
「ザルト・シュバルツさん。守護騎士ランクはSSランクとかなりの実力みたいですけど、今からその実力を少しばかりお見せいただいてもよろしいでしょうか?」
アオラが持っている書類はザルトについて簡単に纏められているものだ。それにはザルトの名前や出身、守護騎士ランク等が書かれている。
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です。私としては、それなりの実力がなければミネルバ様の守護騎士を務めさせるわけにはいきませんので、申し訳ございませんが一戦お付き合いいただけませんか?」
アオラが今にもザルトに戦いを挑みそうな雰囲気を醸し出しているため、ミネルバがザルトに話しかける。
「ごめんなさいね、ザルト。うちのアオラがあなたにそれなりの強さがなければ私の守護騎士にしたくないって聞かなくて…」
「ああ、そういうことなら大丈夫ですよ。俺としても実力を見せられる良い機会ですし」
ザルトはそう言いながら鞘に手を掛けていることから、戦うことに対しては満更でもないようだ。
「決まりですね!それではミネルバ様。行ってまいります!」
「それは良いけど、危なくなったら止めるからね?」
早速、ザルトとの模擬戦をしようと張り切っているアオラにミネルバが声を掛ける。ミネルバとしてはアオラにもザルトにも無茶はさせたくないため、危なくなったらすぐに止めるつもりでいるようだ。
「わかっていますよ~!」
アオラはミネルバとそんなやりとりをすると、ザルトの前に立つ。アオラは普段から動きやすいように膝丈のメイド服を着ているため、戦闘をする上でもこのままなのだ。
「それでは…参ります」
「ああ。いつでも良いぜ」
ザルトは鞘から剣を抜いてから臨戦態勢に入る。アオラもいつもは笑顔を浮かべているが、この時ばかりは真剣な表情になる。
その直後にアオラは目にも止まらないスピードで銃を取り出してザルトに向かって数発ほど発砲する。
「っ!」
ザルトはアオラの放った銃撃を巧みな剣撃で難なく全てを防ぎきってみせる。それを見たアオラは感心したような表情になっていた。
「なるほど。さすがは守護騎士…といったところですね!」
「まあな。と言いたいところだが…今のはほんの挨拶代わりなんだろう?」
「そこまでわかっているのなら話は早いです!それならここからは少しばかり本気で行かせていただきますね!」
アオラは今の射撃が挨拶代わりであることを見抜かれていたことを知ったことで少しばかり本領を発揮するために銃撃を激しいものにする。ザルトは自分に当たりそうな銃弾は剣撃で弾き飛ばしながらもかなり速いスピードでアオラに近付いていく。
(凄い。並大抵の相手ならその銃撃で近付けさせないアオラに確実に近付いていく…)
ミネルバは玉座に座りながらもザルトとアオラの対決を見守っている。アオラは並大抵の相手であればその実力と射撃で近付けさせずに倒せるのであるが、ザルトはそんなアオラの射撃をかわしたり弾き返しつつも確実にアオラに近付いていく。
「烈衝破!」
「おっと!」
ザルトは攻撃が届く範囲にまで近付くと剣から衝撃波を放つ。アオラは間一髪でそれを軽快な動きで躱して即座に連続射撃をする。しかしザルトはそれを躱しながらも剣撃で弾いていく。
「では、こんなのはいかがでしょうか?アイスバレット!」
アオラはただ連続射撃をするだけでは埒が明かないと思ったのか、弾に氷属性の魔力を込めて連続して放つ。その場で留まって射撃をするとまたザルトに近付かれるということがわかっているため、アオラは移動しながら連続射撃をザルトに向かってお見舞いしていく。
「なるほど、そう来るか」
ザルトは弾き返すスタイルを取るが、愛用している刀身に炎を纏わせてアオラの氷属性の魔力が宿った弾を弾いていく。
「まさか…ザルトさんは火属性の使い手ですか!?」
「そういうお前は氷属性の使い手か。これは俺の方が相性は良いが、あくまで属性だけでの話だがな」
ザルトは火属性の魔法を、アオラは氷属性の魔法を扱うことがここでわかったが、相性の観点からすれば、ザルトの方が有利ということになる。
「たとえ相性が不利でもミネルバ様を守るためなら、諦めませんよ!」
アオラとザルトはそこからしばらく戦っていたが、2人の実力は拮抗しているため、こうなるとどちらかの体力が尽きるまでのジリ貧の戦いになりそうだったため、ミネルバがアオラに声を掛ける。
「アオラ。そろそろ良いんじゃない?ザルトの実力は充分わかったでしょ?」
「まだです!まだ私は戦えます!」
「それでも、だ~め」
先程まで玉座に座っていたはずのミネルバはいつの間にかアオラの背後に現れると、彼女のことを後ろから優しく抱きしめた。
「っ!?ミネルバ様!?」
「アオラが怪我するところなんて私、見たくないもん。だから…もう良いでしょ?」
「はい…わかりました」
やはり主の言葉には逆らえないのか、ミネルバの言葉でアオラは大人しくなった。それを見たザルトは剣を鞘に収める。
(仲が良いんだな。まるで姉妹みたいだ)
ミネルバとアオラのやりとりを見て、ザルトはそんなことを思いながら微笑んでいた。




