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蒼色のラクガキ  作者: 木下正裕
5/5

#5




センセーはそうやって、いつにも増して真面目な表情を広げて語り始めた。





・・・





教師になって3年目。親元を離れて暮らしていて金銭的に苦しかった大学生時代に、全品350円均一の大衆居酒屋でたまたま知り合った国語の先生と仲良くなって、この私立の学校に赴任した。なんとなく履修した教職課程が、こんな形で実を結ぶなんて入学当初じゃ考えられなかった。





けど、





(ホントにこのままでいいのか。)


(俺がやりたいことってこれなのか。)





なんて哲学的堂々巡りみたいなこと、文字通り四六時中考えてた。





ある日の帰り道の夕方5時半。雨の予報なんて一切なかったのに、公園のベンチで一人傘をさしているおじいさんがいた。変だなって気になってたけど、話しかける勇気や度胸なんてまるでなく、少し離れた歩道から眺めるだけだった。





そして、そのおじいさんは次の週も、また次の週も同じ木曜日に現れた。快晴なのに、傘をさして。


3回目にして、とうとう俺はそのおじいさんに話しかけることにした。





【あの、おじいさん。今日は雨、降ってないですよ。】


「知ってますよ。」


優しく微笑んだおじいさんの表情は柔らかくて、初めて会ったとは思えない暖かさに包まれた。


【じゃあ、なんで傘を?】


「ばあさんが雨、好きでね。いつも子供みたいにはしゃいでたよ。一つの傘にわざわざ二人入ってね、よくこの公園に散歩しに来てたのさ。」


【今日はおばあさんは?一緒じゃないの?】


「一緒に来たいんですが、もうできないんですよ。よりにもよって雨の日に、他界してしまいました。」


なにも言葉が出せない自分が、どこか悔しかった。


「もうこんな年だから、ばあさんのことを忘れていくのが怖いんですよ。だから今でもこうやって雨なんて降ってなくても週に一回だけ、傘の左側を少し空けて散歩してるんです。」





・・・





【そのときに、雨でも幸せに感じる人がいて、もちろん晴れでも幸せに感じる人がいる。天気っておもしろいなって思ったよ。答えになってるか?】


『素敵な話...』


【だから、なんと言うか、当然と思ってることが当然じゃなかったりするんだよ。自分たち人間はさ、なんでもかんでも決めつけて、可能性を切り捨てがちなんだよ。自分に才能はない、戦争はもう起きない、お隣さんは優しいとか、そういう判断をするには、何年あっても足りないんだよ。】








高校二年生のワタシにはちょっぴり難しそうなこの話が、スーッと心のノートに上書きされた。








→→→ #6

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